第3話 双子の人形
「よいしょっと」
スーツケース、リュック、手提げバッグ、ポシェットの中身を全て出してやっと整理が終わった。
これから3年間使うこの部屋にはもともとベッド、机椅子、クローゼット、本棚があった。
本棚にはもちろん、私の愛読書の「少年探偵ハル」の小説全巻がずらーっと並んである。
漫画より小説の方が値段的に安いから小説の方を全巻揃えたんだ。
学校は明日からだ。
制服は既に部屋のフックにかかっていて、教材も届いている。
近所の私立の高校に私は入学することになっていて、手続きも済んでいる。
どんな高校なのかな。
私立だから設備は良いよね。
制服も可愛いし。
よし、あとは鞄を直すだけだ。
そのとき、ギィと戸が開く音が聞こえた。
な、何、今の音。
風で開いちゃったのかな。
戸の方を見ると、少しだけ戸が開いていた。
あれ、私さっき閉めたはずだよね。
勝手に開くことなんて絶対にないし、叔母さんが帰ってきたのかな。
おそるおそる戸に近づくと、戸の前にやはり誰かがいる。
叔母さんではなさそう。
叔父さんでもないからいるのは例の子しかいない。
何だかモヤモヤするので、普通に戸を開けてみる。
「わっ!?」
私が来るとは気づかなかったのか、向こうが1番びっくりしている。
でも、私は別のことにもっと驚いた。
びっくりするくらい綺麗な双子が目の前にいたからだ。
男の子は白いシャツに紺のベスト、黒いズボンを着ていて、女の子は同じ白いシャツに黒いリボン、黒いスカートを履いていて、2人ともものすごく可愛い。
1人は男の子で、黒いメガネをかけている。
黒髪もサラサラで、肌も雪のように白い。
顔立ちも整っている。
切れ長の瞳は大きく見開いている。
学校でもモテるんじゃないかな。
もう1人は女の子で、男の子の腕にしがみついている。
同じく黒髪で腰あたりまで長いのに絹のようにサラサラで綺麗。
二重のくりっとした大きな目はなぜか怯えるような色で私を見ている。
2人とも、小学生くらいかな。
お人形みたいに綺麗で可愛らしい双子だ。
あれ、でも、似てるようで似てないかも……?
「え、えっと……どうかしたの?」
私から声をかけると、男の子はキッと私を睨む。
うわ、かなり鋭い視線。
なんか、警戒されてる?
「別に。居候がどんなやつか見にきただけだ」
い、居候。
間違ってはないね。
それにしてもキツい話し方だ。
こんな可愛い顔から想像できなかったよ。
「そうなんだ。これからよろしくね」
「仲良くする気なんかない。よっぽどの用がない限り僕達に関わるな」
男の子の視線がさらに鋭く、痛く刺さる。
ああ、叔母さんが言っていた「そっとしといて」はこういうことか。
反抗期ってやつかな。
女の子の方は怯えていて、目も合わせてくれない。
一体何に怯えているんだろう。
人見知りなのかな。
「行こう、花凛」
「う、うん……」
2人は私の部屋から離れて、1階に降りてしまった。
しまった、名前聞いておけば良かったなぁ。
でも、女の子の方は花凛ちゃんっていうみたい。
男の子の方は叔母さんに後で聞いてみよう。
男の子と鋭い瞳、花凛ちゃんの怯えている瞳。
男の子の方は反抗期ってのがあるかもしれないけれど、花凛ちゃんは何であんなに怯えているんだろう……
ただ怖がっているようには見えなかった。
強いて言うなら、「人間不信」のように私は見えた。
考えてもわからない。
でも、まともに話せるようになるにはかなり時間がかかりそう。
そうだ、こういう時は愛読書を読もう。
本棚から1巻を取り出す。
表紙は主人公のハルが満月の下でニヤリと笑っているイラスト。
この表情に落ちてファンになる人が多いんだ。
私もその1人だ。
ハルの両親は殺されたからハルは施設に住んでいたんだけど、とある男性が養子として引き取ってくれて、実はその男性は探偵だった、と言うシーンから始まる。
探偵である里親についていったら自然とハルも探偵ぽくなるんだけど、謎の事件で里親は殺されてしまう。
そして10年後ハルは里親の探偵事務所を継ぐことになるんだ。
継ぐだけでなく、里親を殺した犯人を見つけるために。
最初ちょこまかしててものすごく可愛かった少年が大きく成長して高校生探偵になって、その成長がすごいっていうファンもいる。
加害者に対してはものすごく怖いし、被害者に対しては優しく寄り添う。
たまにどこか抜けていたり、意外な素面もあったり、そんな部分も良い。
私もハルみたいな人になれたらなって思う。
両親も肉親も殺されたのに関わらず、たくさんの事件を解決して、たくさんの人に寄り添って、犯人を捕まえている。
そんなハルの姿に心打たれた人は少なくはない。
ほとんどのファンは感動している。
叔母さんが帰ってくるまでの間、私は愛読書をずっと読んでいた。
双子の人形探偵 陽菜花 @hn0612
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