『深夜だからできる話』
小田舵木
『深夜だからできる話』
私は眠りが浅い。服用している睡眠薬のせいかも知れないが。
夜に寝て。そのまま深夜には眼が覚めてしまう。
深夜に眼が覚めて。
枕元のスマホを確認してみれば午前一時。まだまだ夜は始まったばかりだ。
だが。もう私は眠くない。これは困ったモノである。
そもそも。人間をはじめとする動物には概日リズムが生体に備わっており。
決まった時間には眠くなるようになっているものである。
だが。私の生体時計は狂ってしまって直らない。
壊れた時計は適当な時間に私を叩き起こす。
仕方がない。
私はベッドから起き上がり。適当に身支度をしてから近所の自販機へと向かう。
エナジードリンクを買う為だ。深夜に眼が覚めると昼頃には眠たくなってしまう。だが、そのまま寝てしまえば睡眠相は更に前にズレてしまう。
外に出れば。
街は静まりかえっていて。
私はつくづくアウトサイダーなのだな、と思わせられる。
道端の街路灯が淋しげに灯っている。その明かりは不眠症気味の私を暖かく照らす。
自販機に着いて。
いつものエナジードリンクを買う。
昔は500mlの容量だったものが。今は350mlになっている。
ここに時代を感じる。最近は物価高だ。こちらの賃金は上がっていないと言うのに。
この話を考えると。昔、母親から聞いた昭和バブルの頃の話を思い出す。
「ねえ。母さん。バブルの頃は金持ちだったの?」
「んな訳ないでしょ。貧乏人は何時だって貧乏よ」
そう。貧乏人には市場の高騰は関係ないのだ。市民は無駄な物価高に苦しみ。一部の金持ちだけがその恩恵を受けていた。まあ、その後の話は皆さんも知っての通りだが。
エナジードリンクを買うと。
私は家に戻る。そして朝飯を食って。煙草を吸って。
そして今、パソコンの前に座っている。
文章を書く為である。
文章を書く事は。私の少ない趣味の一つだ。
最近は程よく力が抜けて気楽な文章を書ける。
それは文章にかかりっきりではないからかも知れない。
◆
去年の今頃の私は。
ちょうど、『自動人形(オートマタ)シリーズ』の執筆に追われていた。
カクヨムコン8の締切が差し迫っていて。10万字に到達していなかったからである。
ああ。思い出すだけで胃の辺りがキリキリしてくる。
あの頃は。文章を垂れ流すだけのニートだったので、一日中、テキストエディタに向かっていた。
書いてる本人はかなり真剣だったが。両親からしてみれば迷惑そのものだっただろう。
今の私は。一応アルバイトをボチボチやっていて。
文章にかかりっきりではない。その上執筆するのは仕事が休みの日に限られる。
そのお陰か。今回のカクヨムコン9に関して。かなりやる気のない関わり方をしている。
短編をボチボチ執筆して出品しているが。中間選考突破の為の努力を一切していない。
そも。
私の文章は流行らない文体とテーマであり。
陽の光を見ることはないからである。
流行りなんて気にしてないし、読者に媚を売るようなスタイルでもない。
それにそもそも。
私は文章が全く巧くない。
これは自分の過去の文章を読み返すと思う事だ。
私の文章には惹かれる何かが欠如している。これでは潜在的な読者を掴むに至らないだろう。
では。何故。今でも執筆を続けているのか?
それは文章を書くことに楽しみを見出しているからだ。
私は生来が不器用で。思考を深めるためには文章を書かないといけない性質だからである。
要するに。
自己満足の為に文章を書き連ねているのである。
1年前の私が聞いたら卒倒するだろう。一応、1年前…と言うか3ヶ月前までは文章で人気者になりたかったからだ。
私の数少ない特技の一つが文章執筆であり。
その武器を使って、世に自分を問いたかった。
だから。去年のカクヨムコン8の時は一心不乱だった訳だ。
あの頃の私は。読者…いや。評価の星を貰う為なら何だってした。
一日中パソコンにしがみついて、SNSを更新しまくり。人様の作品をロクに読まず斜め読みして星をふっ飛ばし…うん。思い出すだけでおぞましい生活をしていた。
今の私は。先程も言ったようにカクヨムコンに全くやる気がない。
長編の準備だってしていない。去年なら資料に10万以上は使っていたというのに。
人様がカクヨムコンの為に一心不乱になっているのをナナメな視線で冷ややかに見守っている。
…カクヨムコン。
そもそも参加している人は、そして受賞の為に努力している人は。
楽しんでいるのだろうか?私は不思議に思う。
多分、そういうプロセスを楽しんでいる人も居るだろう。去年の私のように。
しかし。
私は。去年のカクヨムコンに関して。楽しいという感情よりも、苦しいという感情の方が強かった。
営業活動。
これがカクヨムコンを苦しくしている要因だ。私にとって。
作品に星が欲しいから。興味もない他人の文章をロクに読まず、斜め読みしまくり。ロクに作品を理解しないまま、星を飛ばしていた。
これは。その作者様の為ではなく。自分の作品に星が欲しいが故の行動だった。今、懺悔しておくが。
こういう営業活動は。カクヨムコンのシステム上、避けられないモノだと私は思う。
評価される土俵に立つ為には。まずは読者選考という中間選考を突破しなくてはならないから。
ああ。
私の文章は。放っといても人様に読まれるようなモノではなかった。
これは大きな挫折である。
私は。カクヨムコン8の後でかなり鬱っぽくなった。
私の文章は市場での価値は一切ないのだ。
そして。カクヨムコンを終えた後の私は。
惰性で文章を書き続けていたが。
文章を書くのが楽しいという感情は忘れ去っていて。
去年は絶筆期間が2度ほどある。それほど文章に対して絶望していたのである。
今。
私は文章を書くことにそれほど絶望していない。
それはどういうプロセスでそうなったかは、まだ説明出来ない。
だが、少なくとも文章にかかりっきりではない事は影響していると思う。
私にはアルバイトがあり、新しく出来た趣味の釣りがあり、ゲームがあり、アニメがあり、漫画があり…
自分の生きる土俵は一つではないことを知っているから。
今の私は。
文章を書くことがとりもあえず楽しい。
こんな感情は久しぶりのモノである。
公募の為に作品を書き始めた頃の感情に近い。
ただ、自分の想いが文面になる。これほど楽しい趣味を私は知らない。
…ああ。深夜に眼が覚めるというだけの話が大分逸れた感がある。
これが私の文章の悪い癖であり、逆にいうと持ち味である。
私はプロットを用意しない物書きなのである。
常にアドリブ演奏を演っている気分である。
そのアドリブの連なりが私の作品を為す…何時までこんな書き方を出来るのだろう?
こんな書き方を出来る内に。楽しんで執筆したいものである。
人様の評価なぞ二の次である。
『深夜だからできる話』 小田舵木 @odakajiki
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