第一話【邪闘者 来襲】

ここはウォルト村、大自然の中央に佇む。

 草木が生い茂り、緑一色に染まるその風景はまるで絵画のようだ。

 村の周りには樹木がしっとりと茂り、季節ごとに変わる花々が彩りを添えている。


 小道は静かに続き、その先に立つ木造の家々が風景と一体化し、

 家の周りには手入れされた畑や花壇が広がり自然と共存する様子が見受けられる。


 人々は穏やかな日常に浸りながら、青空に広がる木々の葉っぱがそよ風に揺れ、

 鳥たちの囁きが心地よく響く中で生活していた。

 豊かな大自然が村を包み込む様子は、

 まさに心安らぐ絶好の場所と言えるだろう。


 そんな中、『アルマ』が村一番の乱暴者、『ジェイア』達に絡まれていた。  


 アルマはメガネをかけ、少し濃いめの緑色の髪を無造作にまとめた15歳の少年。

 端正な顔立ちには少しの青さが漂い、知的で物静かな雰囲気を纏っている。

 服装は村の中では珍しくもおしゃれで、その一方で本を大切に抱えている姿が特徴的。


 一方のジェイアは、野性的な風貌が目を引く。

 粗野な印象の濃い青の短髪にはいくつかの傷跡があり、

 15歳にして早熟な風貌を持つ。

 筋肉質でたくましい体つきが、彼の荒々しい性格を強調している。

 服は無造作にまとめられ、挑発的で凶暴な雰囲気を醸し出していた。


ジェイアは無造作にアルマの手から本を奪い取る。アルマは驚きと怒りが入り混じった声で叫んだ。


「や、やめてよ…! 僕の本返してよ!」


「うるせー! ちょっと借りるつってるだけだろー!」

「ふんふん…ぎゃはは! んだこの幼稚な本は…よ!」


 懇願する彼をよそに、そう笑い飛ばすと乱雑に地面へ叩きつけた。


「あぁ…!」

 

「ふんっ! ふんっ!」


 ジェイアは冷笑しながらアルマの大切な本を嘲り、その価値を粉々にしようとする。

 無慈悲にも、彼のお気に入りの本を地面に叩きつけ、

 さらには粗暴な足踏みで何度も踏みつけてしまう。

 本は無残にも土に擦り潰され、

 ページはグシャグシャになり、魅力的な装丁は泥で汚れてしまった。

 ジェイアは冷笑いながら、半泣きになったアルマの両頬を掴み、

 威圧的な姿勢で彼を圧倒する。

 アルマは恐怖と屈辱に顔を歪め、無力感に押しつぶされそうな表情を浮かべた。


「おいアルマァ! てめぇ未だに『闘神』とかいう存在を信じてんのか!? オタク臭くて気持ち悪りぃんだよ!」


 ジェイアの気迫に圧倒されながらも、アルマは震えながらも勇気を振り絞り、

 ジェイアに向かって困り果てた表情で反論する。

 彼の声は微弱で、しかし決して屈しない意志がにじんでいた。


「し…信じてるよ! 闘神様は絶対存在した! だって…今の僕たちがあるのは闘神様が人類に力を…闘心力を分け与えてくれたおかげだから!」


「かーっ! 何の根拠にもなってねーだろそれー! たまたまだよたまたま! この世界に闘心力なんてもんが生まれたのはたまたま! 偶然なんだよ! だよなお前ら!」


 ジェイアが言い放ちながら振り向くと、取り巻きの2人は興奮気味に頷き、「そうだそうだ!」と口々に同調する。

 その一体感が、アルマに対する圧迫感を増していく。


「き、君こそなんの根拠にもなってないじゃないか!大体…僕達━━━━━」


 

 突如言葉が遮られ、彼の視界からジェイアが遠ざかる、顔面にぶつかる衝撃とともに。

 アルマは殴られたっぽい。


「うぐっ……!」



 轟く音とともに、横に横たわるようにして身体が地面を滑り落ちる。

 アルマの体は殴られた衝撃で横向きになり、土埃が立ちこめる中、

 彼は痛みに歪んだ表情を浮かべた。


「おいアルマぁあ…! いい加減にしろよぉ…。むかつくんだよぉ…お前を見てると」


「む…むかつく…?」


「お前みたいによ、あり得ねえ架空話ばかり見て幻想抱いてる奴見てるとムカつくってんだよ! 闘神だぁ? んな奴がいたら今頃『邪闘者』や『闘魔』どもは滅んでるよ! ちったぁ現実見やがれ!」


