第157話 そんな話を信じろと言うのか?
グリエル「ええっと…、では、私からの報告は不要な感じですかね…?」
ホセ「いや、是非聞かせてくれ。オクロンが嘘を言うわけはないだろうが、記憶違いなどもあるだろうからな。複数の人間から報告を聞いて正確性を高めたい」
グリエル「では……ええっと、どこから?」
ホセ「最初から全てだ。詳細にな。オクロンの報告を聞いていない状態のほうが、相違点が明らかになりやすいだろう」
そこからグリエルが説明を終えるまで、結構長く待たされる事になった。椅子も勧められなかったので、俺は勝手に空間魔法で見えない箱を作り、その上に腰掛けて待つ事にした。それを見たギルドマスターが何か言いたそうに睨む。領主サマの前で勝手に座るなど無礼だったか? だが、グリエルの報告の内容が気になるようで、すぐにこちらを見なくなった。
ギルドマスター、だよな? 確かガルシアと言ったか? 一度すれ違ったくらいなので正直顔をよく覚えてないが…。
俺はもともと日本に居た頃からあまり人の顔を覚えるのは得意ではなかった。人との関係性が薄かった事も関係しているかも知れない。俺にとっては他人とは、そのほとんどが虐めてこないか警戒すべき対象でしかなかったからな。顔も見たくない奴も多かったし。
まぁ顔は覚えていない代わりに、顔を見ないで察する能力―――雰囲気とか体格・輪郭、喋り方や動作の癖などから相手が誰なのかはもちろん、相手の機嫌まで識別する力は高かったとは思う。
そしてその傾向はこの世界に来てさらに悪化した。人間の
人間が(慣れないと)猿の顔を見分けるのが難しいのと同じだ。猿同士はどうやって個体を識別しているのか知らんが。動物は基本的に、顔つきの違いで相手を識別はしていないんじゃないかと思う。
犬などは視力があまり良くなく、その代わり臭いで相手を識別できるという話を聞いた事がある。犬は目ではなく鼻で周囲を感じ取るのだとか。俺もそうだ。嗅覚も人間だった頃よりはるかに鋭くなった。ただ、それ以上に分かりやすい特徴がこの世界にはあるのだ。それが魔力の雰囲気の違いである。俺は魔力を明確に感じ取る事ができるので、その違いで相手を識別できるのだ。(この世界の人間は俺ほど魔力を敏感に感じ取れていないようなので、これも種族的特性なのだろうな。)
といってもギルマスとは一度すれ違ったくらいしか会った事がないので、魔力もあまりはっきりとは覚えていないのだが。多分合ってると思う。
……やがてグリエルの説明が終わった。
ホセ「……ふむ、だいたいオクロンの説明と相違はないな」
俺から見て特に訂正するような部分もなかった。
グリエル「ええ、そりゃまぁ。特に、今朝の城門での戦いはずっと(オクロンと)一緒に見ていましたからね」
だが、そこで異を唱える者が居た。ガルシアである。実はグリエルが説明をしている最中から、ガルシアは口を挟もうとしてはホセに黙れと一喝されていたのだ…
ガルシア「父上、もう発言してもよいですよね? おいグリエル、嘘をつくな!」
ホセがジロリと睨んだので一瞬ガルシアは止まったが、ホセがそれ以上何も言わなかったのでガルシアが言葉を続けた。
ガルシア「…父上もおかしいと思いませんか? さっきから聞いていれば、一人の冒険者が、それも獣人ごときが、街全体を守るような結界を張っただの、ダンジョンボスのブレスを防いだだの、あまつさえそのボスを撃破してみせただのと。Sランクの冒険者だと言うなら理解できなくもないが、それが、それをやったのが、そこに居るチビ猫だなどと……信じられるわけないだろうが!」
グリエル・オクロン「「私達が嘘をついていると?」」
ガルシア「何が目的か知らんが、二人で共謀して嘘をついているのだろう? 二人の話にまったく相違がなかったのもおかしい。きっと事前に話を合わせていたからに違いない」
オクロン「目撃者は私達二人だけではありません。今朝、城門の上で警備をしていた衛士達も見ていました。疑うなら彼らにも聞いてみて下さい」
ガルシア「ふん、衛士達にも口裏を合わせるよう指示済みというわけか?」
グリエル「衛士だけじゃないですよ? 今朝の戦いの時には、今、街に残っているほとんどの冒険者が参加していましたから。彼らに話を聞いてみればいい」
ガルシア「冒険者はさらに信用できん。そっちも口裏合わせ済みなんだろう!?」
グリエル「冒険者が信用できないって…あなたはその冒険者達の頭領でしょうに……」
