自分が本来持っていた、希望とか、喜びといった感情が、日々の生活の中で、次第に隠れてしまう。遠ざかってしまう。表に出て来なくなる。そんな時に、寄り添って、心を取り戻す手伝いをしてくれる。そんな不思議な存在を描いた物語なんだな、と思いました。文中で使われるルビも、「新奇な表現手法」ではないことが、読み進めると分かってきます。冒頭の雰囲気に惹かれた方は、是非このまま、読み進めて欲しいと思います。
認知行動療法的なセラピーに参加した女性が自分の感情の機微に気づいていくというあらすじです。これは自分は個人的に面白いと思いました。このセラピーがプラグマティズムの極致とも言えるのではないかと思えましたし、そこで自分に気づいていくというのが現代的だと思いました。最後の場面で映画を見るという行為のさきで自分に気づくということが、まさに語るに落ちたというのが素敵でした。
忙殺される日々に休息すら作業となり、ひと月があっという間に過ぎ去る……大人になれば誰もが覚える虚しさですが、すり減った心を癒すのは、かつて自分の中に在った天真爛漫な感受性だという解釈が素敵でした。作中ゆったりと流れる時間が、日々の尊さを思い出させてくれました。