第156話 お前は何を言っているんだ?

ガルシア「ありがとうございます父上。それではスタンピード解決の報酬は冒険者ギルドが受け取っておきます。その冒険者への褒美は私から渡しておきますので」


ホセ「……はぁ? お前は何を言っているんだ? なぜお前がドヤ顔をして褒美を強請る?」


ガルシア「え、だって、冒険者がスタンピードを解決したのです、これは冒険者ギルドの成果として認められる事ですよね?」


ホセ「そもそもスタンピードはお前がキチンとダンジョンを管理していなかったから起きた事だろうが!」


ガルシア「え、でも、今報奨を与えるって……」


ホセ「それはその冒険者個人に対してだ」


ガルシア「……ちっ」


ホセ「なんだその態度は? そういうところだぞ? だいたいダンジョンの管理は正式に冒険者ギルドに委託していたのだ。スタンピードは冒険者ギルドの管理不行き届きだろうが。お前が息子でなかったら冒険者ギルドに対し賠償請求をするところだ!」


ガルシア「むぅぅ。ならその冒険者だって責任があるでしょう」


ホセ「帝都から応援に来たという冒険者にはスタンピードの責任はないだろう? その者がいち早く応援に駆けつけてくれたおかげで街は救われたのだから―――そうだよなオクロン?」


オクロン「はい。未だ、他の冒険者の応援は来ておりません。おそらく今日明日には来る頃だとは思いますが…」


ホセ「駆けつけてきた時には終わっているというわけか…」


オクロン「あのままダンジョンボスが街を襲っていたら、応援が来た時には街はなくなっていたでしょう。そもそも街の結界が破られた時、彼が結界を即座に張り直してくれたので街は救われたのです。ダンジョンボスとの戦いでも彼が街を守ったのです。あの六本腕の怪物は瘴気のブレスを街に向けて放ちました。彼が防いでくれなかったら、その時点で街は壊滅していたでしょう」


ホセ「魔物がブレスを放っただと?! それは……確かに街が壊滅していておかしくない状況だったな。それを一人で防いだのか? どうやって? というか何が起きたのか、今朝の出来事を最初から詳しく全て話せ」


オクロン「はい。まず、昨日、街に魔物が到来し始めました。最初はゴブリンやコボルト、オーク等でしたが、徐々にランクが上がっていき、オーガやそれ以上の魔物がやってきて街の城壁に攻撃を始めたのですが、その後、アンデッド軍団が街に到来すると、それらの魔獣は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまいました。そして、今度はアンデッドの魔物が街を包囲し、攻撃を始めたのです……」


オクロンがその後の展開を詳細に領主に説明する。その説明がちょうど終わった頃、執事が冒険者ギルドのサブマスター・グリエルが事態の報告に来ている事を領主に告げた。


だが、領主が答える前にガルシアが声を発する。


ガルシア「サブマスターが何の用だ? ギルドマスターの俺が居るのだからグリエルなど必要ない、追い返せ」


執事「……どうされますか?」


執事はガルシアを無視し、領主であるホセに尋ねる。


ホセ「グリエルからも話を聞きたい、すぐに通せ」


執事「ただ……」


ホセ「?」


執事「もう一人、一緒に来られた方があります。その者は追い返してよろしいですね?」


ホセ「誰だ?」


執事「卑しい先祖返りの獣人です。屋敷が汚れるので外で待たせております」


ホセ「セバス……お前は相変わらず獣人が嫌いなのだな」


執事セバス「……」


ホセ「構わん、その獣人も一緒に通せ」


セバス「……


 …御意に」




  +  +  +  +




■カイト


領主の屋敷に着いた。門番とグリエルは顔見知りらしく、顔パスで門を開けてくれた。だが、敷地の中には入れてもらえたものの、屋敷の玄関で足止めを食らう。


出てきた執事は俺を見て妙な表情かおをした後、『主に聞いてまいります』と言って扉を閉めて中に入ってしまったのだ。


勝手に扉を開けて入るわけにも行かず、グリエルと玄関先で待つ事になった。


グリエル「おかしいな、セバスさん、どうしたんだ? いつもはそのまま中に通して貰えるのに…」


「さっきの執事の俺に向けた視線には、なんか不愉快な感情が込められていたにゃ」


グリエル「そうか? 俺には分からなかったが…あの執事さん、表情がまったく変わらないんだよないつも」


「表情を変えなくとも、魔力は隠しきれてなかったにゃ。人間は、体や心が動いた時、同時に魔力も動くにゃ。俺は魔力に敏感だからにゃ。感情によって動いた魔力の変化も分かるんにゃよ。あの視線は、汚いものを見たという目だったにゃ」


グリエル「そうか…。たまに獣人を嫌う人間は居るからな。セバスさんはそういう風習のある地方の出身なのかも知れんな…」


「俺は獣人じゃにゃいんだけどにゃ」


よく考えたら、俺は外見を変えられるスキルを持っている。魔法と組み合わせれば、色々なものに変化する事ができるので、獣人デフォルトの姿で居る必要もないかもしれんな。妖精族なのだから、いっそ妖精らしく羽の生えた小人にでもなってみるか?


まぁどうでもいいか…。相手に獣人と思われようが妖精と思われようが、俺にはどうでもいい事だ。


そんな事を考えていたら、再び扉が開き、執事が中に入るように言った。俺には一切目を向けないが。


グリエル「なぁセバスさん……もしかして、あんた、獣人が嫌いか?」


お、グリエル、直球で訊くか!


執事セバス「……私は伯爵家に仕えてはいるが、これでも男爵の爵位を持っている貴族だ。口のきき方に気をつける事だ」


グリエル「おっとこれは、失礼いたしました…」


グリエルは俺のほうを見て肩を竦めた。


領主、ボンザレス伯爵の執務室にはすぐに到着した。執事が扉をノックして声を掛ける。


執事セバス「グリエル様と…もうひと方のお客様がお越しになられました」


『入れ』


すぐに返事があり、執事が扉を開け、俺とグリエルは中に入った。


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※近況ノートにてアンケート(2)を掲載しましたので、ご回答頂けると嬉しいです。




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