結婚や幸せの在り方
@chanibu
ありがとうございます。
みなさん、はじめまして。突然ですが皆さんはご自分のご両親や親戚、お友達に「早く結婚して幸せになりなよ」みたいなことを言われたことはありませんか!?
私はたくさんあります!笑
まあ私も結婚するまでは、「結婚=幸せ」と当然のように考えていたし、このまま一生独身でいることがなんだか恐ろしいことにも感じ、その時はとにかくもう、本当に焦っていました。
既婚者の友達の結婚してからの苦労話を聞いても、「でも結婚できたんだからいいじゃん」とか思ったり……
結婚をすることに対して、一種の強迫観念みたいなものに襲われていました。
しかし実際結婚してみて、結婚=幸せ、は必ずしもそうではないのだというのことに気づきました。(今となっては当たり前のことですね)
このエッセイを書こうと思ったキッカケは、皆さんに、私が学んだことをお裾分けしたかったからです。結婚について、幸せについて、実際に体験して気づいたことを語っていきたいと思います!
どうか皆さんに届きますように。
私と旦那さんのKさんとの出会いはマッチングアプリでした。
30歳間近で結婚に焦っていた私は、マッチングアプリで婚活を頑張っても中々いい出会いに巡り合わず、もうダメなのかなと諦めかけていた時に出会ったのが、Kさんでした。
最初実際に会った時は見た目も性格もタイプではなかったので、恋愛感情はなかったのですが、会っていくうちに彼の明るさや優しさに惹かれて、また夜の行為は、万が一孕ってしまったら大変だから絶対にしないと言う、現代では珍しいその真面目な一面も好きになり、いつの間にか彼と正式に付き合うことになりました。
「僕の家族になってください」
これが彼の結婚のプロポーズの言葉です。緊張して、少し噛みながら真剣な眼差しで言われて、思わず可愛さと嬉しさと笑ってしまったのを今でも覚えています。
そこからはもう本当に幸せでした。ようやく掴んだ幸せ!友達に報告できる喜び!逃れられた独身の恐怖からの解放!そこがまるで人生のゴールであるように私は浮かれに浮かれまくっていました!(今考えれば恥ずかしい話です笑)
仕事を辞めた私は専業主婦になり、2人での生活に心を躍らせていました。Kさんはいつでも優しくて、よく冗談を言って私を笑わせて、笑顔の絶えない毎日でした。家事はもともと得意ではなかったので大変でしたが、それでも毎日Kさんが料理を褒めてくれたりするので、私はとても幸せでした。
これが私の求めていた幸せだ、そう思ってい
ました。
違和感を覚えたのは半年くらい経った後です。
その日私は朝から熱を出してしまい、家事をやらなくてはと思っていましたが、とてもそんなことできる状態ではなく、1日グッタリとベッドで寝込んでいました。一応KさんにもLINEで具合が悪いことを連絡すると、「大丈夫?解熱剤買ってくるから」と返事がきて、私は、ああ一人暮らしと時じゃ味わえなかった暖かさだ、結婚してよかったなどと呑気に思っていました。
しかしKさんは夜仕事から帰ってきて、部屋を見るなり一言こう言ったのです。
「あれ?ご飯は?」
え?
私は少しびっくりしました。私はKさんに「LINEでも伝えたと思うけど、熱が出て具合悪くて」と言ったら、Kさんは呆れたようにため息をつきました。
「僕17時に帰ると言ったよね?なに、熱くらいで」
は?
