第2話 探偵組織

「真田」と書かれた表札。

奥にそびえ立つ家はシンプルなデザインだけど、立派な家だ。

住宅街の中ではかなり広くて大きい家なんじゃないかな。

柵と門の高さはかなり高いし、防犯対策もしっかりしてるように見える。


インターホンを押す。

静かな住宅街に響く間抜けなインターホンの音。

すると、すぐに「はい」と声が聞こえた。


「あ、こんにちは。これからお世話になる結城聖奈です」


「ああっ!ちょっと待っててね!」


出てくれたのはきっと叔母さんだ。

数分が経って、門が開いた。


「こんに、」


「聖奈ちゃん!よく来たね!さ、早く入りなさい。ああ、荷物持つよ」


ぐいぐい背中を押しながらスーツケースをサッと手に取る叔母さん。

焦ってるようにも見えるけれど、一体どうしたんだろう。


門を通り抜けると、小さな庭がある。

叔母さんが手入れしているのかな。

あれは何の花かなあ。


すると、前を歩いていた叔母さんが振り向いて私を見た。


「遠くて大変だったでしょう」


「え、ま、まあ……」


「あとでお茶を用意するからね。ゆっくりしていきなさい」


「は、はい」


さっきの焦った声とは違い、今はのんびりしている。


庭を少し進むと、家が見えた。

白を基調とした何だか上品な雰囲気の家。

2階にはバルコニーもある。

や、やっぱり、この家だけ少し豪華、だよね。

叔父さん、お金持ちなのかな。


叔母さんが玄関の戸を開けた。

ドアに何かぶら下がっていて、よく見ると『Detective Organization』と書かれている。


玄関で靴を脱ぎ、叔母さんは先に部屋を案内してくれた。

2階の北側の部屋。

とりあえずそこに荷物を置いて、荷物整理は後。

1階のリビングに向かった。


「聖奈ちゃんが来たわよ」


リビングのソファ。

そこにだらーんとだらけている40代くらいのおっs、いや、おじさん。


「おー。来たんか」


視線だけこちらによこす。

あれ、叔父さんってこんな感じだっけ。


「全くだらしないわね」


叔母さんは呆れてるけど、慣れてるのか苦笑いしている。


「ほら、あなたたちも挨拶しなさい」


あれ、叔父さんと叔母さん以外にも誰かいるんだ。

お母さんから聞いた話では2人には子供はいないって言ってたはずなんだけど。


リビングの戸に隠れるように誰かがこちらを見ていた。

顔だけ覗かせて、鋭い目で私を見ている。

たぶん、男の子だと思う。


「ごめんなさいね。あの子見知りで……」


「えっと、お子さんがいたんですね」


「子供ではないわ。養子として引き取っているのよ。まあ、戸籍上子供なんだけどね」


「養子、ですか」


「ええ。あの子達、両親がいないから」


両親が、いない。

事故とか、病気で亡くなったのかな。

きっと悲しくて、辛いだろうな。


そして、パタパタとリビングの戸から離れて行ってしまった。


「それと、聖奈ちゃん」


叔母さんの声色が変わった。


「はい」


「外に出る時は、無闇に1人で行かないようにね。これだけは守ってちょうだい」


「えっ、あ、はい……?」


「学校に行く時も帰る時も私が行くからね」


「は、はい。わかりました。よろしくお願いします」


どうしてだろう。

最近事件とかあったのかな。


さっきからずっとだらだらしている叔父さんも少しだけ表情がこわばっていた。


「そういえば、玄関の戸に『Detective Organization』ってありましたよね。もしかして、叔父さん探偵やってるんですか?」


「ああ、そうやで」


いや、平然と「そうやで」って言わないで!?

普通にすごくない!?


てか、何で叔父さん関西弁なんだろう。

叔父さんはお母さんのお兄さんにあたるけど、別に関西地方に住んでたわけではないと聞いている。


「探偵組織なんてものがあるんですね」


Detectiveは探偵、Organizationは組織という意味だ。


「まあな。イギリスの探偵学校卒業者しか入られへんのや。まあ、その協力者は卒業してなくても18歳以上なら入れる。例外もあるけどな」


今スラスラとすごい言葉出てきたけど、叔父さん探偵学校に通ってたの!?

しかもイギリスの!?

今こうやってだらだらされてるけど、すごい人なんだ……


「てことは、叔母さんは協力者なんですね」


「そういうこと」


叔母さんはキッチンから紅茶を運びながら返事をした。


探偵組織か……


私は小さい時から探偵に憧れている。

アニメの影響もあるけれど、探偵ってかっこいいもん。

家の本棚には探偵の本がいっぱいだし、他にもグッズはいっぱいある。


けど、探偵は身近にいるものじゃない。

アニメだけだって思ってた。


「そろそろ買い物に行かないと。ほらついてきて」


「はいよ」


叔父さんは顔色ひとつ変えずにソファから起き上がったリビングから出た。


「聖奈ちゃん、早速悪いんだけど留守番お願いしても良いかな。あの子達はそっとしてくれたら良いから」


「はい、わかりました」


叔母さんもリビングから出て行った。


ずっとゆっくりするわけにはいかないし、荷物整理でもしておこうかな。

叔母さんが用意してくれた紅茶を飲み切って、キッチンで丁寧に洗う。


それにしても、さっきの子はどこに行ったんだろう。

叔母さんはそっとしてって言ってたけど、少し気になる。

荷物整理をしたら様子は見ておこうかな。



私がこの街の本性を知るのはまだ先のことだった。

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