旅立ちの章
*****
「そうだ、私の名前はエリー。あなたは?」
「私は・・・メルドアード。」
「へえ・・・! かっこいい名前だね。」
「・・・かっこいいより、可愛いほうがいいな。
それに、もうすぐ『ダグドレア』という名前を継がなきゃいけないの。」
「ええ・・・それはちょっとひどいかも。
ねえ、じゃあ『メル』って呼び方はどう? 可愛いと思うよ。」
「えっ・・・! た、確かにいいかも。」
「じゃあ、メル。これからもよろしくね。」
「うん! よろしく、エリー!」
*****
「エリーの魔法、本当にすごいね。
ちょっと練習してるだけで、どんどん強くなってる気がするよ。」
「ほ、本当? 先代からの幹部達は、私はまだまだ未熟だって・・・」
「何言ってるのかな、その人達。
案外、メルがどかんとやったら、簡単に外に出られたりしない?」
「そ、それは恐いよ・・・いくら私が先代の娘だからって、何をされるか分からないし、一人だし・・・」
「あっ、ごめん。やっぱり私が強くなって助けに行くから、もうしばらく待っててね。」
「うん・・・・・・でも、エリーも無理はしないで。出来る限りのことは教えるから。」
*****
「ねえ、メル。魔族はひどいって何度か聞いたけど、人族も十分にひどいかも。」
「えっ・・・そうなの?」
「うん。魔族のことは倒すべき敵としか考えてなくて、個々に目を向けるとか無いんだよね。
戦争のために税金も上げるとか言い出すし、それに疑問を持たせないような教育をしてるし。」
「そんな・・・! いや、一緒なのかな。」
「一緒・・・?」
「うん。人族も魔族も互いに嫌い合ってるだけで、同じようなことを考えてるのかも。」
「ああ・・・ありそう。戦争が何度も何度も起きるわけだよね。」
「うん・・・・・・」
「メル。私は人族だけど、今いる国はもういいかな。
『勇者』候補なんて呼ばれ始めてるけど、メルを助け出したら、さよならするよ。」
「う、うん・・・エリーがそれでいいなら。」
*****
「えっ・・・! エリーのお父さんは人族と魔族の戦争で? そんな・・・!」
「うん。過去の記録を見てたら、たまたま名前と出身地があってね。
山で暮らしやすくするお金を稼ぐために、志願兵に参加したみたい。」
「・・・・・・私、エリーに助けられる資格なんてあるのかな。」
「何言ってるの。メルは何も悪くないでしょ。」
「でも、私は魔族で、それに『魔王』まで継いでいて・・・」
「もし悪いというなら、何度も戦争を繰り返そうとする、人族と魔族の両方だよ。メルがこんな思いをすることも含めてね。」
「エリー・・・・・・」
「ねえ、私はメルが大好き。人族とか魔族とか関係なく、メルを助けに行くよ。」
「ふえっ・・・? だ、大す・・・・・わ、私も、エリー大好き・・・」
「あっ・・・・・・これ恥ずかしいけど、すごく嬉しい。」
「わ、私もだよ・・・・・・!」
*****
メルと抱き合っていたら、今までのことを思い出してきて、胸がいっぱいになる。
「エリー、ずっとこうしていたいけど・・・」
「うん、終わらせなきゃね。」
だけど、今は『勇者』と『魔王』が異空間の中で戦っている・・・周りの人達はそう思っている状況だ。いつまでもこのままではいられない。
「じゃあ、行くよ。」
「うん・・・!」
もちろん、毎日のように水球越しに話をする中で、この後のことも考えてある。
今の私達なら使える、特別な魔法・・・!
「『水鏡』。」
私達の身体を光が包む。これは、ずっと使ってきた水球の魔法をもとに、もっと深く繋がり合うためのもの。
「わあ・・・私の中にメルがいるみたい。」
「わ、私も・・・! すごく不思議だけど、嬉しい気分。」
今なら私もメルと同じ魔法が使える。メルも私がしているように剣を振れるだろう。
ずっとお互いを見てきた私達だからこその、同調の魔法。
「それじゃあ、エリー。私に合わせて。」
「うん!」
終わらせるための魔法を二人で組み上げてゆく。大きな効果を出すには、メルといえども一人では大変らしいけど、私も力になれるなら・・・!
