第158話 大事なのは大きさじゃない、魔力操作の緻密さにゃ

「シャー!」


ガルシア「ひっ…!」


「魔法が存在する世界で大事なのは体の大きさじゃなく魔力操作の緻密さにゃ。大きさに惑わされるのはバカげてるにゃ」


グリエル「そういえばカイトは体の大きさも変えられるんだったな…」


「森の中を疾走する時はこのサイズにゃ。TPOに合わせてるだけにゃ」


ガルシア「てぃーぴー…?」


「時と場所と状況に合わせるって事にゃ。人間の街ででかい図体だと邪魔にゃろ?」


本当はそこまで深い理由はない、ただそのほうが楽なだけなのだが。転生したばかりの頃は気づかなかったが、容姿を変えるとごく微量だが魔力を消費し続けるのだ。(問題になる量ではないが。)まぁ細かく説明する必要もない、適当な理由言っとけばいいだろう。


ガルシア「ま、魔法はともかくっ…、体が大きいほうが(物理)戦闘は強いのは事実だろうが…」


「まぁそれは否定しにゃいがな。だから、サイズも必要に応じて変更するにゃ。にゃんならもっと大きくにゃってみせようか?」


ホセ「これ以上は建物が壊れるのでやめてもらえるとありがたいのだが…」


「…ま、デカけりゃ良いってもんじゃないって事にゃ」


俺は再びサイズを縮小するが、人間よりは大きいくらいのサイズで留めた。大きいほうが話が通りやすそうだからな。


「そもそも、(物理)戦闘では、見た目の大きさよりどれだけ重いかも重要だにゃ」


ホセ「なるほど、確かに。見た目が大きくとも中身がスカスカで風で飛ぶほど軽かったら、それほど怖くはないな」


ガルシア「ははぁなるほど分かったぞ…」


ガルシアが悪どい表情でニヤリと笑った。


ガルシア「…つまりデカくなって見せたがそれは実は見た目だけの虚仮威し。大きく見せかけた・・・・・だけで本当は元のチビネコのままだって事だな?」


ガルシアが今度はホセの方を見ながら勝ち誇ったように言った。


ガルシア「父上! やっぱりインチキですよ! コイツはきっと幻覚スキルを使う詐欺師に違いない! 巨大なダンジョンボスモンスターというのも、実は幻覚を見せられていただけで…」


だが、次の瞬間、ドスンと鈍い音がしてガルシアの腕がテーブルの上に叩きつけられた。


「これならどうにゃ?」


ガルシア「なっ?! 何をした?!」


「重力魔法にゃ。お前の左腕に着けてる腕輪の重さを千倍にしてやったにゃ。俺は大きさを変えずに重さを増やす事もできるにゃよ」


ガルシアが着けていた金属製の腕輪(防具か何らかの魔道具?)の重量が推定百グラムだったとして、その千倍なので現在百キロほど。突然手首を百キロの力で押さえられ、引っ張られてガルシアは無様にひっくり返ってしまった。


ガルシアは慌てて腕を持ち上げようとするが簡単には持ち上がらず。ムキになって持ち上げようとして、結局、右手を添えて両手でなんとか持ち上げてみせた。


おいおい、百キロの腕輪なんて地球の人間では持ち上げられない気がするのだが? ガルシアの体内で魔力が動いているのが見えるので、身体強化を使ったのだろう。魔法や魔力が存在するこの世界の人間はなかなか侮れない。だが…


