仔よ門よ

低田出なお

仔よ門よ

 そこは昔から落書きまみれの場所だった。

 太めの四車線道路の橋の下を通る、歩行者専用の短めのトンネル、という条件は、そうした悪戯をするのに都合の良い場所だったのだろう。

 誰かへの軽率な悪口から、文脈のない卑猥な文言まで、落書きとして想像される典型的なものは一通り揃っていた。

 落書きがある、という事は、必然的にそれを書いた者がいる。いわゆる不良と呼ばれる者たちだ。

 この町の治安が特別悪い、というわけでは無い。しかし、そうしたおっかない人たちとで交わしてしまうのではと恐れるのは自然な事で、私を含めた周囲の人々は、あまりそのトンネルに近づこうとしなかった。


 そんなトンネルに変化を知ったのは、三ヶ月ほど前の事だ。

 お隣の×××さんとゴミ捨て場で世間話をした時、彼女は驚きと喜びの混じった顔で教えてくれた。

 何でもトンネル近くの小学校が、生徒に授業の一環として内側の壁へイラストを描かせたらしい。

 落書きは消され、内部は上から青い空と花畑で彩られたそうだ。

 するとその日から、不良たちが全く寄り付かなくなった。そればかりか、夜中の騒音問題なども悉く解消されたという。

 彼女は町内会の際も、町の不良について度々苦言を呈していたから、それが子供達のイラストによって解消された事実は痛快に感じられたのだろう。かなり熱っぽく語る様子からは、興奮を抑えよう抑えようとしているのが伺えた。

 正直なところ、当時の私としては大した興味はなかった。彼女ほど地域愛に溢れているわけでも、落書きを描いていた彼らを憎んでもいない。とはいえ治安が良くなるのは良い事だし、軽く驚いたりしてありきたりな同意を返した記憶がある。

 故にそのトンネルのことは、話を終えた後にはすっかり抜け落ちていた。それくらい、私にとっては他愛のない話だった。


 思い出したのは、その雑談から一週間も経たないくらいのことだった。

 その日は休日で、近所の業務用スーパーで買い溜めをした帰り道だった。買い溜めと言っても、食の細い一人暮らしがする買い溜めなどたかがしれていて、大きめのマイバッグに詰め込んでも少しばかり余裕があるくらいだ。それを肩にかけ、午後はどうしようかとぼんやり考えながら歩いていた。

 そのぼんやりとした思考と視線が、目の端に映ったものを捉えた。

 トンネルである。すぐに落書き塗れの洞内を思い浮かべ、それから何やら様子が違う事に気が付いた。

 今までであれば、薄暗い洞内の向こう側に反対側からの光がぼうっと見えるだけだった。だが、そのトンネルには薄暗さはなく、それどころか青みがかった発色を見せていた。

 そういえば×××さんがなんか言ってたな。

 思い出した私は、その時初めてトンネルへと興味を持った。そして、不思議と体をトンネルへと向け、のんびりと歩き出した。

 行ってみよう、と思ったのに大した理由は無かった。当時読んだ意識の高い本の中で、「普段通る道を変えると、挑戦する意識が芽生える」等の話があったからかもしれない。実際、不良がよくいたという事実への忌避感はそれほどなく、自分がポジティブな挑戦をしている気がして何だか気分が良かった。

 トンネルの中は、随分と様変わりしていた。

 聞いていた話の通り、内壁に落書きは一つもなく、代わりに花畑とそこを飛ぶ大きな白い鳥の絵が描かれていた。蜘蛛の巣に覆われて点滅を繰り返していた蛍光灯も、綺麗なものが等間隔に2本ずつ取り付けられ、洞内を豊かに照らしていた。

