突然現れた魔女っ子が帰ってくれません。

真辻春妃

第1話



 珍しく部屋のインターホンが鳴った。休みの朝のことだ。思えばこれが全ての始まりだった。


 俺はのぞき穴から来訪者を確認した。男の一人暮らしなので女性のそれに比べると警戒レベルは下がるが、セールスだと面倒だ。


 レンズの先には制服姿の配達員が小包みを抱えて立っていた。宅急便らしいと察して、ためらいもなくドアを開けた。


 配達員から名前を確認されて、渡されたボールペンで伝票にサインをする。四角い箱型の小包みを受け取ると、配達員は一礼して去って行った。


「……三神みかみジュリ、って。誰だ?」


 受け取った包みを凝視し、眉を潜めた。差出人名に全く心当たりがなくて、首を捻った。


 宛名書きは“吉良きら大和やまと様”となっており、俺の名前に間違いないのだが、誰からか分からない。


 これは開けるべきだろうか?


 俺は唸った。一方的に送り付けておいて、あとから金を請求される詐欺かもしれない。


 小包みをいったん折り畳みテーブルに置き、腕を組んだ。伝票にある内容物は“本”となっていて、これもまた思い当たる節がない。


 開封せずに送り返そうと思った。スマホを手に伝票からそれらしき番号を探すため再度目をやると、急にカタカタと包みが震え出した。


 えっ!


 無意識に後ずさっていた。中身は本と書かれているが、実は何かの生き物かもしれない。


 得体の知れない包みを見ていると、ぱぁっと光った気がして更に後ろへ下がる。


 俺は自分の目を疑った。


 包みがひとりでに開き、その中身を露わにする。くすんだ赤い表紙の、分厚い本が出てきた。今度はその表紙が強く光り、目を細めた。


 一度瞑った目を開けると、いつの間にどこからどうやって入ったのか、そこには女の子が立っていた。長い亜麻色の髪に赤いリボンを付けている。


 ……は?


 手から力が抜けてスマホが落ちた。


「はじめまして、私は三神ジュリと申します。吉良大和さんでお間違いないですかー?」

「……あ。はい」

「おめでとうございます、あなたは見事、ケリー魔法魔術学園二年後期の進級課題人材として選ばれました。なので今この瞬間から………。えーと、なんだっけ?」


 茶色の丸い瞳をぱちぱちさせながら、得体の知れない女の子は首を傾げる。


「え、つーか。実物? ホログラムとかじゃなくて??」


 試しに人差し指で彼女の黒いワンピースをつついてみた。


「っうわ! ふふ、不審者!?」


 実体のある人間だと理解して、俺は大袈裟に飛び退いた。女の子は、あ、と何かを思い出した表情かおをする。


「不審者ではありません。私は魔女見習いの三神ジュリ、十七歳です。

 今この瞬間からあなたは恋する魔法を請け負うことになりました。ご協力のほど、よろしくお願い致します」

「……いや。ちょっと何言ってるか分かんないっす」


 さっきから魔法とか学園とか言ってるけど、ハリーポッターじゃあるまいし……これはアレか? 厨二病。


「とりあえず帰って貰ってもいいですか? ここ俺の部屋うちなんで」

「帰ることはできません。課題対象のあなたに恋の魔法をかけるまでは、帰って来るなと言われています。なので強制的に居候させていただきます」

「いや、帰れよ。何が強制的だ」

「課題をやり遂げないと私は進級できません」

「知るか、ンなもん、帰れ」

「キラさん、私を救えるのはあなただけなんです。どうかご協力のほど、よろしくお願いします!」


 かえ、と言いかけて固く口を結んだ。そんなうるうるした目で懇願されると、こちらとしても扱いに困る。


 ……よく見りゃ顔は可愛いし。


「んじゃ、一応聞くけど。その課題対象とか恋の魔法とかってなに? 俺は何をすればいいわけ?」


 女の子の表情がパァッと明るくなった。


「私があなたに魔法を掛けます。上手く掛かるとあなたは私のことを好きになります」


 はぁー!??


「俺はロリコンじゃねぇー、帰れ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る