*崩壊

「この間、曼珠国に言った南方の船、嵐に巻き込まれて崩壊したそうですね」

 少年が言うと

「幸い乗組員は全員助かったけどな」

と船長は応えた。

「ついでに保険掛けていたから、商売の方もそれほど損失が出なかったようですよ」

とパティシエ船員が付け加える。

「この辺りでも保険扱っている人間がいるのか」

 少年が驚いたように訊くと

「扶桑国の長者はそれで稼いでいます」

と船員が答えた。


*バウンダリー

「ギャンブルで成功する方法って知ってますか」

 パティシエ船員が少年に話し掛けた。

「それは何なんだ」

「バウンダリーを知ることです。ツキが満ちたら手を引くのです」

「そんなことは皆知ってるよ。ただ、それが分からないから大損するんだよ」

 そこへ船長が付け加える。

「素人は地道に働けば大損することはないよ」


*独白、日記

 荷物整理をしていたところ昔の日記が出て来た。

 頁をめくると、身に覚えのないことが記されていて、自分が書いたとは思えなかった。

「こうして見ると日記って独白集みたいなものだな」

 並べられた言葉の意味は既に分からない。

「まぁ、独白なんて本人以外分からないもんな」

 パティシエ船員はこう呟きながら日記帳を閉じた。


*求める

「新規顧客を求めて南西地域に進出したけど失敗したらしい」

 本社からの通信を見ながら船長が言うと

「またですか」

と少年が応じた。

「あの地域も現地商人が強くて外部から入れないんですよ。事前調査があまいですね」

 パティシエ船員が言うと

「その通り、本社は商売を軽く見ている」

と船長が頷いた。


*歪んだ

「そんな歪んだ器をたくさん、どうするんだい」

 箱詰めをしている少年に生員は声を掛けた。

「あ、いらっしゃい。扶桑国に送るんですよ。あそこでは、こういう器が人気あるんですよ」

「そうなのかい」

「ええ、高額で売れるんですよ」

「こんなもの好むなんて扶桑人の感性、よくわからないな」

「俺もです」


*期限

「納入期限に間に合ってよかったですね」

 船に荷物を積み終えたパティシエ船員が言うと

「例の茶碗か」

と少年が応じた。

「はい、でも扶桑人って妙な物を好みますね、あんな出来損ないに大金払うなんて」

「ま、こっちは大儲け出来るのでいいけどね。木槿国の窯元からタダ同然で引き取ったものが売れるんだから」

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木槿国の物語・曼珠の旅路木槿国の日常 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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