目を丸くする私に続けます。
「いやさ、僕は熱が出てても会社に行くよ?そんくらいで休めないし。君のために稼いで働いて帰ってきてるのに、なんで君は甘えたこと言って簡単に自分の役目を放棄するの?オメシキさまが見てるよ?」
みなさんどうですか?めちゃくちゃイラッときませんか笑!?でもその時私は、Kさんは疲れて帰ってきてるんだからその通りか、と思ってしまって、何も言い返すことができませんでした。
しかしその出来事から、些細なことですが、Kさんに対する違和感が増えていくようになりました。
Kさんのお気に入りのおつまみを切らしてしまった時は、「なんで買ってないの?」の不機嫌になったり、少しでも部屋が散らかっていると私を責めたり、私が少しでも疲れた顔をすると、「笑って疲れてる夫を癒すのが妻の役目だよ」と怒る時もありました。
Kさんは私が遊ぶことや買い物をすることも快く思わなかったようで、
「僕が稼いだ金で勝手なことを」
「1日遊んで家の仕事はどうするの?」
「オメシキさまに合わせる顔もない」
「そんな派手な服を着ないでほしい」
「妻の役目を果たさないで遊んでばっかり…」
この妻の役目とは一体なんなんでしょう。
家で閉じこもって自由もなく、楽しみもなく質素な服を着て、家族のために尽くすのが妻の役目なのでしょうか?そんなの奴隷と同じだと、今になって思います。
もうストレス溜まり放題です。少しでも言い返すもんなら「誰のおかげで生活できてると思ってる!?」と怒るのです。
幸せとはなんなんだろう。私はこの時すでに結婚する前の方が自由で、幸せだったということに気づきました。それでもまだこの時はKさんのことが好きでした。
結婚してちょうど一年経った、ある月の17日。
Kさんの提案で結婚記念日にKさんの実家に行くことになりました。なんでも、田舎にあるKさんの実家は、古くからの伝統があり、結婚して一年経った夫婦はこの先の家内安全を神様に祈るための行事があるんだとか・・。Kさんの実家にはもちろん結婚前行ったことがあります。その時は親戚一同やお隣の家の人まで集まって私を迎えてくれました。少し大袈裟にも感じましたが、むしろ田舎特有の暖かさがあり、皆さん仲の良い家族で良いなあと心から思いました。
たった一年でKさんとの生活が少し嫌になってきた私は小さな希望を持ちました。Kさんの実家に行けば何か変わるかもしれない、Kさんのことをよく知ってもう少し歩み寄れるかもしれない。そう田舎へ向かう車の中で少しだけ期待していました。
到着してすぐ、お義母さんのお義父さんがわざわざお家から出て迎えてくれました。
Kさんが私に「挨拶しろよ」と言ったので(こういうところも嫌ですよね)私は頭を下げようとするとお義母さんは「いいのよいいのよ」と止めてくれました。
「よくきたわね。いつもKの面倒見てくれてありがとね」
「一年間よく頑張ったなあ。寒いだろ早く中に入ろう」
2人の幸せそうな笑顔になんだか泣きそうになりました。
ああ、やっぱり私はここにきてよかった。私もこんな風に笑ってみたい。Kさんと隣同士で仲良く笑顔で・・そう思った時、お義母さんが言いました。
「ほら、みんなお待ちかねよ」
え?誰かいるの?と思って前方の義理の両親の家を見ると、立派な玄関が開いていて、そこからたくさんの人の姿が見えました。そこにいる人は全員こちらを見ていて、笑っています。
ゾッとしました。神様に祈る行事とは聞いていたのでまた親戚やお隣さんを呼んだんだとは思いますが、あまりにも全員の目がこちらにある後景が不気味だったのです。
お義母さんは私の手を引っ張って嬉しそうに玄関へ連れていきます。
「一年間妻としてのお役目頑張ったものね。ようやく家族になれるのよ。オメシキさまにご挨拶しなくてはねえ。母になる挨拶を。さあ中へ入りましょう」
お義母さんの言ってることがまるで分かりませんでしたが、家に入らないわけにはいかず、そのまま玄関に入ると、私を見ていた親戚一同が声を上げました。
「おめでとう。家族になりました」
「母になりますね」
「オメシキさま、お子ができます」
玄関を見ると壁そこかしこにお札と紙に書かれた「オメシキさま」の文字。
