アンドロイドちゃんとゾンビ世界 〜家にやってきたメイドと終末世界を生き抜く〜

@kazumaru0305

第1章 スズラナとの生活

第1話 始まる終末生活

 10月26日。大阪府。大学を中退してから3ヶ月くらいの時が経った。地方の国立に行って、親や周りの友達は喜んでくれたのは今でも鮮明に記憶に残っている。


 だけど、受験が終わったことによる開放感で授業をサボりまくり、彼女も寝取られ-俺のせいだが-、俺はこの通り引きこもりニートになっている。


 生活費のために貯めた高校3年間のバイト代でなんとか生活できているが、これもどこまで持つのだろうか。


「ま、今はどうでもいいけど」


 そう呟いてコントローラーを握り、前を見る。モニター画面には巨大なチェンソーを持ったツインテールの女子が立っている。


 HPゲージは赤色に、スキルポイントももうない。それに比べて敵は元気そうにフィールドを走り回っている。


「はぁ……こんなん負けだろ」


〈バトルを諦める〉という項目を連打して、俺はパソコンの電源を落とす。黒い画面には自分の顔が映っている。


冬馬とうまくんって結構顔もかっこいいし、付き合ってもいいかも」


 元カノの言葉を思い出す。今思えば、あいつ、大して俺のこと好きじゃなかったよな。顔以外のこと、なにか褒められたこともない。趣味も全く違うし、俺もあいつの何が好きだったかを明確に答えられない。美女だったしスタイルも抜群だったけど、それ以上でも以下でもない。


「さ、飯買いに行くか」


 過去のことは忘れて、今は空腹の心配をするべきだ。


 部屋の外に出ると、目の前の建物の壁が目に入る。俺が住んでいるのはかなり安めのアパートで、防音もないしタバコの臭いがたまに流れてくる。


 鉄の螺旋階段を降りていくと、そこには大阪の街並みがある。東京と違って平坦で、歩き回っても大して疲れない。


 歩いて5分くらいのコンビニに着くまで、ちょっとした違和感がまとわりつく。街が静かすぎるのだ。いつも騒がしいわけではないが、明らかに人通りや車の数が違う。


 コンビニに入ると、店員がマスクをしているのに気付く。それに透明のカーテンまで付けてある。コロナの被害は静かになったはずなのに。


「いらっしゃいませ」、と店員は暗い声で言う。


 とりあえず、おにぎりや炭酸ジュースを買おうとしたが、おにぎりは人気のない具材しかないし、飲み物に至っては「ほうじ茶ソーダー」とかいう呪物と普通の水しか残っていない。


「水にするか……」


 会計を済まして、俺はコンビニを出る。


 暗いアパートに帰宅して、鍵を開けて部屋に入る。ゲームばっかしてたし、ニュースなんていつぶりに見るのだろうか。


「どれどれ……」


 デスクトップの電源を点けて、ニュースのサイトを開く。さて、どんなニュースがあるのだろうか。


「えっと。芸能人のスキャンダル、有名動画配信者の三股……どうでもいいけど……って、あ、これかな」


 俺が見つけたのは「狂人病の危険性」という記事だ。


 現在、九州地方を中心に狂人病というのが流行っているらしい。めちゃくちゃ物騒な名前なんだが。


 狂犬病はもう日本では発生していないはずだよな? そもそも狂人病はウイルスなのだろうか。


 とにかく、狂人病はいわゆるゾンビ化だということが分かる。ただ、ゾンビと違う点は心臓が動いているという点だ。


 肌はボロボロになり、目は白く、そして血管が浮き出るというゾンビのような見た目ではあるが、それでも医療の観点で見れば感染者に過ぎない。死体でもなんでもないのだ。


 噛まれれば急速に狂人病に感染し、その対処は歴史上類を見ない難易度だ。ワクチンは完成されていない。それでも患者を生きている人と捉えて擁護する声もある。


 この病気は世界でも流行っていて、今もなお殺すか殺さないかな議論が白熱しているらしい。


 国としてはやはり患者を救う方向性らしいが、患者の身を拘束しにいく人やら事態の収集を計る警察はことごとく狂人病に感染している。


 まったくSNSを見ずに生活していた自分に腹が立ってきた。こんな事態になっているのに気づかなかったのだから。自粛待機もあるし、コンビニの商品があんなに少ないのも納得だ。


 どうしよう、ご飯とか残ってるのかな。


 食品を入れていた棚を探ってみると、巨大な段ボールが落ちてくる。その中には大量のカップ麺が入っていた。


「あぁ、そういえば買ってたっけ」


 好きなアニメがコラボしていた時、なんかのキャンペーンに応募しまくるために買ってた気がする。


「しばらくはこいつで生活だな」


 あとは水分だけど、どうしよう。もう一回外出するか。




 今日は、この引きこもり生活で1番外に出た日だと思う。どのコンビニやスーパーも、飲んだら逆に喉が渇きそうな飲み物しかなかった。かろうじてあったスーパーのでも、値段がめちゃくちゃ上がってたし。


