人生最大の危機一髪!決して失敗ではない

くまの香

人生最大の危機一髪!決して失敗ではない

くまの香、性別女性。二十代前半の頃の話である。


 あの頃の私は、社会で働くストレスでかなりの生理不順を抱えていた。

 順調な方はたいがい28日周期で月のモノが来るらしかった。だが、その頃の私は28日で来る事はまず無かった。30〜90日、つまり、ひと月で来るのか3ヶ月で来るのか、それは来るまでのお楽しみ。

 いや、楽しみではなく大迷惑である。


 実は生理痛もかなり酷く、1週間薬は手放せない状態なのだ。そんな状態でも休まずに仕事に行っていた自分は偉い!と、本人は思うが、周りは大迷惑だったと思う。


 と言うのも、お腹が痛くて(鎮痛剤があまり効かない)意識が朦朧としたまま仕事をするのでミスの連発である。(本人は頑張っている)


 今の時代なら、「頼むから休んでくれ」と言われそうだが、当時は生理で休むなどもっての外だったのだ。(一応、生理休暇がある職場だったが、取った者はいない。取れない時代だ)


 仕事はともかく(おい)、旅行にぶつかると最悪である。ひとりでホテル(のトイレ)に篭る事になる。



 ある年に海外旅行に行く事になった。

 一緒に行く友人と旅行に生理が被らないように計画を立てるのだが、とにかく私のアレは全く読めない。


 そこで私は、生理を遅らせる薬を使う事にした。

 もちろん、きちんと婦人科の病院で薬は出してもらう。


「飲み薬だから簡単だよ?毎日飲んで、飲むのをやめると生理が来る感じ」


「なるほど、じゃあ、旅行中ずっと飲んでいれば生理は来ないのか」


「うん、そう。あ、でもさ、飲み忘れると逆に旅行中に来ちゃうから、早めに飲んで、旅行前に来て終わらせた方がよくない?まぁその辺もお医者さんに相談するといいよ」


 なるほどぉ。そうだね。専門家(医者)に相談だね。


「婦人科行くの初めてだから、女医さんの病院を探そうかな」


「あはは、女医さんじゃなくても大丈夫だよ。薬の飲み方を相談するだけだから。服は脱がないよ」


 そうか、そうなのね。



 そうして安心して、職場からそう遠くないレディスクリニックへ、仕事帰りに向かったのだった。


 病院の受付で生理を遅らせる薬が欲しい旨を伝えた。

 その病院が初診だったせいか、先生とまず話してくださいと言われた。


「院長先生がみますから」


「はい」


 ん?院長先生?……みますって、診ます?何処を?診察と言うか話を聞くって事だよね?


 呼ばれて診察室へ、そこには年配の男性のお医者さん。院長先生か。

 生理不順と旅行の話をした。


 直ぐに薬の話になるかと思いきや、院長先生は『生理不順』の方が気になったようだ。何かの病気を疑ったのか素人の私には不明だが、診察をすると言った。


「上半身を診察しやすいように下ろして」


 え……。


 いや、別に上半身裸を恥じらっているわけではない。相手は医者だ。しかもじっちゃん先生だ。(院長です)


 私が困惑をしているのは、診察は無いと思っていたので、診察しやすい服装じゃなかったのだ。


 診察しやすい服装とは:上下セパレーツ、上は前開き

 と言ったように、どの部分の診察でも脱ぎ着しやすい服装の事だ。


 だが、この日の私の服装と言えば、診察しにくい事この上ない服装だった。

 ロングのフレアワンピースに、ストッキングとパンツ(下着)、それに、よりによって強化補正下着、ガッチガチのブラとガードルがくっついた(着るのも大変なら脱ぐのも大変)なやつだった。


