終章

 あの日の出来事を私は今でも覚えている。

 静かな暗い海に沈んでいく豪華客船であったアルディニック号。遠くに聞こえる沢山の人達の悲鳴と困惑の声。

 あの日、自分は助かったけれど、船に残り続けて沈んでいった者達もいるということを、決して忘れてはならないと強く思う。

 もし、あの日、私が船に乗っていなかったら、セレクとカイル。そんな二人に出会うこともきっとなかったであろう。


(カイル、貴方と出会えたあの日のことを私達はずっと忘れないわ)


「これからもずっと」


 ティーナはそう呟き、あの日のことを記した分厚いノートを丁寧に開き、最初のページに挟まっていたあの日、セレクが描いてくれた絵にそっと触れる。


「ティーナ、早く来てくれ。母さんと寝ないとやだって言って、中々、寝ようとしないんだよ」

「わかったわ。今、行くわね」


  困り果てたセレクの助けを求める声にティーナは苦笑し、返答し、部屋を後にした。


 机の上に残された開かれたままのノートが、部屋の窓から入ってくる心地良い夜の風によって、パラパラと捲れる音がその場に響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遠いあの日の約束 藍凪みいろ @__Nayu__ru__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