 2ℓの水はなんと500円もした。と、いうわけで40ℓ分の水を買ったことによって諭吉が1枚消滅しました。それに重量もめちゃくちゃある。


「はぁ、風呂はしばらく我慢だよな。水の中に狂人病のなにかしらが感染してる可能性もあるし。ていうか、ウイルスかどうかも分からないのってどういうこと」


 そんなことを呟きながら俺はまたゲームを始める。結局、どんなことが起きようと生活が大して変わることはないだろう。


 それから、あの事件が起きるまでの俺の1週間が始まる。まあ、そうは言っても、ゲームで難易度の高いステージをなんとか攻略するだけなんだが。


 そして、この1週間で狂人病は収まるどころがその勢いを増していった。なんかお偉いさん方の記者会見とか色々やってるけど、そんなことやってる暇ないんじゃないのかな、と思う。


「よっしゃ! ようやく勝ったー」


 WINの3文字が画面に映る。久しぶりにこんな本気になれたかも。


 そこでガッツポーズをすると、家のインターホンが鳴り響く。タイミングも良いし、気分良く外に出れる。


「って、こんな時期に配達!? なんも頼んでねぇよ」


 とりあえず玄関まで行ってみる。ドアスコープから外の様子を確認してみると、誰も立っていない代わりに巨大な段ボールが置かれてある。


「なに……これ」


 俺はこっそりと外に出て、段ボールを家の中に入れようとする。


「重っ!」


 なんとか段ボールを引きずり入れて、包装しているテープを外してみる。


「うわっ!」


 なんと、中にいたのはとんでもない美女だった。なんか白雪姫みたいな感じだ。日本人離れした顔で、なんかメイド服着てるし。


 艶のある黒髪のストレートロングで、腰まで届いている。豊満な胸は白いメイド服を下から盛り上げている。また、ムチっとした太ももを持つ長い右足は、ハイスリットの黒のロングスカートからあらわになっている。


 え、これ本当に何? 綺麗な死体?


「お、おーい。起きてます?」


 すると、ピッ、と音がする。下を見てみれば、なんと美女が目を開いていた。


「システム起動。マスターネームは冬馬。今から私が冬馬の世話をします」


「え、あの、ロボット?」


 そう聞くと、美女は段ボールから起き上がって首を縦に振る。


「す、凄いね。本当に全部ロボットなの?」


「いえ、私は元々人間のようです。例えば、外側の皮膚や脂肪、神経などは人間の時のようなものです。あと内臓も」


 俺は思わず胸を見てしまう。あれは本物なのか。


「対して筋肉、骨は機械です。目なども機械化されたりしていますね」


「はぁ……ってなんで来たんですか? ていうか差出人は? それとあなたの名前は?」


「私はスズラナと申します。残念ながら差出人や私をアンドロイド化させた関係者の情報は機密事項です」


 正直、美女が来てくれて嬉しい、なんて1割くらいしか思えない。正体不明のロボットが家に来るなんて、誰かの陰謀としか考えられないが。それもこんな時期にだ。


「そ、それでスズラナはこの家で何をするつもりなの?」


「見ての通り、メイドです」


「メイド、ね」


 いきなり来た人に家の中ウロチョロされるのは癪だが、まあこの現状を見ると手伝って欲しいかも。


 周りを見てみれば、ゴミ袋が大量に散らばっている。


「こんなご時世だし、ゴミ出しとかやれるのかな?」


「まとめるだけでも綺麗になります。そこで出来る空間はより有効に使えるはずです」


 おお。ロボットみたいな正論がきた。


「じゃあ、やってみようか」


 そして俺らのお掃除大作戦が始まる。カビか生えている床や、ほこりまみれの隅っこ。スズラナのメイド力は凄まじく、みるみる部屋は綺麗になっていく。


「こんな綺麗な部屋、久しぶりに見たかも」


 面倒臭いけど、やっぱ掃除が終わると気持ちいいな。達成感で俺は床に座る。


「それでは、夕飯の支度をしますか?」


 スズラナは、髪をかき分けて前屈みになる。絵面はとんでもない破壊力だ。


「ゆ、夕飯? カップ麺しかないけど」


 するとスズラナは俺の頬を引っ張る。しかも無表情で。


「カップ麺は栄養価が高くありません。しっかりとした食事を摂るべきです」


「いや、でも具材とか」


 言い切る前にスズラナが遮ってくる。


「それは買いに行けば良いのです。冬馬は中高でサッカーをやっていたようですね。ですが今は明らかにたるんでいます。肥満ではないですが、健康でもありません」


「今はパンデミック中なんだよ? しかも危ないし」


 どこか否定したい気持ちがあるのか、なんとか言葉を捻り出す。


「そんなことは分かっています。いざという時は私がやるので」


 その言葉と同時に、スズラナはどこからか巨大な斧を取り出した。

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