第3話

タワーマンションがなくなってる。


はて、それはいかにしてなくなっているということなのだろうか。

崩れてなくなった?どこかに吹き飛ばされてなくなった?いや、どちらもちがうな。


「消えている…?」


目の前の、ついさっき少女が命を断とうとした建物が一瞬でゴミ処理場に変わっていることに翏は呆然とする。

助けを求めるかのように与那子の方に目を向けるが、そこに彼女の姿はなかった。


「彼女も消えた…?いやでもさっきここに―――」


「いますよ、ここに」


「…え?」


翏が向いていた方向から与那子の声が聞こえる。

正確には、向いていた方向の壁から声が聞こえる。


声の出ている場所を調べるため翏はジリジリと壁に寄りかかる。


「き、きこえるかぁー?」


「聞こえますよ」


「おわっ!」


翏の真後ろから与那子の声が聞こえた。

予想だにしない方向からの返事が彼を驚かす。


「私、どうやら物が触れられなくなっちゃったみたいです」


そう言いつつ、彼女は壁に突っ込み、上半身だけ出してみせた。


「触れられなくなっちゃったって…どうして?」


「見たら分かるでしょ」


与那子はひょいひょいと体を出したり入れたりする。


「なんで触れられなくなったの?」


与那子の顔がムッとする。


「…分かりませんよ」


「分からないって、ねぇ?だって…」


「…なに?」


彼女が不機嫌になったのを翏は感じ取り、少し慎重に発言する。


「な、なんでそんな―――」


「さっきからなんでなんでってうるさいなぁ!?」


与那子は足を地面に叩きつける。

音は聞こえないが、今にでも地割れが起きそうなぐらい力強く。


「ヒンッ‼︎」


翏は体操座りになり体を縮こませる。

萎縮してしまったのだ。

その姿を見た彼女はハッとなり冷静さを取り戻す。


「すみません、言いすぎました。」


「イ、イヤコチラコソチョットタニンマカセデゴメン、ナサイ。」


「…私だって、こんな奇妙なこと初めてだし分からないことだらけなの、理解してくださいよ。」


与那子は思った。

不甲斐ないなコイツ、と。


「イ、イヤ、ボクガキキタカッタノハ、」


「?」


「サッキ、キミガカベヲカンツウシテタトキ、スゴク、ナンカソノォ…」


与那子はまた冷静さを失おうとする。


「ねぇ、声がモゴモゴしてて聞き取れないのですが、はぁ、もう怒ってませんから顔を上げて喋ってください」


「ヨヒンッ‼︎」


顔をおもいっきし上げ、翏は与那子をガン見する。

こうすればいいんだろと言わんばかりに。


与那子は思った。

あんまビビってないだろコイツ、と。


「いやさ、さっき君が壁を貫通してた時。」


与那子はゴクリと唾を飲み込む。


「すげぇ嬉しそうに見えたから、こんな状況の中、なんでだろうなぁって」


体中の力が抜ける。


「そんなことですか。」


「ん、まぁ?そんなことなのかなぁ?」


「嬉しい?そりゃあ、そうでしょう。」


「?」


「だって私、これで殺されずに済みますもん。」


ハハっと与那子は笑い、語り始める。















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