 この世界には『闘心力』という概念が根付いていおり、

 この力は原則的にこの世に生を受けた者なら誰にでも与えられるが、稀に例外も存在する。


 授かった者は、身体の一部に独特な紋様を刻まれ、それによって様々な能力を引き出すことができる。

 この力を有し他者のために有益に使う者は、

『闘心者』と呼ばれ、授からなかった者は『無闘者』、

 与えられながらも上手く発揮できない者は『非闘者』と呼ばれた。


 しかしその力を悪用し、個人的な利益や殺害目的に利用した者は『邪闘者』として知られ、

 その力によって凶暴化した魔物は『闘魔』と呼ばれている。

 彼ら、つまり『邪闘者』と『闘魔』は極めて人類に敵対的で、

 その存在自体が害悪であった。


 この村は小規模であるため、略奪を企む者たちが絶えることはなく、

 常に村人たちは防備を固め、邪闘者や闘魔からの脅威に備えていた。



「それはあくまで…心の汚い人間達が力を悪い方向に扱ってるだけだろ! 闘神様がいないことと何も関係ないじゃないか!」


ジェイアの一撃を受け、フラフラになりながらも立ち上がるアルマ。


「まだそんなこと言うか! るっせえんだよ!」


そんな彼を見てジェイアは更に激昂した


「ッッ!」


 再び拳が飛ぶ。

 正面目掛けて一直線に迫る。

 しかし寸前でその拳が急激に停まった、いや停められた。

 まるで無理に引き戻されるように。



「なにやってんだ!」


 赤髪と黄色のマフラーが特徴的な男児、レン。

 蒼色の瞳が鮮やかに光り、

 ジェイアの腕を確かな力で掴んでいた。


「ッッチ! んだよ…偽善者のレンかよ」


素早く彼の手を振り払い、距離を取るジェイア


「なんだと!? 本善だ本善! 俺の善は本物だー!」


「くそだりぃんだよてめぇはよぉ! 行くぞお前ら!」


「「おっ…おぉおー!」」


 後ろで戸惑う取り巻き2人と共に、レンに襲い掛かる。

 レンは鋭い目つきで睨み、漢らしい表情で自信に満ちた姿勢で立ち向かっていた。


━━━━━━数分後


「びぼぼばんぼうぶぶなぼ」(2度と乱暴するなよ)


 レンの顔は不自然に右側だけ膨れ上がり、血がにじんでいた。

 一方でジェイア達はほとんど無傷のままだった。


「…馬鹿か…こいつは?」


「何で勝ち誇ってるんですかねぇ…」


「右そんな重点的に殴ったっけ?」


三人一斉に呆れながらツッコむ。


「はぁ…はぁ…目障りなんだよお前! 闘心力も未だに持ってねえくせに俺たちに突っかかってきやがって! そのくせ絶対倒れねえし!」


 三人は確かに無傷であったが、息切れした呼吸と共に立ち上がるのは辛そうだった。

 対照的に、レンはその異常なタフさを見せ、まるで疲れていないような様子で立ち尽くしている。


「ぼまえらぼぼうべびば━━━━」


「ハァ…! ハァ…! 何…言ってんのか…ハァ…わかんねえよバカ! 行くぞ…ハァ…! お前ら!」


「へ…へぃ…」


「ったく…ハァ…どうなってんだあいつの体…」


 喋るのもやっとなほど傷つけたのだろう。衰弱した様子でトボトボと取り巻きと共に帰っていった。


「ばいぼうぶ?」(大丈夫?)


