第154話 あなたもスケルトンになってハッピーライフを送ってみませんか?

ランスロット「良い人間なんて居ませんよ?」


オクロン「どういう意味だ?! 人間には悪人しか居ないと言うつもりか?! だから滅ぼすとでも?」


ランスロット「だから滅ぼしたりはしませんて。そもそも、良いとは何か? 悪いとは何か? 子供じゃない、大人のあなたなら分かるはず。世の中、善悪など、明確に線引きのできない事のほうが多いと思いませんか?」


オクロン「……」


ランスロット「そもそも善悪など、その基準は人間がそれぞれ勝手に決めているだけですよね? 立場が変われば善悪の基準も変わる。ゴブリンを殺す人間はゴブリンから見れば悪でしょう?


動物も魔物も、もちろん人間も、生きるために必死で獲物を探して食べるのです。それは悪い事ではないでしょう。


人間もまた、自分の生存のため、自身の欲望・本能に従って生きたとしても、それはその他の動物や魔物と同じ。


あるがままに生きる事に、良いも悪いもないとも言えませんか?


逆にですよ? 仮に。もし神が居たとして…。その神が何が良いのかその基準を示されたとして。その基準に完全に当てはまる人間がどれだけ居るでしょうか?


そして、当てはまらなかった人間は、自分は間違っていると認めますか? 認めてその後どうしますか?」


オクロン「か…完璧な人間など居ないさ! 間違っているからこそ、完璧を目指して努力するから尊いのだ!」


ランスロット「神とか基準とか言い出すと突飛なのでもう少し身近な話をしましょうか。あなたは貴族ですか? 平民ですか? まぁどちらでもよいですが、貴族が平民を見下し虐げるのを見たことはありませんか? それは、平民から見れば地獄だと思いませんか?」


オクロン「それは…身分制度は仕方がない事だろう…。能力があるものが地位を獲得し、能力がない者を導いてやる必要があるのだ。能力がない者は愚かな生き方をしてしまうからな」


ランスロット「導くために虐げるのですか? というか虐待する事と導く事って本当に関係あります? ただ、優越感に浸り楽しむためだけに平民を虐げる貴族が居る。それは悪人だと思いませんか?」


オクロン「全ての貴族がそうというわけではない! …というか、なんでお前はスケルトンのくせにそんなに人間の事に詳しいんだよ?!」


ランスロット「私も元は人間だったからですよ。と言っても何千年も前の話で、あまり覚えていないので……半分以上不死王様の受け売りだったりしますが」


オクロン「なんだよ、自分の意見じゃないのかよっ!」


ランスロット「いえもちろん、自分の実感も籠もっていますよ? 人間でなくなったからこそ、客観的に観る事もできますしね。そして気が付きます。人間関係の本質は“虐め”です。たとえ親しい友人や恋人、家族の間ですら、虐めがあります。あなたも親しい友人をからかったりした事はありませんか? そういう行為の延長が虐めですよ?」


オクロンがチラと目線を向けるとグリエルと目があってしまった。幼馴染の二人は確かに軽口を叩きあい誂い合う事くらいはするが、それは、別に虐めというわけではない。だが、相手がもし嫌がっていたとしたら…? 確かに、時にやりすぎてしまう事はないとは言い切れないかも知れない。だが、それを許しあえるのが家族や友というものだろう。


オクロン「…ふん、スケルトンに人間の世界の事を語られたくない。だいたい、魔物の世界は、人間の世界とは違うというのか?」


ランスロット「まぁ、魔物も、知能が高いほど、人間と同じような傾向は出てきますね。ただ、不死王様が作ってくれたスケルトンの世界は違います。人間の世界のような苦しみはありません。なぜなら、食べる必要がない。衣食住から解放されている。これが大きい。それだけで、かなり自由になれますよ」


オクロン「……味気なくないか?」


ランスロット「食欲もありませんから特に何も感じませんが? 食べる必要も家賃を払う必要も衣服を買う必要もないので、稼ぐ必要がない。ので、働く必要がない。つまり、嫌な上司に頭を下げる必要もない。1日中寝ていても問題ない」


オクロン「だがお前たちはスケルトンを兵隊にして働かせているじゃないか?!」


ランスロット「強制はしておりません。全員自分から進んで参加してくれているのです。嫌なら参加しなくて構わない。幸いな事に、ほぼ全員が参加したいと言ってくれていますがね」


オクロン「うーん、なんだか屁理屈を捏ねられているだけのような気がしてならん…というか、しょせんは人間とアンデッド、相容れない、理解しあえないところがあるのだろう…」


ランスロット「なんなら一度体験してみますか? スケルトンになりたいというのならいつでも歓迎致しますぞ?」


オクロン「誰がアンデッドになどなりたがるか! 生きて限りある生を全うしてこその命だ!」


ランスロット「ふふふ。良いですね。実は…


 …かなり辛辣な事を言い連ねてしまいましたが、私、個人的には人間も嫌いじゃないんですよ。


不自由の中であがき苦しみ、努力するからこそ、その中に美しい物語もまた生まれますから。人間の人生は短い。いずれ必ず死にます。短いからこそ一瞬の中に輝きがある。…事もある。


しかし、人は必ず死にます。真っ逆さまに死というゴールに向かって落下していくかのごとし。決して止められない。これも人として生きる事の地獄のひとつでもありますがね。


もうほんの少し待てばあなたも死にますから。その時になってから考えてみても良いでしょう」


オクロン「アンデッドになるなんてまっぴらだよ! 俺は人として生き、人として死ぬ。死後も人として生きる! いや死ぬ? いや、生まれ変わる?!」


ランスロット「アンデッドもなかなか良いものなんですがね? まぁ価値観は人それぞれ……


 …少し喋りすぎました。もう行かなければ。


それでは皆さん御機嫌よう!」


オクロン「あ……!


 …消えてしまった……一体なんだったんだ?」


グリエル「言ってる事がメチャクチャだった。まぁスケルトンだからな、気にしても仕方がないか…」


カイト「いや、今の骸骨が言ってた事は、かなり的を射てたと俺は思うけどにゃ…」

カイト(なにせ俺は、前世の日本で人間に絶望して人間やめた口だからにゃ…。まぁスケルトンになるよりはケットシーで良かったかにゃ…?)


グリエル「そうか? 俺はそうは思わんがな。まぁいい。何にせよ、脅威は去った! スタンピードは終息して、街は救われた! って事でいいんだよな?」


オクロン「あ? ああ、そう、だな。そうだよな!」


城壁の上から街の外を見渡せば、大量に見えていたスケルトン兵の姿は一体も見えず。さっきのスケルトンが全部連れ去ってくれたようだ。他の魔物の姿も見えない。


森の中に逃げた魔物達も多く居るだろうが、これからは冒険者がコツコツ駆除していくしかないだろう。


オクロン「……とりあえず、領主様に報告に行くか。グリエルお前も付き合え」


グリエル「いや、俺は行かない。本当に危険が去ったかどうか、街の周囲を調べる必要があるからな。冒険者達を使って少し調査してみるよ」


オクロン「ああ、それもそうだな。じゃぁそっちは頼むよ……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る