美術部の君(シナリオ)

れみ

第1話 美術部の君


「美術部の君」



  登場人物

阿見寺凛(あみでらりん)(14)(30)美術部員

月田滉一(つきたこういち)(14)(30)美術部員

西邑涂萌子(にしむらともこ)(48)教師

郷田武(ごうだたけし)(30)凛の恋人




○美術室(回想)

   阿見寺凛(あみでらりん)(14)座っている。

   月田滉一(つきたこういち)(14)右目で

   凛を見てスケッチしてる。

凛(M)「その時の私は、恋という

 感情が理解できなかった」


○同(回想)

   凛、花瓶をスケッチしている

   西邑涂萌子(にしむらともこ)(48)登場。

涂萌子「阿見寺さん、被写体に

 恋してる気持ちで描くと

 上手く描けるよ」

凛「先生、恋ってどんな

 気持ちですか?」

涂萌子「そうねえ、阿見寺さん

 好きな食べ物ある?」

凛「ドーナツが大好物です」

涂萌子「恋はね、大好きなドーナツを

 10個一度に食べた時の感情よ」


○同(回想)

   西邑涂萌子(にしむらともこ)(48)凛を

   スケッチする月田をみる

涂萌子「月田君の絵には、気持ちが

 こもってるね」

月田「そうですか?照れるな」

凛(M)「月田君が描く私は、その

 右目で私の心を見透かしている

 みたいで、卑怯で弱い私の心

 までもキャンバスに描いている

 ように思えた。彼の魔法の

 右目から逃れる事は不可能だった」


○同(回想)

   凛、月田の前でモデル。

   下着のみ。

凛(M)「今思うと、私は月田君に

 ドーナツ10個分の好きを

 感じていたのかもしれない」


○講堂(回想)

   卒業式

凛(M)「しかし中学卒業を期に、

 月田君は東京に引っ越し、彼と

 別れた私は、もう二度と

 ドーナツ10個分の

 好きを感じることはなかった」


○字幕・18年後


○お葬式(夜)

   涂萌子の遺影。

凛(M)「先生の突然の訃報は、

 閉じ込めていた私の過去を

 思わぬ形で蘇らせた」


○同(夜)

   月田滉一(30)と

   阿見寺凛(あみでらりん)(30)出会う。

   月田の右に大きな傷。

凛「月田君、久しぶり」

月田「さあ、どなたでした?」

凛「中学校の時、同じ美術部だった

 阿見寺凛だよ」

月田「阿見寺さん?あまり覚えて

 ないけど、こんちは」

凛(M)「18年ぶりに再開した時、

 魔法の右目はすでに失われていた」


○喫茶店

   凛と月田、向かい合わせで

   座る、コーヒーが運ばれる。

凛「月見君、今も絵を描いてるの?」

月田「絵?ああ、右目が見えなく

 なってから、描いてないです」

凛「怪我したの?いつ?」

月田「高校の時、カッターナイフ

 で 右目を潰しました」

凛「自分で?どうして?」

月田「はい自分で。そんな事聞いて

 面白いですか?」

   凛、月田の傷に触る。

凛「中学校を卒業してから、

 君の右目はどんな辛い光景を

 見てきたのだろう」

月田「馴れ馴れしい人だな、

 気安く 触らないで下さい」

凛「ごめんなさい。一つだけお願い

 聞いて欲しい。私を描いて欲しい。

 そしてその絵をください」

月田「絵なんてもう10年も

 描いてないです。下手くそですよ」

凛「下手でもなんでも、見える方の

 目で見て私を描いてください。

 今から」

月田「そんな今、夜ですよ」

凛「中学校の美術室へ」


○美術室(夜)

   月明かりで室内は明るい。

   凛、月田部屋に入る。

月田「これでは、モデルが見えない」

凛「月田君、両目を閉じて私を描いて」

月田「両目を閉じてどうやって

 描くのですか」

凛「想像するの」

   月田、目を閉じる。


○同(夜)

   凛、カーデガンを脱ぐ。

凛「では始めて」

   月田スケッチブックを開く。

   凛、スカートを脱ぐ。

月田「何?お姉さんストリップ?」

凛「これは、もっと神聖な儀式よ」

月田「何も想像できない、描けません」

凛「あの時小さな私たちは、美術室で、

 ドーナツ10個分の気持ちを

 通わせていたわ」

月田「ドーナツ?」

凛「今ならわかる。私は、ドーナツ

 10個分、あなたを愛していた」

月田「・・・愛?」

凛「しかし、触れ合うには私たちは

 幼すぎた」

   月田の傷ついた右目が開く。

月田「何かを得ると、失うことに

 怯えなくてはいけない、

 もう失うのは沢山なんだ」

凛「だから右目を潰したのね」

月田「でももう一度描きたくなった」

   月田、右目で凛を見て描く。

凛「月田君、今の私はどう?」

月田「君は変わらず、美しくて

 優しくて繊細で残酷だ」

凛「だったら私を奪ってみる?」

月田「君の光は僕にはまぶしすぎる」

凛「私にとっても貴方は温かすぎる」

   絵が完成

月田「凛ちゃん、ありがとう、

 そしてさよなら」


○郷田自宅(夜)

   郷田と、凛、リビング。

郷田「凛、今日なんかあった?」

凛「涂萌子先生のお葬式で、仲の

 良かったクラスメイトに会ったの」

郷田「好きだったのか?」

凛「うん、ドーナツ10個分くらい

 好きだった」

郷田「今もそいつが好きか?」

凛「今は違う、やっと終わったよ」

郷田「凛が納得いったのならいいさ」

凛「武に話せて良かった」

郷田「なんだ、話したかったのか」

凛「恋はドーナツの数では測れない」

郷田「おかしなやつだ」

凛「そう、私おかしなやつなの」


終わり













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美術部の君(シナリオ) れみ @zgirunken

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