ホセ「そうだぞガルシア、お前は冒険者ギルドのマスターだろうが。部下である冒険者達が信用できんとは、お前の教育が悪いということになるぞ?」
ガルシア「そっ……冒険者など! ろくに教育も受けていないアブレ者の平民ばかりです。マスターだからこそよく知っているのですよ。奴らは教育しても無駄なんです、常に疑って掛かるくらいでちょうどよいんです」
ホセ「そもそも街の衛士隊と冒険者ギルドの全冒険者が結託して、なぜ嘘をつく必要があるというのだ…?」
ガルシア「それは……分かりませんが……
…スタンピードの責任逃れとか?」
ホセ「それはお前の責任だバカモノが。ダンジョンの管理権を持たない街の衛士や冒険者達にスタンピードの責任があるわけなかろうが。それは偏に管理を任せていたお前の責任だ」
ガルシア「そっ……まっ……いやっ……そうだ、その猫! その猫は、まだ他の街からの応援の冒険者が到着していないタイミングで現れた、それがそもそも怪しいでしょう! しかも聖魔法さえ使ったとグリエルは報告していた! きっとその猫の線から解明していけば、何を企んでいるのかもはっきりするかもしれない」
ホセ「うむ、疑っているわけではないが、彼には私からも色々と訊いてみたいとは思う。名はなんという?」
「zzz……」
グリエル「カイト…?」
「…あ俺か。名前? カイトにゃ。話が長いから眠くなってしまったにゃよ」
ガルシア「にゃ…って、まったくこれだから獣人は…。まともに言葉も喋れなんのだからな」
「種族的な強制力が働くんだからしょうがないにゃ」
ホセ「まぁ冒険者相手に言葉遣いを論っても仕方あるまい。それより、カイトは聖魔法が使えるのか?」
「まぁにゃ」
ホセ「……」
「……?」
ホセが俺を観察するように見ているが、追加説明を待ってるのか?
グリエル「…えっと、それだけじゃありませんよ? 彼は全属性の魔法が使えるそうです」
ガルシア「はぁ? そんな奴居るわけ無ぇだろうが。全属性が使える人間など居ない。ましてや獣人ならなおさらだ。獣人は魔法が苦手だというのは常識だろうが!」
グリエル「事実を言っているだけなんですがね…彼はそもそも獣人ではない。“賢者猫”だそうですから」
ホセ「賢者猫?」
ガルシア「なんだそりゃ?」
グリエル「妖精族です」
ガルシア「妖精族……? って、子供向けのお伽噺にしか出てこない、実在しない架空の存在じゃねぇか! 誂ってるのかキサマ?!」
グリエル「……まぁ、私にも彼が本当に妖精族なのかはともかくとして、彼が優秀な冒険者である事は間違いありませんよ。オーガの群れを一人で瞬殺し、街に侵入したレイスを浄化し、壊れてしまった街の結界を張り直し、そして今朝はダンジョンから出てきたボスモンスターを撃退してくれた。
これらは実際に起きた事実です!」
ガルシア「それだよ、聞けば聞くほど、一人の冒険者ができる内容じゃないだろうが。ましてや獣人だぞ?」
グリエル「先ほども申しあげました通り、彼は獣人ではなく賢者猫ですから。例えば帝都に居られる賢者様なら、街一つを結界で覆うこともできるのではないですか?」
ガルシア「それは特別な事例だ! 例外ってやつだろ!」
グリエル「一件でも存在するなら、他にも存在してもおかしくはないでしょ?」
ガルシア「滅多にないから例外なんだろうが! それに、言うに事かいて全属性だと?! そんな者など居ないのは俺だって知っている、一人一種類、多くても二~三種類ってところだ。確か帝都の【賢者】も使える魔法の属性は五種類程度だって聞いたぞ!?」
ホセ「いや…。賢者殿は一般的に言われている五種以外の魔法も使えると聞いている。ほかにいくつの属性を扱えるのかまでは知らんがな」
ガルシア「…っ、帝都の賢者がそうであっても、こんな
通常時の俺の身長は1mくらいしかないからな。
「体のサイズに惑わされるのは愚かにゃ」
ガルシア「貴族である私を愚か者呼ばわりするか?! って…おい…? どうなって…いる……?」
俺は少しずつ体のサイズを大きくしてやったのだ。
「サイズが大きければ信用するんならこれでどうにゃ?!」
気がつけばそこには天井に届きそうなほどのサイズのデブ猫がガルシアに向かって牙を見せていた。
「シャー!」
ガルシア「ひっ…!」
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