 ………何で、よりによって、今日これ。いや、診察無いって、無いって言ったじゃん。誰よ。


「背中と胸が出ればいいから」


 そう言って先生は離席。


 そ、そうか、とりあえず背中と胸か。うん、あれだ、ブラ部分の肩紐を……、うんしょ、うんしょ、何とか肩紐から腕を抜く。

 そして、ブラの部分をグイグイと下へ、胃の上辺りまで無理くり押し下げた。


 きっつぃが、とりあえずこれで診察出来るはず。


 戻ってきた院長が聴診器やら触診やらで(何を?)確認を終えたようだ。良かった。あとはこれ(ブラ)をトイレでゆっくり戻せばいいね。


 そう考えていたところに院長先生の爆弾発言がきた。


「旅行までの日にちもそんなに無いし、薬だと間に合わないね。今回はちょっと強い薬を注射しよう。そこにうつ伏せなってお尻を出して置いて」


 そう言って先生が出て行った。

 服を直すのに席を外してくれたようだ。さっきも上を脱ぐ時に席を外してくれた。

 いや、先生が紳士とか、今はどうでもいいねん!


 問題はね、『尻を出す』。

 そんな簡単には出せません。心情的な理由ではなく、物理的に。


 だって強化補正下着、ブラとガードルがセットの硬いやつ。今は無理くりブラを胃の周りまで下げてある。しかも急いで下げたからワンピースの上半身の布を補正下着の上部が巻き込んで絡んでる。


 ま、まず、ど、どうする。

 まずはワンピとブラを引き離さないと!

 硬!ええええ、早くしないと先生が来ちゃうよ。


 兎に角、胸を隠して尻を出さないといけないのだ。だが、合体したワンピとブラが……くぅ。剥がれない。仕方ない。

 先に尻を出すか。

 強化補正下着のガードル部分は股のところにボタンがあり、そこをバチバチと外すと、パンツは脱げる。


 よし、パンツは脱いだ。

 けれど、もっと酷い状態になってしまった。


 ワンピの上半身とブラが合体していたところに、補正下着のガードル部分とワンピのフレアスカートがさらに合体して、上から脱ごう、下から脱ごうとしているうちに、どんどん捩れて巻き込んで、完全合体した。


 これ、完全に、ウエストに太いしめ縄。


 えええええぇぇぇぇぇぇ。うっそぉん。


 きつくて太いしめ縄をお腹に巻いてる状態……。抜けない。上からも下からも抜けない。

 そして、しめ縄以外、真っ裸の私。

 とりあえずパンツを履いた。


 しめ縄にパンツ(下着)ルックの私。

 どうしよう、このまま診察台に寝てみる?先生が来たらパンツのお尻部分を下げる?


 アカン、太いしめ縄が邪魔でグラグラする、安定したうつ伏せにならない。

 やはり、一回脱いで、合体したワンピと補正下着を分離させるしか無いか。


 ウエストの太いしめ縄を力づくでグイグイと下へ下ろしていく。

 あああ、パンツ巻き込まれた!

 全てがひとつに巻かれていく、が、えいや!と力任せにやっとお尻を通り越して、脱げた!


 脱げたあああああ!

 後は、合体したワンピと補正下着とパンツを分離させるだけ。しかし、ずいぶん固く捻れてるな、このしめ縄。


 そう思った時に、ガチャっとドアの開く音。先生と看護師さんの声。

 ヤバイ!間に合わない!分離出来なかった!


 そう、全ての服はひとつになり、私は一糸まとわぬ生まれたままの姿!

 自分がいる診察台のカーテンの直ぐ向こうに先生と看護師さん。



 アカン、人生最大のピーンチ!!!



 先生がカーテンを開けた。

 

「えっ!何でこの子は素っ裸で寝てるの!」


 院長先生の叫びである。

 そう、私はカーテンが開く寸前に診察台にうつ伏せに寝たのだ。



 ああ……私は変態認定されてしまうのか。(大号泣) 露出狂の変態女……。

 たとえ、そう誤解されても、大事な3点は守ったぞ。(胸、胸、股間)



 ・・・・・・。


 先生と看護師さんの沈黙が怖い。


「ああ、補正下着だったんですね」


 看護師さんが、わがってくれたあああああああ(大泣き)

 院長先生はわからなかったかもしれないが、とりあえず素っ裸のうつ伏せ女のお尻に注射をしてくた。


 きっと、私が帰ったあとに、看護師さんが院長先生に説明をしてくれるだろう。いや、院内での笑い話になっただろうなぁ。


『今日ねwこんな患者がいてねwww』

 


くすん……。


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