異空間に迷い込んだようでした。だってこんなこと結婚前にはなかったのですから。
呆気に取られてしまって、私は連れてかれるまま玄関を上がり、大広間の隣にある部屋に案内されました。そこは以前訪れた時に、お義母さんに片付いていないから入らないで欲しいと言われていた部屋です。襖を開けて目に飛び込んだのは、なんというのでしょうか、大きな神棚みたいなものでした。そしてそれを囲むように石や札があり、部屋へ次々と入ってきた親戚やご近所の方は、「オメシキさま」と声を上げて、膝をついてお辞儀をし始めたのです。
神棚のようなものの前に座らされて、私はようやく異常事態に恐怖を覚え始めました。私の隣に座ったKさんは、ソレに向かって話し始めます。
「オメシキ様、僕たちは結婚して一年経ちました。僕は男として働き家長として家の幸せを守ってきました。妻は女として家事を務め家長に従い、笑顔で幸せを守りました。これから僕たちは真の家族になり、父と母となり、あなたからのお恵みや禍を受け継いでいきます」
誇らしそうに話すKさんはまるで別人のようでした。そんな晴れやかな笑顔見たことありません。周りを取り囲む人たちを見ると皆同じような顔をして笑っています。
私は恐怖で手が震えてきました。
しかしそんなことは構わず、お義母さんは「これを全部心の中で読んでちょうだい」と私の目の前に紙を広げました。紙にあったのはまた『オメシキさま』の文字で、それがいくつも書かれていました。
「17個全部ね、おまじないよ、さあ」
恐ろしくて思考が停止してしまった私は従うしかありません。読んだ?読んだ?と目を開いて聞かれ、コクコクと頷くと、お義母さんは弾んだ声で言いました。
「さあさあ、これで家族の始まりよ!さっそく始めましょう!」
するとお義父さんは目の前で突然布団を敷き始めました。枕も二つ並べられます。
嫌な予感がしました。
「何をするの?」
この家に入ってからようやく出した声は掠れていました。Kさんは笑顔で答えます。
「子を作るんだよ」
お義母さんが言います。
「一年経った夫婦は子作りの儀式をするの。オメシキさまに家族の証を見せるのよ」
お義父さんが言います。
「女はオメシキさまに捧げる子を産むのが務めなんだよ。一年も妻としての修行よう頑張った!ここからは母として役目を全うしてくれ」
周りの人々が言います。
「正式な家族になる」
「オメシキさまが見てるぞ」
「私たちと同じ血が増える」
「みな一緒に呪いを分かち合える」
甲高い女の叫び声が聞こえました。窓から飛び出して冷たい地面に足をつけた瞬間、それは私の叫び声だったことに気づきました。外は暗くてどこに行ったらいいか分かりませんでしたが、私はとにかく逃げました。
夢なら覚めて欲しいと何度も何度も何度も願いました。
無我夢中で走っていると明かりがついた住宅が見えました。私はその家に助けて欲しいと懇願して、中に入れてもらい、そこで泊めてもらうことにしました。
明日になっならここを出て、東京へ帰ろう。離婚届はKさんと暮らした部屋に置いておいて、あとはどこかに身を隠そう。
少しだけ安心したのも束の間でした。
外から車の音が聞こえて、しばらくしてインターホンが鳴りました。毛が逆立つくらいの嫌な予感は的中して、訪ねてきた人はKさんでした。家主の方がKさんの実家に電話をしたそうで、Kさんの実家で見た札がここの家にもあったのをあとで知りました。
Kさんは震える私を見ると、意外にも申し訳なさそうな顔をして「少し話そう」と言いました。
「ごめん、ずっと黙ってて」
Kさんは私を車に乗せて、運転しながら穏やかに切り出しました。
「俺が住む地域はずっと前からああなんだ。小さい頃からこの土地で生まれる人間はオメシキさまに呪われている。けどその呪いは分散できるんだ。そうすれば一人一人の呪いは軽くなる。だからみんなでオメシキさまを称えて、家族で呪いを分け合って、そうすればみんな幸せになれる」
「オメシキさまってなんなの?」
私は聞きました。けれどKさんは「この土地の神様だよ」と、それだけです。実態がなんなのか分かりません。