 入り口でしばし洞内を眺めていた私は、改めてトンネルの奥へと顔を向けた。そしてそのまま、えいやと足を踏み入れた。

 生温い洞内に描かれたイラストは、線で枠を引き、そこを塗り絵の様に塗り潰す事で色付けされていた。所々、線をはみ出ているのが、目を凝らずとも分かった。

 しかしながら、子供が描いたものとしては上出来過ぎるくらいだ。寧ろ、この拙さがトンネルの雰囲気向上に一役買っているのかもしれない。

 不良が寄り付かなくなったのもわかる気がする。薄暗さと落書きがないだけで、ここまで印象が変わるのかと驚いた。

 そうやって考えながら歩いていくと、あっという間に反対側へと出た。

 曇り空から差し込む光をやや眩しがりながら外へ出ると、見知った歩道と住宅街が見える。

 くるりと振り返る。

 さっきまで歩いていた洞内が、同じ様にどっしり構えていた。





****





 次にトンネルの中に入ったのは、洞内の変化に気がついてから一ヶ月ほど経った頃だった。

 学生時代の友人との食事の予定を終え、駅から幾らか歩く帰り道。私は例のトンネルの前を通りかかった。

 トンネルに気がつくと、何気なく足がそちらを向いた。そして、「せっかくだから通るか」と思いながら、ふらりと足を踏み出していた。

 今思えば、なにがせっかくだからと感じたのか、いまいち分からない。ただの気まぐれだったのかもしれないし、何か意味があったのかもしれない。

 兎にも角にも、私はトンネルへと再び足を踏み入れた。


 幾許かぶりに訪れたトンネルは、特に変わり映えしていなかった。以前と同じ様に、花畑と羽ばたく鳥に彩られている。ただ、仕方のないことなのだろう。その内壁はやや色褪せているように感じられた。

 足を一歩踏み出すたびに、たっ、たっ、たっ、とやけに大きく足音が反響する。以前通った時はこんなに響かなかった様な気がして、つい周囲をきょろきょろ見渡していた。

 そんな視線が、私を一つの変化に気付かせた。

 ちょうどトンネルの中央辺りの内壁、地面に着きそうな下の方に、何か線が描かれていたのだ。

 花畑に被さって引かれたそれは、黒く太い線で一ヶ所を囲うような横向きの長方形だった。

 周りの内壁とは違い、人の手によって描かれたものという印象を覚えない。機械的で、きっちり測って描かれた様に感じた。

 その長方形を見た時、私は思わず顔を顰めた。子供達によって描かれたトンネルの内壁とミスマッチなそれは、パッとみた時に落書きだと思えたからだ。

 しゃがみ込み、長方形を覗き込む。歪みもなく、綺麗に線が引かれている。四方は見事に直角で、スタンプで押したと言われても信じてしまうだろう。

 一転してある種の感動を覚えながら四角形をまじまじと見ていると、私は何とは無しにその線に指を伸ばした。

 中指の先が触れると、コンクリートの冷たさとざらつきがすぐに伝わってくる。そのままスライドさせ、線と花畑との境界を触れる。段差などはなく、同様の感触を覚えるだけだった。

 もしかして、落書きじゃなくて業者か何かの人が引いたのだろうか?

