二
*奇蹟、序章
「新作講談“奇蹟の王妃”聞きましたか?」
店に来た画員の妻に少年は訊いた。
「うん、まだ序章だけど面白かったわ」
妻が楽しそうに答えると、
「如何にも女子供の好みそうな題名だな」
と背後から声がした。夫の画員だった。
「いや、老若を問わず男性客も結構いましたよ」
と少年が否定する。
「そうよ、道術修行の場面も出てきて、単なる恋愛物じゃないわ」
「じゃ、聞いてみようか」
画員は口演が行われている広場に行った。
*物語作家
「あの講談の作者って誰かしら」
画員の妻が言うと
「少なくても生員どのじゃないですね」
と少年が応じた。
「あの人の話って、面白いんだけど教訓臭いところがあるのよね」
「そうですね」
「閨秀作家だったりして。若い女性の夢みたいなものがところどころ感じるので」
「とにかく次回が楽しみですね」
*最高潮
「今日の講談“奇蹟の王妃”は最高潮だったですね」
興奮して喋る少年に画員の妻は
「うん、主人公の少女、いよいよ王様と対面するのよね」
とうっとりとした口調で答えた。
「でもな、所詮作り話じゃないか」
画員が水を差す。
「分かっているわよ、そんなこと」
妻が口を尖らせた時、生員がやって来て
「次は戦記物を作ろうと思うのだけど」
と画員に向かって言うと
「いいね!」
と答えた。
*靴
「生員どの、次回の講談はガラスの靴の話は如何ですか」
少年が生員に提案する。
「西域が舞台の話か、今、曼珠国で人気だなぁ」
「玻璃で沓なんて作れるの」
店に来た画員の妻が口を挟む。
「そう言えば、そうですね」
少年が頷くように応えた。
この瞬間、木槿国ではガラスの靴の話はウケないだろうという判断を生員は下した。
*言伝
いつものように生員が店に行くと
「もう少し待ってくれとのことです」
と少年が言った。
「分かった」
講談師からの言伝だった。
「また稿料の支払い先延ばしですか」
「うん」
「この間の講談けっこう好評だったじゃないですか、本も売れたし」
「あの講談師が使い込んだんだよ」
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