第155話 褒美を出さないといかんな

グリエルが冒険者達にテキパキと指示を出す。街の周辺の探索、それが終わったらダンジョンの状況の調査である。


グリエル「では、疲れているところ悪いがお前達頼むぞ」


冒険者1「別に疲れてはいねぇから大丈夫だ」


冒険者2「足がふらついているぞ?」


冒険者1「お前だって同じじゃねぇか」


冒険者2「ちょっと腰を抜かしてただけだ……情ない話しだが、正直、イロイロと、ビビッタヨ……」


グリエル「いや、あれは仕方ないさ……こんな出来事は、そうそう経験するもんじゃないからな」


スタッド「そうそうなんてレベルじゃないだろう…。ダンジョン深層のボスとダンジョンボスを、こんな明るい真っ昼間にダンジョンの外で間近で目にする機会など、一生生きてても普通はないって」


ダックス「あの、百本腕の骸骨と、キング? あれ、どっちがダンジョンボスでどっちが階層ボスだったんだ?」


スタッド「うーん、百本腕のほうが強そうだったから、あれがダンジョンボスだったんじゃね?」


グリエル「いや、恐らくキングのほうがダンジョンボスだったんじゃないか? 凶悪さは百本腕のほうが上だったかもしれんが」


スタッド「なんで」


グリエル「そりゃ… “キング” だからだ」


ダックス「そ、そうか…」


アリー「それよりも、そのダンジョンボスを一瞬で真っ二つにした、最後のアレ・・は何??? あのスケルトンがこちらを見た時、全員死んだと思ったわよ……」


グリエル「分からん。というか、情報が多すぎて、正直俺もまだ色々と整理がつかんわ! とにかく、振り返るのは後にして、今はスタンピードの後始末を終わらせてしまおうじゃないか…。反省会はその後ゆっくりすればいいさ」


スタッド「うむ、行ってくるよ…」


アリー「猫ちゃんあなたは行かないの…?」






■カイト


「俺は行かなくていいってグリエルに言われたにゃ。俺は街の冒険者じゃない、余所者だからにゃ」


グリエル「除け者にしているわけじゃない、信頼できる者に街に残っていてほしいんだよ。恐らく大丈夫とは思うが、また凶悪な魔物が街を襲った時のため、万が一の備えとしてな。が来てもカイトなら大丈夫だろう?」


「さっきの骸骨剣士には勝てそうにないにゃ」


グリエル「ああ……あれは別格だろうな……なんだったんだろうな、アレは……? まぁ本人も敵じゃないと言ってたし、もう来ないだろ?」


「だといいにゃ…」






冒険者達が列をなして通用口から出ていく。門を開ければ早いのだが、まだ外の安全が完全に確認されていないため、小さな通用口からの出入りなのだ。


「スタンピード解決が確認できたら、俺は帝都に帰っていいよにゃ?」


グリエル「ああ、悪いがもうちょっと待ってくれないか。後で俺も領主様のところに報告に行かなければならない。その時、カイトも一緒に来て欲しいんだ」


「領主のところに? 俺が? 嫌にゃ、面倒だにゃ」


グリエル「うーん、無理強いはしないが…。でも結局後で呼び出される事になると思うぞ? そうしたら余計に面倒な事になると思うがな? 面倒事はまとめて一度に終わらせてしまったほうがいいだろう? それに今ならオクロンも俺も居る。後で一人で領主と対決する事になるよりはマシじゃないか?」


「むむむ、しょうがないにゃぁ……、じゃぁ行くにゃ」




  +  +  +  +




■オクロン


ここは領主邸の廊下である。俺は領主に取り急ぎの報告をするために領主邸にやってきたのだ。


街を守る衛士隊の隊長として頻繁に領主と打ち合わせに来るので、もう領主邸の門番や執事とは顔馴染みで顔パスである。


そのまままっすぐ領主の執務室に案内され、執事が扉をノックして俺が来た事を領主に告げると、即座に入れという声が聞こえた。


部屋に入ると正面の机に領主、そして領主の執務机の前にある応接セットのソファにはギルドマスター・ガルシアがふんぞり返って座っていた。


「失礼します! 衛士長のオクロンです、状況の報告に参りました」


領主ホセ「うむ。朝から何やら城門で激しい戦闘があったようだな? 魔物の攻撃か? 一瞬だが、とんでもない気配もしていたような? どうなった、城門は無事か?」


「はい、城門も城壁も無事です。というか、領主様、朗報です。スタンピードは解決した可能性が高いです」


ホセ「解決しただと! 突然? どういう事だ?」


「はい、ええっと、詳しく説明すると長くなるのでかいつまんで結論だけ言いますが―――ダンジョンボスが現れて街に攻撃を加えてきたのです。しかし、なんやかやあってダンジョンボスを撃退する事に成功、街を襲っていたアンデッドは全て消えました」


ガルシア「そうか、よくやった! というか……衛士が撃退できたのか?! ダンジョンボス級の魔物を?」


「いえ、衛士ではありません、街の衛士にダンジョンボスを倒せるような猛者はおりませんよ…」


ガルシア「ふん! そうだろう」


ホセ「では冒険者が解決したのだな?」


「はい。街の者ではありませんが。帝都から応援で来てくれた猫人の冒険者が一人でやってくれました」


ホセ「それは、街の城壁の結界を張り直してくれたという猫人か?」


「はい、そうです」


ホセ「そうか……なかなか規格外の冒険者のようだな。しかし、それだけの功績を残したとなると、その者には何か褒美を出してやらんといかんな…」


「はい、そうしてやってもらえれば……」


ガルシア「よしっ! 父上、その褒美は冒険者ギルドが代表して受け取ります! その冒険者には後で俺から褒美を渡しておきますので!」


ガルシア(しめしめ…。所詮は冒険者、金貨十枚も渡してやれば飛び上がって喜ぶだろうから、残りは経費として俺が使ってやることにしよう)




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