第1話 どこか奇妙な街
『—―…ぎは、…みえきー。北見駅ー…』
車内放送が耳に流れ、重たい瞼をゆっくりと開いた。
窓から差し込む光が眩しい。
目を擦りながら見渡すと、バスの中には私—―
妙に静かだと思った。
「って、北見駅……?」
窓の外は静かな住宅街が広がっている。
たしか、車内放送は北見駅だと言っていた。
降りないとだ!!
目の前の降車ボタンを押す。
私と運転士しかいないバスの中にベルが不協和音のように響いた。
足元のスーツケース、リュック、手提げバック、ポシェットをそれぞれあるかを確認してすぐに降りれるように準備をする。
……うん、ちょっと重い。
バスは減速し、ロータリーに入ったのか大きく曲がる。
窓を覗くと、真昼間だからかバス停には誰もいない。
バス停の奥は駅で、電車が発車したところだった。
『北見駅ー。北見駅ー』
バスが停車し、私は荷物を抱えながら出口に向かう。
運転席の横でパスケースをピッとあてて、スーツケースを持ち上げながらようやくバスから出ることができた。
バスは静かにロータリーを出発した。
しーんと静まり返るバス停。
「……ここ、であってる、よね……?」
あまりにも静かすぎて不安になる自分がいる。
本当に、誰もいない。
「ま、いっか」
スーツケースをごろごろ転がしながら、目的地へ向かう。
改めまして、私は聖奈。
もうすぐ高校生なんだけど、両親が海外に出張することになったから、これから叔父さんの家に高校卒業まで住むことになったんだ。
新しい街にワクワクしてはいるんだけど、見ての通りこの妙に静かな奇民町に叔父さんは住んでいる。
ロータリーから離れると、ようやく人が歩いている光景が見えた。
老夫婦が手をつないで会話したり、小さい子とそのお母さんが犬の散歩をしたり、女子学生がコーヒーショップの前で冷たい飲み物を飲んだり。
銀行やカフェ、スーパーに公園。
電柱や掲示板には詐欺防止のポスターや行方不明者のポスターが貼られたり、どのお店にも110番目印のステッカーが貼られていたり。
至って普通の街だ。
何だ、ロータリーに人がいなかったのはたまたまだったんだ。
「まあ、それにしては静かすぎるけど……」
そこだけちょっと不思議だ。
その時、背後から妙な音が聞こえた。
恐怖を感じて振り向くと、帽子を深くかぶり、白いTシャツの上に黒い上着を羽織った男性が猛スピードで走っていた。
「な、なに……?」
私はサッと道端によった。
男性が私の真横を通り過ぎると、一瞬目が合った。
ぎろっと細い目の横に黒子、髪は短髪、耳と口にピアス。
首に何の模様か分からないタトゥー。
チッと舌打ちのような音が聞こえた。
……え、感じ悪。
「ひったくり、だったのかな……」
男性はスピードを下げずに走り続けていた。
なーんか、違和感を感じた、ような。
うーんと考えても分からないので先に進むことにしよう。
ここからあと5分くらいだ。
スーツケースを持ち直してまた歩く。
「えっと、ここを左、だ」
スマホの地図アプリを確認しながらゆっくり歩く。
ここからは住宅街。
ここまで来たらアプリなしでも行けるかな。
スマホをポシェットに入れる。
この時、どこからかの悲鳴に私は気づかなかった。
あなたは違和感に気づけましたか……?
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