「まずは治療しようよ…」

 

 レンはアルマの方へ振り返り心配するが、それ以上にアルマはレンを心配していた。


━━━━時は少し経ち、アルマ宅


「ごめんね…いつも助けてもらってるのに何もできなくて」


 アルマの治療を受け、レンの前にコト…とお茶と茶菓子が置かれる。


「それな! え!? あれ! 俺が殴られてるのを見てばかりでなんで助けてくれねえんだ!? っていつも思ってるぞ!」


 冗談混じりに乱雑に言い放つレン。


「う…ごめんね…僕、喧嘩した経験がなくて…人の顔を攻撃することなんてできないよ…」

「冗談だよ。んで、今回はなんで虐められたんだ?」


 ズズっとお茶を啜りながらそう聞くとアルマはピタッと止まった。

 レンは「電池切れかな?」と思った。


「……」


「ま…まさかお前…なんか変なことされ」


「ちがうよ…!変な誤解しないでよ…」


「おぉ…その反応でよりマジっぽくなった…」


 悪ふざけ地味た対応をするレンに少しウザさを感じながらも無視して話をするアルマ


「レンは…さ…闘神様って信じる?」


 しどろもどろになりながら、心臓をバクバクと言わせながら勇気を振り絞り問う。


「信じてるよ」


「ッ!」


 即答した、意外にもあっさりと。


「ほ、ほんと? 適当に言ってない…よね?」


「ああ。この本、なんたって書いたのは『闘心協会』の長、トキ会長なんだぜ? なのにジェイアの野郎…なーんであんな頑なに信じないんだろうな」


 h机に置いてあるボロボロの本を見つめながら言い、嬉々としながら茶菓子を口に運ぶレン。

 それを聞いたアルマは心底嬉しそうに話した。


「だ、だよね! 僕もこの人が書く本はかなり信憑性高いと思うんだ! 君の父さんが持っている力も辻褄が合うし! やっぱりあったんだよ! 大昔に魔神と闘神様による戦争がさ!」


本を持ちキラキラした目でレンを見つめる


「はは、大興奮だな。」


「勿論だよ! それなのにあいつらときたら! 頭ごなしに否定するしお爺ちゃんも適当に返すし! この村の外に出たことが無いくせになんだってそんなことが言えるんだよって感じ!」 


 外は常に危険が潜んでおり、村には邪闘者が侵入してくるたびに、

 レンの父であるヨウ含む大人達が彼らを撃退していた。

 このため、村の子供たちは戦闘の経験がなく、外部の情報も制限されている。

 村長たちは子供たちが外に出ることを厳しく禁じ、能力を持つ者も極めて限られていた。


「それにしても…君の父さん凄いよね。この村1番の闘心力を持ってるし、何度も何度も闘魔や邪闘者達を返り討ちにしちゃってさ!」

「へへ、だろ。俺もいつか父さんみたいになりてえよ。」


 ヨウは以前、【闘心協会】という組織に所属していた。


 この組織は正義感あふれる闘心者たちが協力し、邪闘者と闘魔の討伐をするために情報源などを提供し合う場所のようなものだった。

 入会すれば、日々危険な戦いに晒され、邪闘者や闘魔との闘いが日常の一部となる。

 これは一種の慈善活動であり、高い危険度の邪闘者を討伐し、人命を救うことで報酬を得ることが期待されるが、それには相応のリスクが伴う。


「レンはさ、どうして僕なんかを助けてくれるの? だって…ほら、レンは闘心力を持ってないし…僕だって元々の能力が低いから闘心力があってもなくても変わらないし…君に加勢できる程の力を持ってない…君にとって何もメリットがないじゃない。」


