第65話 空飛ぶ靴

「よし、できた」


 ペガサスの蹄をスライスして靴裏の爪先と踵部分に貼り付けたシンプルな作りだ。

 気休め程度の効果しか見込めないけど、空中歩行のサポートために一対の小さな翼も飾りとして付けている。ペガサスの翼は気流を抵抗なく受けて方向転換を助けるためのもの。これがあれば足がほんの少しだけ運びやすくなる。

 機能のオンオフは魔力を流すか否かで切り替え可能だ。


「わぁ! 見て見て雲雀ちゃん! 私、空を歩いてる!」

「すでに何度か歩いてるでしょ?」

「それは雲雀ちゃんの魔法のお陰だもん。自分の足で歩けるのがいーの! たのしー!」

「あ、あんまりはしゃぐとスカートが」

「スパッツ履いてるから大丈夫ー」

「大丈夫じゃない!」

「おっと、ミセラレナイヨ」


 そっとカメラを手の平で隠す。


『ずるいぞ、自分だけ!』

『画面をブラックアウトさせる配信者がどこにいる!』

『ブラックアウトさせるならスパッツの黒で頼む』

「さっき配信のコメントにもマナーがどうのこうの言ってた連中とは思えないな」


 同じリスナーがコメントしているわけじゃないのはわかるけども。


「あと俺はずっと足下だけ見てるからな」

「伊那! 一度、下りてきなさい!」

「やだー!」


 自分が作った靴を履いて喜んでくれるのは嬉しいけど、そろそろ画面を暗くするのも限界だ。頭上ではしゃいでいる伊那と、ついにそれを追い掛け始めた雲雀に声を掛けると、二人はすんなりと地上に下りた。


「もう。私があれだけ言っても聞かなかったのに。ハジメさんの言うことはすぐに聞くんだから」

「えへへー、はしゃぎすぎちゃった」


 あれだけ空中ではしゃげるなら、靴のほうの機能に問題はなさそう。

 これで不意の落下にも備えられる。この群島エリアにいるうちは空飛ぶ靴を履いて、それ以外では普通の靴と使い分けていこう。


「そのうち空中での戦闘訓練もしないとな。慣れがいるぞ」

「空中戦闘かー。たしかにさっき遊んだ感じだと、結構大変そー。雲雀ちゃんはお手の物でしょ?」

「まぁ、そうだけど。でも、この靴を履きながらだと勝手が違うから訓練は必要ね。こっちのほうが魔力効率もいい」

「空気を足場にしてるから地面とは感触が違うし、踏み込むと若干沈み込むからそれも加味して戦わないと隙ができる。隙が出来ると付け入られる」

『そして死ぬ』

「一瞬の隙が命取りって奴だ」


 俺もペガサスの蹄で空飛ぶ靴を作ったばかりの頃は、それはもうままならなかった。

 トライアンドエラーの繰り返しでどうにかまともに戦えるようにはなったから、二人にも空中の歩法を習得してもらおう。なに、すでに経験者の俺がいるんだ、さほど時間は掛からないはずだ。


「でも、この拠点周りには凶暴な魔物もいないし、ゆっくりやろう。空中戦が出来るようになったら行けるエリアも増えるしな」

「そうすれば脱出にまた一歩近づけますね」

「はやくお家に帰りたーい!」


 この群島エリアのように足場が少ないエリアもあるし、魔物に制空権を支配されているエリアもある。伊那の言う通り、早く家に帰るためにも、二人には頑張って貰わないと。


「よし、じゃあ飯にするか」

『今日はなに食うの?』

「そうだな。せっかくペガサスを狩ったことだし、馬刺しにするか」


 バブル・ケルピーを狩った時には醤油もハチミツもなかったけど、今ならタレが作れるはず。ショウガやニンニクもエルフの里から貰ったものがあるし、畑にも植えてある。


「二人ともそれでいいか?」

「はい、馬刺しって食べたことないかも!」

「私も食べて見たいです、馬刺し」

「いいね、決定だ」


 さっそく肉を切り出さないと。

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