魔術師の魔術

ろくろわ

受け継がれる魔術

 その日、芳井田よしいだは行きつけのbarで、ある男から魔術を教えてもらった。


 それが芳井田の生活を大きく変えるとも知らずに。


 ◇


 芳井田には金持ちになりたいと言う夢があった。しかし世の中そんなには甘くない。何かを得ろうとすれば何かを失わなければならない。それが大きければ大きい程、同じだけ。

 大金を得るためには時間や体力を使うのだ。まさに等価交換。

 ところが芳井田がbarで出会った男はそんな等価交換を無視した、まさに魔術と呼ぶにふさわしい方法で金を生み出すことを教えてくれた。

 男のお陰で芳井田の私腹はみるみる肥えていった。


 そして二年後。彼の名は一躍有名となった。


『政界の黒い魔術師!遂に逮捕!』


 この記事の見出しのお陰で。

 芳井田は数々の工作を行い、自分の有利なようにお金が流れてくる取り組みをしていた。その工作の数は、歴代最高とも言われ、世紀の逮捕劇とも言われた。

 芳井田は「そんな事まで知らない。僕は帳簿の請求額を少し触っただけだ」と言っていたが、最後までその意見が通ることはなかった。


「編集長!やりましたね!!今回のこの記事の見出しは最高です。どうしてこんなネーミングを思い付いたんですか?」


 部下の桔平きっぺいは、今回の記事を書いた編集長である安久津あくつに尊敬の眼差しで話しかけていた。


「なぁに、何となくだよ。無から有を生み出す。まさに魔術師。だから本当になんとなく魔術師と見出しをきったんだよ」


 ニヤリと笑う安久津の表情は、何処か陰りを帯びていた。


 ◇


「やぁやぁお疲れさん。今回も上手く行きましたね。記事の魔術師さん」


 ある高級料亭で安久津は、政界のトップと呼ばれる男と話していた。


「止めてくださいよ。私の事を魔術師と呼ぶのは。その名は既に芳井田にあげましたから」

「しかし、あの青二才が矢面に立たされるとはね。まぁ結果、他の議員の汚職等も全て芳井田がやったことになったしな。これでまた暫く私達は安泰だな」


 そう。芳井田は安久津の口車に乗せられて、政界の黒い方法に手を出したのだ。それは結果、他の議員たちが行ってきた裏工作を被るとも知らずに。そして時期が来たら一気に暴露する。その頃にはどこを調べようとも芳井田が不正をした証拠しかなくなっているのだ。

 そしてその工作を行っていたのが、編集長である安久津。記事の魔術師と呼ばれた男であった。


「ところで、安久津くん。魔術師の名前を芳井田にあげると言っていたが、未練はないのかね?」


 安久津はニヤリと笑い一言答えた。


「えぇ、なんとなく魔術師にも飽きてきたところなんで」


 こうして日夜、裏工作は人知れず行われているのだった。



 了

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魔術師の魔術 ろくろわ @sakiyomiroku

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