 その言葉から少し沈黙になり、空気は気まずくなってしまった。少し時間が経った後、レンは返事をした


「別に、俺がそうしたいから助けただけだぜ。闘心力がどうとかなんて関係ねえや」


 予想とは斜め上の発言が飛び出るのに対し、少し声を荒げる。


「ぜ、全然関係なくない…! このままじゃ身体が持たないよ! 僕たちと君とではもう身体の作りが違うんだ…そのうち死んじゃうよ!?」


「だー! もう! 大丈夫だって!そのうち俺にも刻まれるから! その時になったらあいつらをギタギタにしてやるよ!」


 ひどく楽観的な発言をし、ヤケになるレン


「お前もメリットがどうとか考えてないでもっと俺を頼れよ! じゃあな! いい鼻くそほじれよー」


 バタン! とその勢いのままドアを閉めそそくさに帰ってしまった。


「レ…レン…」


 レンが帰り部屋が静寂に包まれる中、ポツリと呟いた。


…………


………………


……………………


コトコト…


 台所の前には少し尖った耳に赤色のピアスをぶら下げた赤髪の男が立っており、何やら料理の真っ最中のようだ。


 鍋の中には湯気が立って白くとろみのある汁のなかに適当に切った鶏肉や根菜類などの野菜が乱雑に沈んでいる。


「どれどれー…」


 男はそれをスプーンですくい口に運ぶ


「うん…見栄えは悪いが味は美味いな…よし、と。」


 思いの他、その出来栄えに口角を少し上げ、笑みを浮かべた。


「ただいまー。」


「おっ、おかえりー。」


 能天気そうな声の方向へ振り向くと、息子のレンが帰宅していた。


「うまそうな匂いだなー、まさか今日はクリームシチューか?」


「はっは、鼻がいいな。その通り、今日は父さん特性がさつシチューと言ったところだな。」


「なんだよそれー。それ言ったらいつも作る料理みんながさつって名前付くじゃんかよー」


「ははは、もう直ぐ出来上がるから手を洗ってきなさい」


 他愛もない会話を交わしながら、二人は食卓に座った。


 ヨウがレンの食欲旺盛な様子を見ながら、ある疑問を口にした。


「今日は誰と遊んでたんだ?アルマくんとか?」


「別に、んー…遊んでた…というよりはぁ…ちょっとした話をしただけかな」


 ジェイア達に受けた仕打ちやアルマが虐められたことについては、彼のプライドを尊重し、レンは敢えてそれをヨウに告げなかった。


「話?どんな」


 言いたいことは山ほどあったが、どう答えようか迷いながら、レンは最終的に口を開いた。


「………なあ、ちょっと話ズレるけど、俺って来週16歳だよな?」


「? ああ、そうだな。誕生日プレゼントを用意しなきゃな。何が欲しいんだ?」


「………じゃあ、闘心力かな」


「!」



 予想外の返しに驚くヨウ。

 しかし、レンはその驚きを振り払うように話を続けた。


「やっぱり忘れてたんだな…俺さ、未だに紋様がどこにも刻まれないんだ。15歳を過ぎても、一向に身体に変化が起こらない。」


『闘心力も未だに持ってねえくせに』

『レンは闘心力を持ってないし…』


 彼らの言葉がフラッシュバックし、声に元気がなくなる。


「……どうしてなんだ?俺以外の人は皆、あいつらにだって闘心力が与えられてるってのに…俺だって父さん達みたいに悪いやつをぶっ飛ばしたいよ…父さん達と一緒に村を守りたいよ…」


