第3話 腹が減っては何とやら

 翌日――。目が覚めると既に日は昇っており、アオイはベッドに横たわっていた。


「あれ……夢……ではないか……。」


 よくある夢オチのようなものを期待していたが、どうやらそんな事は無かった。

 起き上がりベッドの縁に座りながら、部屋の中をぐるりと見回す。

 ガーデンの部屋と同じような大きな本棚に、かなりの服を入れられそうなタンスがある。

 

 ――こんな広い部屋がこれから住む僕の部屋になるのかな……?

 立ち上げろうとすると、入口のドアがゆっくりと開く。


「おや、起きたようだね。昨日は疲れて倒れてしまったようだが、体調はどうだい?」


「あ……いや……大丈夫です……。」


「そうか。それは良かった。慣れない生活だろうから無理はしないようにね。」

 

 ――最初に変なカボチャ頭と思ってしまったのが申し訳ないな……。

 優しい口調で話すガーデンに段々と心を開き始めるアオイ。


「もし、アオイが良ければ今日から早速、魔法の修行をしたいと思うがどうかな?」


 昨日、リオンから全魔元素に適正があり、魔力量も凄いと言われたため、魔法という言葉につい目がキラキラしてしまう。


「フフ……。その様子だと、もう今日から修行をやりたそうだね。」


「は、はい!是非お願いします、ガーデンさん!」


 大きな声で返事をすると、お腹からもグゥ~っと大きな返事がする。


「そういえば、アオイは昨日の夜から何も食べてないもんね。じゃあ、私がご飯を奢ってあげるから付いてきて。」


 この歳になってあんな大きな音がお腹から鳴ってしまった事に赤面しながらもガーデンに付いていく。

 

「アオイはどんな食べ物が好き?パン、肉、魚……この都市には何でもあるよ。」


「えっと……お肉が好きです……。それとラーメンも……。」


「ラーメン?それはどんな食べ物だい?向こうの世界では、よくある食べ物なのかい?」


 思わずこの世界に無いであろう食べ物を言ってしまったが、ガーデンは目をキラキラさせる。

 ――どうやら僕が居た世界の事が気になってるようだ……。

 ただ、ラーメンを説明するにしても、この世界に麺のようなものがあるかも分からないので困ってしまう。


「えっと……こう細長くて……糸までは細くないんだけど、これくらいの……。」


 何とか身振り手振りで伝えようとしていると、ガーデンの口から聞き慣れた単語が出てくる。


「それは、のようなものかい?あれは私も好きでよく食べるよ。」


「え、この世界にもパスタがあるの!?」


「アオイと同じ落生者リインが広めたとされてるけど、アオイも好きなのかい?」


「はい、パスタも好きです!」

 

「じゃあ、せっかくだからこっちの世界のパスタを食べてみようか。」


 ――まさかこっちの世界にもパスタがあるなんて!

 どんなパスタなのか心を躍らせながらガーデンの隣を歩く。


「何軒かパスタの美味しいお店はあるけど、私のオススメはここかな。」


 大通りの脇道を少し行った所にある、小さな店に着く。

 店の名前は『パスタ・パパ』。外観は至って普通だが、中から嗅いだことのある匂いが漏れてくる。

 ガーデンと一緒に店の中に入ると、他に人は居らず貸し切り状態のようだった。


「やぁ、二人だけど大丈夫かい?」


「あら、ガーデン。そんな嫌味を言わなくたって良いんじゃ……ん?その子は?」


 お世辞にもパスタを作れそうな見た目ではない、ジャージ姿で剃り込みの入った女性が店主のようだ。

 その見た目に思わず後退りしてガーデンの後ろに隠れてしまう。


「ほら、キミの姿が怖いってさ。」


「はぁ?私のどこが!」


 大きな声を出す店主に恐怖さえ覚えるアオイ。


「まぁまぁ!今日はちゃんとキミの料理を食べに来たから安心して。大丈夫だよ、アオイ。」


 ガーデンに促されてそそくさと店の中に入り、奥の方のテーブル席に座る。


「注文は何にする?」


「今日のオススメのパスタは?」


「そうだな……。今朝、市場で仕入れた飛貝フライシェルのボンゴレビアンコかな。」


 ――こっちの世界でもボンゴレビアンコって言うんだ……。

 確かに、落生者リインがパスタを広げたならそのままか、と妙に納得してしまう。

 

「アオイは貝系のパスタは大丈夫かい?」


「は、はい。パスタは何でも好きなので……。」


「じゃあ、それを2つお願い出来る?貝だけにね。」


「はいよ。2つね。すぐ出来るから待ってな。」


 ダジャレをスルーされ固まっているガーデンに話しかける。


「あの……。店主さんとは仲良いんですか……?」


「そうだね。昔助けた事もあるし、エルレとは何だかんだ付き合いは長いね。仲良いかは……どうだろうね。」


 調理場に居るエルレの方に目を向けるが、飛貝フライシェルを蒸したりパスタを茹でたりしている。


「そうなんですね。ここの店の常連みたいな感じだったので、てっきり仲良いのかと思ってました。」

 

「常連ではあるけど、エルレとの仲の良さは来てる回数の割には良くないだろうね。」


「な、なんかごめんなさい……。」


 ガーデンを少し落ち込ませてしまったため、とても気まずい空気になってしまったが、

 その気まずさを裂いてくれるかのようにエルレがお皿に綺麗に盛ったパスタを出してくれる。

 ――ナイスタイミングです!エルレさん!

 アオイの中でのエルレの好感度がエルレの知らない所で勝手に上がっていく。


「はいよ。飛貝フライシェルのボンゴレビアンコお待ちどおさま。」


「わぁ~!美味しそうですね、エルレさん!」


 こっちの世界での初めての食事に目をキラキラさせる。


「じゃあ……頂きます!」


 フォークでパスタを上手に巻いて、大きな口で一口食べる。


「ん~!!!美味しいです!」


「フフ。そんな喜んでもらえて良かったよ。やっぱりガーデンとは違うね?」


 ガーデンの方をギロリと睨みつける。

 ――あれ、この光景リオンさんの時にも見たような……。


「そりゃ私はエルレの料理を何度も食べてるからね。もう感動はしないさ。」


 冷たい発言にも思えたが、人通りの少ないこの脇道の店に何度も通っているということは

 ガーデンさんはきっとこの店が好きなんだろうと思うアオイであった。


 エルレとも楽しく喋りながら食事を終える。


「はぁ……お腹いっぱいです。」


「よし。じゃあ行こうか。ありがとうね、エルレ。」


「おう。また、いつでも来いよ。アオイもまた来いよ!」


「はい!ありがとうございます、エルレさん!」


 2人はパスタ・パパを後にして、ギルドの方へと向かうのであった――。


 

 


 

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裏世界に迷い込んだら、最強魔道士に拾われて勝手に弟子にされた件 乙十十(おっとっと) @taki_ren

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