四
*崩壊
「この間、曼珠国に言った南方の船、嵐に巻き込まれて崩壊したそうですね」
少年が言うと
「幸い乗組員は全員助かったけどな」
と船長は応えた。
「ついでに保険掛けていたから、商売の方もそれほど損失が出なかったようですよ」
とパティシエ船員が付け加える。
「この辺りでも保険扱っている人間がいるのか」
少年が驚いたように訊くと
「扶桑国の長者はそれで稼いでいます」
と船員が答えた。
*バウンダリー
「ギャンブルで成功する方法って知ってますか」
パティシエ船員が少年に話し掛けた。
「それは何なんだ」
「バウンダリーを知ることです。ツキが満ちたら手を引くのです」
「そんなことは皆知ってるよ。ただ、それが分からないから大損するんだよ」
そこへ船長が付け加える。
「素人は地道に働けば大損することはないよ」
*独白、日記
荷物整理をしていたところ昔の日記が出て来た。
頁をめくると、身に覚えのないことが記されていて、自分が書いたとは思えなかった。
「こうして見ると日記って独白集みたいなものだな」
並べられた言葉の意味は既に分からない。
「まぁ、独白なんて本人以外分からないもんな」
パティシエ船員はこう呟きながら日記帳を閉じた。
*求める
「新規顧客を求めて南西地域に進出したけど失敗したらしい」
本社からの通信を見ながら船長が言うと
「またですか」
と少年が応じた。
「あの地域も現地商人が強くて外部から入れないんですよ。事前調査があまいですね」
パティシエ船員が言うと
「その通り、本社は商売を軽く見ている」
と船長が頷いた。
*歪んだ
「そんな歪んだ器をたくさん、どうするんだい」
箱詰めをしている少年に生員は声を掛けた。
「あ、いらっしゃい。扶桑国に送るんですよ。あそこでは、こういう器が人気あるんですよ」
「そうなのかい」
「ええ、高額で売れるんですよ」
「こんなもの好むなんて扶桑人の感性、よくわからないな」
「俺もです」
*期限
「納入期限に間に合ってよかったですね」
船に荷物を積み終えたパティシエ船員が言うと
「例の茶碗か」
と少年が応じた。
「はい、でも扶桑人って妙な物を好みますね、あんな出来損ないに大金払うなんて」
「ま、こっちは大儲け出来るのでいいけどね。木槿国の窯元からタダ同然で引き取ったものが売れるんだから」
木槿国の物語・曼珠の旅路木槿国の日常 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu
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