社長!真下に女の子がっ!!

@SekisetuGantan

第1話

ヒュ〜…


寒風が肌に当たり、ヒリヒリとした感覚によって脳が起こされ、目が開かれる、あまりにも眩しく、再び目を閉じようとする、が、驚きのあまり行動とは反して瞼が大きく開く。


目先にはまんまると輝く大きな月があったのだ、それも様々な種類のクレーターが見えるほど大きい。

輝く球体の周りにもキラキラとひかる星達が楽しそうに暗い海の中を泳いでいる、

真横には、今にでもうごめきそうなくらい歪んでいる虹がかかっているのが見えた、


オーロラだ。


空飛ぶ虹色の絨毯が、泳ぎに疲れた星を乗せて運んでいる。


そんな光景に見惚れていると、あることに気がつく。


だんだんと遠ざかっているのだ。


ついさっきまでは視界全てを覆っていた月でさえ、

今では手のひらよりも小さく見える、少し手を伸ばせば触れられそうな星々でさえ、灰のように消えている、

自分を出迎えるかのようにうねっていたオーロラでさえ、雲がかかって見えなくなっている…



……雲?


…そういえば、なぜ俺は外にいるのだろう、

そういえば、なぜ俺は空にいるのだろう、

そういえば、なんで俺今



「落ぢでんだよおぉぉぉぉおおえぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」



口の中に冷たい空気が入ってくる、体が重力に従い始める、落ちるスピードが確実に速くなっているのが分かり焦る。

空気の刃が皮膚を焼け爛れさせる。

脳に痛みを送らせ、なんとか思考する力を手に入れる。


(どうなってるんだこれ、いやどうすればいいんだこれぇ!!)


ただひたすらに落ちていく体に絶望を覚え、焼けるように熱い皮膚の感覚によって気絶する行為を阻害される。

雲の中に落ちる、空に出る、を繰り返しているうちに夕陽が見えてくる、それと同時に街が見えてくる、床が見えてくる、タワーマンションが見えてくる。


(マンションだ、マンションの屋上で俺は死ぬんだ)


とここで、頭が混乱したのか、突如、冷静になる、

「屋上で死ぬってなんだよ」そんなことを考えられるほど冷静になっている。


せめて死ぬ場所はよく見ておこうと、落下先に目を凝らす、その時だった。


女の子がいた。


屋上に一人の女の子、それも、今にでも飛び降りてしまうのではないかというぐらい端っこに突っ立ていた。

いや、もう飛び降る寸前ぐらいに体が傾いている。


(ってか飛び降りてんじゃねぇか!!)


死ぬことについての全てが一気に脳内から剥がれる。

先程まで爛れていた皮膚が全快する、混乱していた脳が正常に戻る。

口が、動く。


「なぁぁぁあぁにやってんだきみいぃぃぃぃぃいイィィ!?!?!!」


体を無理やり曲げ、軌道をずらす。

無我夢中で落下する少女を追う。


刹那、不意に脳内によぎる。


―――「私、あなたのことが好なの。」


不敵な笑みを浮かべてそう言う女達がいた、それも何十人もからだ。

聞き飽きた言葉だが、聞くたびに悩んでしまう。

大成する前の自分は、なぜこの言葉を聞くことがなかったのだろうか。

答えは簡単だ、俺ではない俺に付いている付属品目当てだから、だ。

当たり前な話だが、考えたくはなかった、唯一信じてた人にも言われた言葉だからこそ、その答えから目を背けていた。


疑問だったのだ、自分という存在は、どれくらいの価値があって、誰にとって都合が良くて、どこの自分を見て好んでくれているのか。

''本来''の自分を見てくれて、好いでくれる人は存在するのだろうか―――


(いるとするなら、まだ俺のことを知らない赤の他人だろうな。)


だから、だからこそ。


最期くらい、人助けをしたい、そう思ったのだ。



「あっ」と少女が言う。



「よっ」と俺が言う。



少女は抱き抱えられ、俺の全身を盾に地面に落ちた。




































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る