 少し身体を震わせ、涙を堪えながら下へ俯くレン。


 力を与えられ、それを有効活用できた者は『闘心者』。

 一方で、そもそも力を与えられなかった者は『無闘者』。

 通常は10〜15歳の間に突如として発現するが、例外も存在する。


 彼は運悪くその例外に該当してしまったのである。


「レン…何もお前まで無理して戦う必要はない…父さんはお前さえ生きててくればそれでいいんだ」


 誰よりも元気で活発で、太陽のような笑顔を魅せる息子が珍しく落ち込んでいる。

 親として励まさずにはいられなかった。


しかしその励ましが裏目に出てしまった。


「ぐっ…!父さんがそれで良くても俺は嫌なんだよ!皆が闘心力で村を守ってくれる中…!何の役にも立てない無闘者の自分が!」


 長年の蓄積により、遂に彼の中に眠る不満という名のダムが決壊してしまった。


「大体、なんで左腕を失っちゃったんだ…?闘心協会って所の説明も何も教えてくれないし…いつもヘラヘラとのらりくらり…いい加減にしてくれよ!」


 ヨウは隻腕であり、レンが物心を覚える頃には既に左腕を失っていた。

 それにもかかわらず、闘心協会引退後も全盛期を過ぎても、

 彼は村を襲う闘魔や邪闘者たちを容赦なく追い払うだけの力を依然として有していた。


「レン…これはその…うん、言いにくいんだが…転んだ時に取れちゃったんだ。」


「嘘つくの初めてか!そんな訳ねえだろ!!」


「いや、ほんとさ。あれは確か数年前俺と共にチームを組んでいたギンさんと━━━━」


「うるせーうるせーうるせー!真面目に答えろー!」


 ヨウの強引な嘘(?)に一気に活力を取り戻したレン。そんな時だった


「!」


 急に眉を顰め、真面目な形相に変えるヨウに少し驚くレン。


「と、父さん?どうしたの…まさか!」


「ああ、まねかねざる客が来たみたいだな…」


「ん…?まれかぬざる?いや、まねか━━━━」


「招かれざるだろ!早く行かないとやばいんじゃないの!?」


 ヨウは少しボケ癖がある。

 こんな重要な時にでもかまされるもんだからレン含め村の者は悩まされていた。


「いつも通り直ぐ終わる、ここで待ってなさい」


「いや早速俺も連れて行ってくれよ!俺頑丈なんだぜ!今日だっ━━━━」


レンの肩に手を優しく置き、少し冷たい声で話す。


「今回は本当にだめだ、大人しく言うことを聞きなさい。」


 ヨウは家の中にいながらも、

 邪闘者の放つ独特の【闘気】を感じ、

 その振る舞いが今までとは異なることに気づいていた。


レンは固唾を飲み込み、無言で頷いた。


ザッザッ‥


「お、ギンさん」


 ヨウが外に出ると、村長ギンジが半裸で仁王立ちしており、

 その視線の先にある遠くの村の出口に立ちはだかる邪闘者の存在が、

 ウォルト村の穏やかな空気に異様な緊張を漂わせていた。


「遅い」


「すんまそ」


 ギンジは元闘心協会の教官だったが、

 彼は歳を理由に引退し、この村を設立した。

 白銀の髪に悪そうな目つきと白髭、

 わかりやすい老父の風貌を持っていた。



「やれやれ、少し力が鈍ったんじゃないのか?息子さんもこんな頼りのない父親がおるようじゃさぞ苦労するじゃろうて」


「はいはい…それ前回も聞きましたよ。ボケが年々酷くなってきてるんじゃないんですかー?」


「いやお前にだけは言われたくないわ。んで、彼奴の闘気から見て邪闘者で間違いないな?」


「ええ、恐らくは。多分前回やってきた双剣のやつよりは手強いと思いますよ」


「はっ!アテにならんな。ほら、ご挨拶に行くぞ」


 普段は大抵ヨウ一人や、彼が不在な時は村人数人達やギンジ一人で事足りていたのだが、

 回を増すごとに邪闘者や闘魔のレベルが上がっていき、

 いつからかヨウとギンジの二人がかりの対応が主流となった。


 村の出口に近づくにつれ、異様な闘気が漂い、彼らをじわりと包み込む。

 その邪闘者の存在はまるで闘気そのものが生き物となり、村に不穏な空気をもたらしていた。


 対象の邪闘者から数メートル離れた位置で、ギンジは何か異変を察知した。


「まて。ありゃ人間か?」


「…どうでしょうね。悪さのしすぎで人外にでもなったんじゃないんですか?」


 その邪闘者の外見は、人間と何ら変わりないように見える。

 しかし、白桃色の肌が異質な雰囲気を醸し出しており、口は硬く閉ざし、

 目元は単眼の形を模したジト目のバンダナに覆われている。


 また、その耳は角のように尖り、肌と髪が混じり合い、斜めに逆立つようになっている。

 この異様な外見が、周囲に異質な存在感を漂わせている。


腕を組み、じっと視線をヨウとギンジに投げかける。


「単刀直入に聞くが、お前さん何をしにきたんじゃ?まさかこの村を乗っ取ろうってんじゃあるまいな。」


 直球の質問を投げかけるギンジに対し焦るヨウ。


「ちょっとギンさん…いくら怪しくても直球すぎますよ。もしかしたら道に迷ったのかも…」


「ええい邪闘者で間違い無いんだろが!はっきりせんか!」


「闘魔石はどこだ」


「え?」


 きょとん…とする二人をよそに続ける邪闘者らしき者。


「闘魔石はどこにあるのかと聞いている。大人しく私に差し出せば何もせずに帰る」


 二人は何のことやらわからず困惑しながらも、ギンジは返答した。


「闘魔石?そんなものこの村にあるわけがないだろう。大体あれは数百年前━━━━━」


 どこからともなく発射された光線が、ギンジの顔面を狙って飛来した。


「ッッ!?」


 しかし、ギンジは神がかり的な反射神経でその光線を巧みにかわし、

 光線は彼のこめかみをわずかに掠めるにとどまった。  


 僅かに血を流し、頬を伝って下にポタポタと滴る。


「私の"眼"がもう一度火を噴く前に答えろ…闘魔石はどこだと聞いている…」


 邪闘者の掌には、ギョロリとした瞳が存在し、その目差しはヨウたちを睨みつけていた。

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闘心世界 ゐひょろも @ihyoromo

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