「母さんから見せられたおまじないを心で唱えただろ?もう君も繋がったんだよ、呪いは分けられた。逃げられないさ。君にもいずれオメシキさまが見えるようになる。君に子ができれば子にも呪いは分けられる。家族みんなで幸せも苦しみも分け合って生きられる。それはとても美しいことなんだ。わかるだろ?」
Kさんの横顔は恐ろしいほど優しくて、私はまだ恋人の関係でいた時の彼を思い出しました。
「大丈夫だよ。君は一年間も妻としての役目を果たしてきたじゃないか。母としての役目もきっと務まるさ。家族が自分の役目を全うしていればきっとみんなで幸せになれる」
真剣で愛情深い彼の声に涙が出ました。彼はきっと本気で私との幸せを望んでくれている。私も彼と幸せになりかった。家族になって、暖かい家庭で笑顔で幸せに暮らしたかった。幸せを掴みたい。
覚悟を決めました。
「一緒に外に出て星を見たい」そう言って車を停めてもらい、2人で外に出ました。降りた場所は山腹の休憩用広場で、下を見れば田舎町の長閑な夜景が広がっています。
広場には誰もいません。私は崖のようになってる広場の端に立ち、美しい景色を見て深呼吸していると、隣にKさんがきてくれました。周りはとても暗いので空を見上げれば星の輝きが綺麗だったことを覚えています。
2人並んで景色を眺めながら私はKさんに言いました。
「私、頑張って幸せになるね」
「ありがとう」
Kさんは嬉しそうに微笑みました。
「さようなら」
そう言い切る前に景色を眺める彼の背中を強く押しました。彼は抵抗する間もなく「あっ」とだけ声を上げて崖下に落ちていきました。
身体のどこかが割れた音は思ったよりも大きく響くんですね。
それからのことはあまり覚えていません。恐らく翌日の夕方ごろには東京に帰れたと思います。Kさんの車で帰ったんだと思います。
なんてことはありません。Kさんと別れたのはお互いの幸せの価値観の違いです。
Kさんの地元地域は因習村、もしくはカルト宗教か何かだったのでしょう。男は家長として働き家庭を守る役目を果たし、女は子を産んで家事をして夫を支える役目を。こんな何の根拠もない誰が決めたかわからないものが、彼らの信じる幸せの家族の姿なのでしょう。
しかし東京へ帰ってもそれは変わないことに気づきました。テレビをつけて、当たり前のように「男は家事に向かない」「女は育児に専念すべき」と宣う司会者やコメンテーターがいた時はこの人もあの因習村出身なのかと背筋が凍りました。でもきっとそれだけではありませんね。結婚することが当たり前でそれが全て幸せと信じる親戚や友人たち、過去の私すら、みんなみんな根拠のない何かに囚われたカルト宗教の一つにすぎないのかもしれません。
私は東京へ帰ってきてからは仕事を始めて、1人で静かに暮らしています。けれど少し困ったことが起こっています。
それはベランダにいつもKさんがいること。いる、と言ってもずっとそこにいるわけではありません。私がベランダに目を向ける時、Kさんはあの日死んだ時と全く同じようにそこから落ちていくからです。
今もベランダを見るとKさんの背中が見えます。ほら、また落ちた。あの時と同じ音まで聞こえます。
Kさんが私に呪いをかけたのでしょうか?それとも私の気がおかしくなったのでしょうか?
どちらにせよ、もうどうでもいいことです。だってあのおまじないを読んだ時から呪いを分けられてしまったのですから。呪いが一つや二つ増えようが同じことです。
ええ、そうです。Kさんが「いずれ見えるようになる」と言ったことはどうやら本当のようです。部屋の隅で人間のようなものが私を見ているのです。言葉では言い表せられない、決して神様とは言い難い禍々しいものです。アレが彼らが崇めていたオメシキさまというものならば、神様ではなく、ただの呪いでしょう。昔村で何があったのかは分かりませんが、彼らが何も考えずにコレを必死に崇めて称えていたなんて、おかしな話ですね。意味のわからない決まりや価値観まで押し付けて。
けれど私はKさんに約束したのです。
頑張って幸せになる、と。
オメシキさま。
これで17個目です。
エッセイを書いて本当によかった!
どうか皆さんに届きますように。
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