第2話 最愛の妻

眩しい明かりが、レドの目に映る。起き上がり、辺りを見回すと…


「太陽…森…転移できたのか?」


無事、サヤの居る世界に転移することができたようだ。


「力を試してみよう。ぶっつけ本番は良くない…」


左手を空にかざすと…


ブォンッ


レドを囲むように、半径二メートルほどの水色の円が見えるようになった。


「これがシールドか。大きさはどうか…」


頭の中で念じると、その円を小さくすることができた。


「大丈夫そうだな。早くサヤを探さないと…!」


辺りを散策していると…


「あれは…狼か?迂回しないと…」


狼の群れを発見し、迂回を試みたが…


「スンスン…ガルルルル…!」


匂いで気づかれてしまった。

咄嗟にシールドを出し、様子を見る。


「誰かが来るまで、耐えることしかできないな…」


すると…


「今参ります、少々お待ちください!」


聞き覚えのある声がした。かと思うと、狼たちが一瞬で肉になっていく。


「!?」


目の前に誰かが舞い降りた。


「お怪我はございませんか…?」


「あ…あ…」


レドの顔から涙が溢れる。そう、目の前には…


「どこが痛いですか!?処置をしますので…」


「サヤ…愛してるよ…!」


最愛の妻がいたのだ。いきなりの愛してる宣言に、サヤは顔を赤くする。


「はい!?いいいいいいきなり何ですか!?」


かなり動揺している。すると、後ろから…


「また勝手な行動しやがって…おいへっぽこ!俺の言うことは聞けと言ったはずだ!」


男女二人組が出てきた。サヤは急いで弁明する。


「あ…マリケス様…でも、助けを求める方がいらっしゃってですね!」


パァン…


マリケスと呼ばれる男が、サヤの頬を強く叩いた。


「俺は王太子であり勇者だ。逆らったらどうなるか…わかってんだよなぁ?」


「はい…申し訳ございませんでした…」


この光景を見たレドは思わず…


「俺の妻に…手を出すな!!」


マリケスをグーパンしてしまった。その衝撃で、マリケスは倒れる。


「き…貴様!俺を誰だと思って…」


マリケスの胸ぐらを掴み、持ち上げる。


「次、俺の妻に手を出し…」


「ストーップ!あの…旅人さん、マリケス様はこの国の王太子であり、この世界を救う勇者なのです!どうか矛を収めてくださいませんか…?」


サヤの願いを聞き、マリケスから手を離した。


「こいつ…王太子なのか?知らなかった。こんなくそ野…」


「しーっ!!言っちゃ駄目です…」


慌ててレドの口を塞ぐ。


「くそが!僕が王族だと知らなかったのが救いだな!知ってたら即刻死刑にしてやったのに…」


かなりピリピリした空気の中、サヤが口を開いた。


「あの…旅人さん、お名前は?」


溢れ出る殺気を抑え、質問に答える。


「…レドだ。」


「レドとお呼びしても?」


「も…もちろんだ。実は、ここら辺の土地勘がなくてな…街までついて行ってもいいか?」


いつもレド様と呼ばれていたため、少し違和感を覚えた。


サヤは嬉しそうに頷いたが、マリケスは不満顔。


「ではマリケス様…レドを街まで送り届けましょう…?」


びくびくした様子で、マリケスに尋ねる。


「次、僕を怒らせたらわかってるな?癪だがついてこい」


「大丈夫だそうです!レド、行きましょう?」


笑顔で手を差し伸べる姿に、レドは確信した。

サヤは、何も変わっていないと。

あの笑顔も、優しさも、全てがあの時のままだ。


四人で街へ歩き始める。


「サヤは侍なのか?」


「さむらい?私は剣聖ですよ!」


腰に下げている刀を見せ、微笑む。


「剣聖…刀の達人か。なぜ剣聖になったんだ?」


「…え?」


三人はかなり驚いた顔をしている。


(…何かマズいこと言ったか?職業をきいただけなんだが…)


「えっと…職業は生まれながらに定められていて、選ぶことはできませんよ…?」


「そ…そうなのか…?」


この世界では常識だった様だ。慌てて弁明する。


「俺が住んいでた所は山の奥深く…所謂田舎ってやつなんだ。」


「職業の基本も知らないのはありえない。田舎でも教会ぐらいあるだろう。」


マリケスは鼻で笑った。レドはそれを無視して、サヤに尋ねる。


「では、職業は選べない?」


「そうですね。生まれた時、神官様が鑑定してくださって、職業が判明して…」


ガサガサッ…


突然、頭上の木が揺れ動いた。上を向くと…


「スライムです!!」


三匹のスライムがいたのだ。武器を構えるが、間に合わない。


スライムは、触ると皮膚が焼けただれ、痛みが生じる。

命の危険は無いが、顔や頭をやられると後遺症が残るだろう…


「うわぁぁぁぁあ剣聖!早く僕を守れ!」


サヤがマリケスを押し、身代わりになろうとしているのに気づいたレドは、身を乗り出してシールドを貼った。


スライムはシールドによってはじかれる。


頭を守るように腕をあげていたサヤだったが、スライムは落ちてこない。

恐る恐る手を退ける…


「レド、これは…!?」

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RE 来世でも、君といられたら。 月島ノン @tukisimanon

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