第6話 そして、現代

 その後、私は天使にスカウトされた事を二人に話す。イチが不安そうな顔をすると。私はきっぱり天使には成らないと言う。


 でも、それは二人との別れを意味する。


 あの三人の老人は別れの時間をくれたのかもしれない。


「お姉様、明日は休みを取って新橋のアイスクリームを食べに行きませんか?」

「やれやれ、モテるのも気が引けるな」


 珍しく麻紀さんは冗談を言う。確かに凛とした麻紀さんは男女問わずにモテるだろうが。


「今度はイチも一緒だ。イチ、新橋のアイスクリームは美味しいから期待していいぞ」

「川菜、無理している。やはり、私が天使に戻る事を辞めればいいのか?」

「大丈夫だ、私は天使に向いていない。輝くハーモニカの音色が出せるイチの方が天使むきだ」


 翌日。


 私達は新橋のアイスクリームショップに居た。イチはアイスクリームを初めて食べるらしい。


「なにこれ!!!冷たくて甘くて美味しいな」


 幸せそうなイチはアイスクリームが気に入ったらしい。しかし、麻紀さんは楽しそうでない。


 私は麻紀さんの手を取ると永遠の友情を誓う。


「離ればなれになってもお姉様の事が大好きです」

「川菜君……」


 泣きそうな麻紀さんを私は一生懸命に支える。


 そして、約束の三日目の朝になった。


 私が目覚めると『大正見聞録』が目の前に置かれていた。そう、この本を開いたら大正時代に来ていたのだ。この本を開けば元の現代に戻れるのか……。


 私は静かに『大正見聞録』を開く。光と共に意識が薄れる。


 ―――……。


 気が付くと図書室の倉庫の中である。手にしていたはずの『大正見聞録』は無かった。


 これで憂鬱な、ただの女子高生だ。


 私は授業をふけて屋上に居た。自然と涙がこぼれる。


 その瞬間である。


 空の空間が歪むと浮遊島が現れる。


!?


 すると、浮遊島から光と共に二人の影が降りてくる。天使姿のイチと麻紀さんだ。


「来ちゃった」


 麻紀さんとイチの二人が恥ずかしそうに言う。


 どうやら、これからの女子高生としての生活は刺激的に変わるらしい。

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天使の失われた世界@それは大正時代での百合物語り。 霜花 桔梗 @myosotis2

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