16 猫の誕生日
しらすが一歳になった。この日は朝からお祝いだ。
「しらす、誕生日おめでとう!」
瞬が猫用のケーキをしらすの前に出した。サーモンを使用しており、「しらすちゃん」のネームプレートつきだ。三千円くらいしたらしい。
しらすはひくひくと鼻を近付け……食べてくれた。
「おう、美味いかしらす? しらすぅ!」
俺たちも人間用のケーキを買っていた。コーヒーと一緒にのんびり頂いた。俺は言った。
「しらすが生まれてから一年か。早かったな」
「うん……色々あったね」
瞬が猫を飼うと言い出した時。まさか戸建てに引っ越して俺まで一緒に面倒を見るようになるだなんて思いもしなかった。けれどもう、しらすがいない生活など考えられない。
「兄さん、しらす完食したよ!」
「高かったもんな。美味かったんだろうな」
しらすはくわぁとあくびをして、キャットタワーが入っていた段ボール箱の中に入った。本体は結局使ってくれていない。もう処分した方がよさそうだ。
「しらす、寝そうだな」
「僕たちもゴロゴロしよっか」
瞬とベッドに入り、色々した後一緒に眠った。
「いおり、しゅん、起きてよ」
人間の姿のしらすが、俺たちの頭をぺちぺち叩いていた。
「えっ……しらす? しらすなの?」
「そうだよぉ。やっとこの姿でしゅんに会えた」
「しらすぅー!」
瞬はしらすに抱きついた。二人とも同じ顔なので双子みたいだ。
「ケーキ美味しかった。ありがとう」
「しらすぅ、よしよし、よぉーしよしよし」
俺はしらすに尋ねた。
「これ夢か?」
「多分。どっちかが起きたら終わっちゃうと思う」
「そうなのか」
折角の機会なので俺は色々と質問してみることにした。
「しらすは親きょうだいと離れて寂しくないのか?」
「うーん、もうあんまり覚えてないからなぁ。今はいおりとしゅんがいるから寂しくないよ」
今度は瞬が聞いた。
「キャットタワー気に入らなかった?」
「あれ……なんかこわい」
「そっかぁ」
「いつもの箱がいい」
しらすは瞬にしがみつくとペロペロと顔を舐め始めた。
「わっ、しらす、くすぐったいってば」
「しゅん、だーいすき」
俺も面倒をみるようになったが、しらすが一番気に入っているのはやっぱり瞬らしい。なんだか……妬けてきたな。
「おい、しらす、俺の顔も舐めろ」
「いおりぃ」
舐められているうちに、気が遠くなり、ふっと目を開けると俺はベッドに横たわっていた。傍らには瞬と猫の姿のしらす。よく眠っていた。
「まあ……この生活、悪くないな」
瞬としらす。大事な家族をこれからも守っていこう。
了
伊織と瞬くんが猫飼うだけ 惣山沙樹 @saki-souyama
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