「さらに百倍にゃ」


ゴトリと重たい音を立てて再び手がテーブルに落ちる。


今度はさすがに持ち上げる事はできず、ガルシアの腕はテーブルに縫い付けられて動けなくなってしまった。


腕輪の重さはおそらくトン単位になっているはずだが、テーブルは少し撓んでいるが壊れてはいない。さすがは領主家の家具である、頑丈だ。


ガルシアはもう一度腕輪を持ち上げようとしたがすぐに無理だと理解したようで手を輪から引き抜いた。


ガルシア「何をした?! 一体なんだ、今のは?」


「だから重力魔法だってるにゃ」


グリエル「じゅうりょく…?」


「ああ、重力・・が分からんにゃ? 分かりやすく言うと、モノを重くしたり軽くしたりする魔法にゃ」


ホセ「そんな魔法があるのか…」


ガルシアは机の上に残っている腕輪を再び持ち上げようとしてみるがビクリとも動かない。


グリエル「ええっとカイト君…? それは伝説級のレア魔法だよね? 誰も使える者が居ないと言われる…帝都の賢者様なら使えるのかな?」


「メイヴィスなら多分使えるんじゃにゃいか?」


ホセ「メイヴィス…賢者アダラール様の事か…。国の大臣をも務めている【賢者】様をファーストネームで呼び捨てとは……お前は一体何者なのだ?」


「何様と言われても困るにゃ。俺は俺にゃ」


ホセ「何様だとは言ってないが…まぁいい。それで、賢者様とは?」


「?」


ホセ「どんな関係なのかと訊いているのだ」


「ん~……古い知り合い、かにゃ」


ホセ「…なるほど。得意げに披露しているその魔法は賢者様に教わったのか」


「んにゃ? メイヴィスに魔法を教わった事はないにゃよ? 帝都の常識は少し教わったけどにゃ」


ホセ「賢者様の弟子ではないのか? 妖精族といったな、まさか……賢者様に魔法を教えた師匠という可能性も!?」


「師匠じゃないし、弟子でもないにゃ。魔法は生まれたときから使えたし。多分、種族的な特性にゃな。メイヴィスの場合は職業的特性だにゃ。メイヴィスと俺は昔、一緒に仕事した事があるだけにゃよ…」


ホセ「仕事…? どんな仕事だ?」


「サラリーマンで営業を…」


ホセ「サライーマンデーギョウオー…?」


「…言っても分からんか、そりゃそうだにゃ。話すと長くなるからもういいにゃ、根掘り葉掘り聞くにゃ。そこまで答える義務はないにゃろ」


ガルシア「領主様が訊いているのだぞ! 答える義務があるに決まってるだろうが!」


ホセ「……いや、賢者様が関わる仕事となると、皇帝陛下も関わる国家機密の可能性もある。それを一領主ごときが問い質す事は、確かに越権行為かもしれんな」


「別に秘密じゃないけどにゃ。話が長くなるから面倒なだけにゃ」


ホセ「面倒、か…。ふてぶてしい奴だな、本当に何様・・だ?」


オクロン「お猫様…?


あっ、いえ、その、すみません! つい……」


オクロンが怒られるかと焦って領主の顔を見たが、ずっと無表情だったホセの広角が少し上に上がっていた。オクロンの言葉が少しツボに入ったのかもしれない。


笑いを堪えているのか、ホセが何も答えず黙っていたので、ここぞとグリエルが話題を変えた。


グリエル「……あのー、お話が一段落したなら、こちらの話も進めて頂いていいですかね? 私が来たのは、ダンジョンの確認をして頂きたいからなんですが…」


ホセ「…おほん。ダンジョンの調査? それは冒険者達にやらせているとさっき自分で言っていただろう?」


グリエル「いえ、それもさせていますが、ダンジョンの管理権限を使って、ダンジョンの状態を確認できるのではないかと思いまして。それと、できたらもう少し安全なダンジョンに、少なくともアンデッドは出ない設定にして頂けると助かるのですが…」


ホセ「そうだ、ガルシア、私も訊きたかったのだ。ダンジョンに何故アンデッドが出る? お前が設定そうしたのか? アンデッドからは素材も得るモノはないだろうが?」


ガルシア「いえ……ありますよ。教えてくれた者が居たのです。アンデッドのボス、ヘカトンスケルトンの魔石は美しく、高価な宝石に匹敵する価値があると……それを贈れば、マリーシアも喜んで、俺の妻になってくれるんじゃないかと思って…」


ホセ「なるほど…片思いの相手マリーシアのためか。だが、ダンジョンボスのスケルトンを倒せなければ魔石は取れないだろうに。どうやって倒すつもりだったんだ?」


ガルシア「いや、まぁ、それは、冒険者達を焚き付けて、なんとかなるかなぁと……まさか、Aランクの冒険者達があんな簡単に全滅するとは思っていませんでしたので…ってそうだ! それで?! グリエル! ヘカトンスケルトンの魔石はどうしたんだ?」


グリエル「あ~~魔石は、ありません」


ガルシア「何故だ?! まさかくすねて隠しているのではあるまいな?!」


オクロン「まぁしょうがないでしょうね。あの百本腕のスケルトンは、そちらのカイト殿の放ったブレスで蒸発してしまいましたからねぇ…」


グリエル「冒険者達が調査していますが、おそらくあの感じでは骨一本でも見つかれば良いほうかと…」


ガルシア「蒸発した……?!」


「てへ! にゃ」


ガルシア「きっさまぁ…」


ホセ「…ああそれなんだがな、カイトにはまだ聞かなければならない事が色々ある。カイトが化け物を倒してくれたのはオクロン・グリエルの報告で分かったが、ふたりともブレス・・・だと言うが、それはどういう事だ?」


「古龍のブレスにゃ。なんにゃら見せてやろうか? 古龍のは残弾が少ないから出せにゃいけど、低ランクのドラゴンのならいっぱいあるにゃよ?」


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※次回更新は2025/1/15からの予定です



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パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】~天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す~(オリジナル版) 田中寿郎 @tnktsr

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