第66話 冒険者の本分

 三人で手分けしてペガサスの解体に掛かる。

 二人ももはやこの作業には手慣れたもので、俺が腹を裂いて内臓を取り出すと、スルスルと皮を剥いでいく。元々、学校でも習うことだけど、動きがかなり様になってきた。


「でーきた!」

「中々上手くできたわね。取りこぼしも少ない」

「やせっぽちになっちゃった」

「最初の頃は肉が骨に余りすぎてたり、逆に骨を削ったり、色々あったなぁ」

『お父さんかな?』

『ハジメちゃんが保護者の顔に』

『なお、まだ一ヶ月強しか経ってないもよう』

『一ヶ月も一緒にサバイバルしたら父性も湧くだろ』

「おとーさん?」

「やめろ。そんな歳じゃない。おにーさんと呼べ」


 上の世代に言わせれば二十代は二秒で過ぎるというけれど、まだまだ先の話だ。

 先の話であってほしい。


「さぁ、食べ比べをしよう」


 丁寧に摺り下ろしたニンニクとショウガ、それから醤油とはちみつを混ぜたタレを作り、薄く切り分けた馬刺しをいただく。


「いただきまーす!」


 ペガサスも通常の馬と同様に体温が高く、生食に向いている。

 生活圏が空なこともあって、通常よりも寄生虫のリスクも少ない。

 万が一、寄生虫に当たっても冒険者は虫下しを常備しているもの。

 気兼ねなく美味しくいただくとしよう。


「美味しい……背中のお肉はさっぱりしてますね」

「あれ? このお肉真っ白だ」

「そこはたしかたてがみが生えてたところだな」

「たてがみかー。いただきまーす。わぁ! ぷにぷにコリコリしてて口の中で溶けちゃいますよ! 美味しー!」

「俺は肩の部分を……おお、いい歯応え」


 生で食べるのに向いていなさそうな硬い部位は、明日以降に料理にしよう。


『いいな、俺も馬刺し食いたくなってきた』

『スーパーに馬刺しって売ってたっけ?』

『たしか精肉店にあったよな。魔物専門のほうだけど』

『それだ! 行ってくる!』


 魔物肉の存在も今となっては当たり前のことになっている。

 市場に流通し始めた頃なんかは、魔物肉を食ったら魔物になってしまうのではないか? なんて風評が世間を賑わせていたらしい。

 もしそれが本当だったなら俺たちは今頃、果物と木の実だけで飢えを凌いでいたか、なんらかの魔物になっていたわけだ。

 ただの風評で本当によかったと思う。


「ごちそうさまでした」

「ごちそーさま!」

「ごちそうさま」


 刺身にした分はすべて食べ終え、腹は満たされた。


「ふぅ」


 すこし休憩したら片付けにしよう。


『ハジメちゃんこれからどうすんの?』

「どうするって?」

『引っ越しも終わって生活も安定してきたでしょ』

「あぁ……そうだな。生活のためにあれこれする段階はもう過ぎたかもな」


 当初の第一目標だった生活基盤の安定は成し遂げられていると見ていい。

 雨風凌げる家があって、ふかふかのベッドがあり、着る物に困らず、食う者もたくさんある。引っ越しも終わって、すこしは脱出に近づけた。

 なら。


「これからは本格的にダンジョンの最奥を目指していこうか」

「おおー!」

「ぐ、具体的にはなにを?」

「なに、いきなり何もかもが変わったりしないよ。ただすこし前のめりになるって話」

「前のめり?」

「食うために魔物と戦うんじゃなくて、いやもちろんそれもあるけど、これからはダンジョンを攻略するために魔物と戦うんだ。ようは冒険者の本分に戻るってこと。その第一歩として」

「第一歩として!」

「まずは雲海エリアに行こう」


 雲海エリア、そこは雲の上の世界。

 この群島エリアに似ているが、その危険度は雲海エリアのほうが上だ。

 まずはそこを足掛かりに、二人にはステップアップしてもらおう。

 ダンジョン攻略の最前線だったエリアでも、十分に戦えるくらい強くなってもらわないとな。

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ダンジョンに幽閉されたクラフターによる快適サバイバル配信生活 〜最高品質のアイテム作成で拠点も武器も作り放題〜 黒井カラス @karasukuroi96

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