「出来た。このまま発動するよ。」
「分かった・・・!」
言葉と共に、繋がり合った心でその時を合わせる。
『
発動と共に、魔王城を吹き飛ばすほどの爆発が起こり、暴走する魔力は嵐となった。
『うわあ・・・やってみると随分と凄い光景だね。』
『そ、そうだね・・・やりすぎたかも。』
つい先程まであった城は原形を留めないほどに崩壊し、辺りの者は人族・魔族を問わず荒れ狂う魔力の嵐に巻き込まれ、風魔法を使える者が必死に助けようとしている。
何が起こるかもちろん知っていた私達は、姿を隠す魔法を使いながら、風に乗って上空へ逃れているけれど、
声を出せば気付かれるかもしれないから、会話は『水鏡』で心を通している。
『勇者も魔王もいなくなって、この有様・・・
敵対する者を倒す力ばかり追い求めていた人達は、これを見てどう思うかな。』
『・・・少しくらいは、考えが変わるといいよね。』
『うん・・・! さて、私達も色々な意味でここには居られないから、まずは私の家に行こうか。』
『エリーのお家・・・!! ずっとここにいたはずなのに、なんだか懐かしい!』
『あはは、それは嬉しいな。』
そうして、私達は姿を隠したまま、初めて出会った場所へと舞い戻った。
「ふう・・・やっと着いたね。風魔法でずっと飛んで帰るのは、少し疲れるかな。」
「そうだね・・・今考えてる魔法があるんだけど、目印みたいなものを置いておけば、好きな時に戻って来られる、というのはどう?」
ようやく湖のほとりへたどり着き、『水鏡』も姿隠しの魔法も解除する。
「それ、出来たらすっごく便利だと思う。すぐにでも作ればいいんじゃないかと思うくらい。」
「うん! 大掛かりだからすぐには難しいけど、絶対に完成させるよ。」
「楽しみに待ってるよ、メル。
さて、ずっと動いてばかりで汗かいちゃったし、水浴びする?」
「うん・・・あれ? ここでのエリーの水浴びって・・・」
「ん? 全部脱いで湖に入るだけだよ。」
「~~~!! そうだよね。私の魔法を見付けた時もそうだったよね・・・」
「メルはこういうの嫌?」
「ううん・・・エリーと一緒ならいいよ。
でも、私初めてだから、お手柔らかに・・・」
「あはは、任せて!」
そうして、恥ずかしがってあちこち隠そうとするメルを抱き上げて、久し振りの湖での水浴びを楽しんだ。
「初めてエリーと話したのは、ここだったよね。」
「うん。山を下りてから全然帰ってなかったから、あちこち傷んじゃってるけど。」
今夜眠る場所は、もちろん湖の近くに立つ、私が生まれ育った家だ。
「私は構わないよ。それに・・・」
「うん、旅に出るんだもんね。
人族も魔族も気にしないような、好んで戦争なんてしないような場所を探して。」
「いつか、見付けたいよね。」
「うん・・・!」
「さて、そろそろ寝ようか。
これ、人族の野営用の毛布だけど・・・一つあれば十分かな?
「うんっ!」
そうして、大柄な人でも大丈夫なように作られた毛布に、二人でくるまる。
「今日からは寝る時も一緒だね。」
「えへへ・・・幸せ。」
間近で微笑むメルがとても可愛くて、
そのままぎゅっと抱きしめてから、眠りについた。
*****
「ここが、オルフス北嶺・・・!」
「うん。この先へ行った人は、記録上いないんだったね。」
「でも、私達なら。」
「うん、いざとなったら風魔法で飛べるし、まずはこのまま進んでみようか。」
旅に出て数ヶ月。この日々にもすっかり慣れて、旅そのものを楽しむようになってきた私達は今、そびえ立つ山脈の前にいる。
この向こうには、一体何があるのだろうか。
「そうだね。エリーと一緒なら、どこまでも行ける気がする!」
「うん! 私もだよ、メル!」
私達の新天地を探す旅は、まだまだ続いてゆく。
水鏡の勇者と魔王は新天地を目指す 孤兎葉野 あや @mizumori_aya
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