第2話
「…」
今目を開けたらどんな光景が見えるだろうか、130°曲がってる自分の腕だろうか、周囲に飛び散ってできた肉片道路が広がっているだろうか。今までの罪状を隅々まで確認して罰を決める閻魔大王の前に必死に媚びへつらい、死に物狂いで減刑を懇願する自分だろうか…。
悲惨な景色ばかりを想像する彼は、恐怖で俯く。
「つめたッ」
ひんやりとした感覚によって顔を反射的に上げてしまい、目が夕陽の光に襲われる。
ぼんやりとした視界の先には、地面に膝をつけ彼の首筋をさわる少女の姿が映った。
まじまじと彼の腕を見つめながら少女は口を開く。
「いくつか、質問いいですか」
警戒しつつしかしはっきりとした声に男は耳を傾ける。
「…なんだね」
男は大人という威厳を保つため混乱と恐怖を捨て口調をそれっぽくする。
しかし彼は今、うんこ座りをしていることに気づいていなかった。
「ここ、どこですか」
「知らないな」
「そうですか。」
「ん?まて、君まさか知らないところから飛び降りようと―――」
「あなたは何者ですか、名前は?なんでビルより高いところから落ちてきたんですか」
発言を遮られ、尚且つ急な質問攻めに男は一瞬戸惑うが、脳で整理しつつ答える。
「おれはそこらへんにいる大企業の社長だ、名前は獺虎翏(らっこりょう)、ビルって、タワーマンションのことか?あそこより高い場所から落ちてきた理由はわからんな」
「そう…ですか。」
先ほどの勢いが突然なくなったことに翏が不思議に思い少女に顔を向けると、目にハイライトが無くなっていることに気がついた。
わけがわからないとは思いつつ、気まずい空気を避けるため翏が喋り出す。
「君、名前は?何歳?親は?」
質問攻め返しをされたことに少女は驚きつつ答える。
「わ、私の名前は与那子(よなこ)、十四歳です、苗字は、ありません、親はじいじとばばしかいなくて、''こっち''に来てからは会っていません。」
「''こっち''って、君はどこからきたの?」
与那子の顔が曇る。
頭を抱えながら人差し指を八の字にくるくるさせる。
「ど、どこからか、ですか、あっちの方ですか、ねぇ?」
翏はあっちと刺された指の方向に視線をやるが、ゴミ処理場が邪魔で先が見えなかった。
「うーん、そんな勘みたいに答えられてもわからないな、もう少し具体的に…」
「…」
彼女の視線はゴミ処理場に向いていた。
「ねぇ、聞いてる?」
「…」
彼女の視線は床に向いていた。
「もしかして、家出とか?なんか虐待されたみたいな…それだったらどこからきたかわからなくなっててもおかしくないよね、あぁ、別に無理に言おうとしなくてもいいよ、そこらへんは警察とおいおいって感じで、ね?って、おぉい?」
「…」
彼女の視線は空に向いていた。
「わかった、わかったよ、正直俺も偉そうにしてて悪かったと思ってる、だって君年下だし、俺社長だし、いや、ほんと悪かったって、いやさ、実は俺今携帯持ってないんだよね、どっかで落としちゃったみたいで、いや、落とした場所は明確に覚えてるんだけどさ、だから、ね?俺の言いたいことわかる?ちょっと知り合いに電話掛けたいなぁって、だからちょっと携帯貸してほしいなぁって…」
「…」
「いやほんとちょっとだけ!靴舐めるんで、いやそれももうベロンベロンに……なぁ…なぁ!!なぁいいんか?舐めるぞ、舐めちまうぞぉぉぉおぉおお!!?!?」
「…」
彼女の視線は翏に向いていた。
「…?」
「…ねぇ」
「へいっ」
「ここって住宅街でしたよね」
「?」
「なんか、朝にしては人の音がしなさすぎじゃない?」
「まぁ、そうかも?」
「というかそもそもここにゴミ処理場なんてありましたっけ」
「いや、まぁ、俺にはさっぱり、ついさっき落ちてきた者なんで」
「でも、ビル…タワーマンションがあることは覚えてますよね」
「まぁ、そりゃあね、君が飛び降りた場所だし」
「…」
「…」
「…気づきませんか?」
「‥何が?」
「タワーマンション、なくなってます。」
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