 壁から離し、触れていた指先を見ながら考える。仮にそうだとすれば、先の自分の不快感は的外れなものだ。悪戯ではなく、何か理由があって引かれているのだから。

 とはいえ、綺麗に書かれているからと言って、それが悪戯でないという確証はない。

 最近は色んなものが誰でも手に入りやすくなった。一般人では不可能、と断定は出来ない。まさか子どもが描いたはずはないし、誰かが描いたとしか思えない。


 うーんうーんと、無意味な考察を続けていた。故に、洞内に近づいてきた音に気が付くまで時間がかかった。

 たったったっ。

 振り返ってみれば、小学生くらいの子供が二人、こちらを見ていた。

 逆光で見えづらい表情ははっきりとはしないが、それが不安げを帯びている事は分かった。

 あの二人から、自分はどう見えているだろう。

 怪しい人すぎる。

 そう考えると、わっと堪らなくなった。慌てて立ち上がり、何でもない様な顔をして歩き出した。

 自分が早足になっている事に気づき、すぐに動かす足の速度を落とす。何も焦る事はない。焦る事はないのだ。

 自分に言い聞かせ、曇り空の光に目を細めながら、反対側へと出る。出てすぐに左へ曲がり、そこで改めて大きな歩幅をとって歩き始めた。

 妙に熱っぽい体に風があたって気持ちが良いが、心中は穏やかではない。何であんなところでしゃがみ込んだりしてたんだと自責が募る。どうにかして、あの子達にさっき見た私の姿を忘れて欲しかった。


 しばらく歩き、立ち止まり、振り返る。

 トンネルを出てすぐ曲がったので、当然のことながらその口は見えない。

 先程の子供たちはまだ出てきていない。私がしゃがみ込んでいた場所を見て、長方形に気が付いたのだろうか。

 もしかしたら、彼らはあの洞内の花畑を描いた子供たちで、あの四角形を落書きだと感じ、憤るのかもしれない。

 どちらにせよ、私には知る由もない事だった。

 風に吹かれ、体温が少しずつ下がっていくのを感じる。

 私はトンネルが通っているであろう空間を、なぞる様に見つめた。

 何故だか、少しほっとする気がした。





****





 少しばかり恥ずかしい出来事の後、私はしばらくトンネルの事など気にも留めてなかった。

 恥ずかしくはあったものの、深く気に病む様な事はなかった。

 きっかけは、同期と談笑しながら食堂で昼食をとっていた時だった。

 会話が一時的に途切れ、皆が咀嚼に勤しむ沈黙。その中で、ふと窓から外を見た。

 雲が薄らの広がる曇り空をぼんやりと見つめていると、突如として、トンネルで見たあの長方形の事を思い出したのだ。

 恐らく、四角形の窓枠から連想したのだろう。それくらい、すぐに分かった。

 その時は、何の問題は無かった。紐付けされた子供達に怪しまれた記憶が呼び起こされ、少しばかりの恥ずかしさを思い出したくらいだ。すぐに再開した談笑へ加わり、その恥ずかしさも忘れていった。


 おかしくなってきたのは、さらにそれから一週間くらい経ってからだった。

 頭に、あのトンネルの内壁が繰り返し想起される様になった。

 日常生活のふとした瞬間、何気ない瞬間に、不意にあの長方形の事を思い出すのだ。

 当初は子供たちに恥ずかしいところを見られてしまった事を、知らず知らずにショックを受けて悩んでしまっているのだと自己分析し、楽観的に考えていた。

 しかし、次第に長方形について考える事が増えてくるにつれ、考えを改めなければならなくなってきた。

 初めは数日日に一度程度フラッシュバックするくらいだったその数は、徐々に二度、三度と回数を増やしていった。

 思い出してしまう度、今まで以上に意識してしまう。そうなると、より頭に図形が浮かぶ頻度は日に日に高まっていった。

 仕事の効率が目に見えて落ち始めたのは、時間の問題だったのだと思う。細かなミスをしてしまう事が多くなり、定時に帰れない事も増えてきた。

 体調管理くらいしっかりしろよと口出ししてくる上司に苛立ちながら、私は頭を抱えていた。

 どうしてこんなに気にしてしまうのか。何故こんなことになっているのか。何か解決方法はないものか。

 ネットに上がっている悩み事への対処法を実践し、結果が得られずにまた悩む。そんな事を繰り返していた。

 そうやって考えているうちに、ある方法を思いついた。

 それは「もう一度あのトンネルへ行き、あの長方形がただの落書きか何かだと確認する」というものだ。

 全ての原因はあのトンネルでの事なのだから、あれに対しての気持ちを発散させれば、全て元に戻るのだ。

 随分と強引な理屈だ、と今では思う。しかし、当時はひたすらに、名案としか考えられなかった。


 思い立った週の休日、私はトンネルへと向かった。

 その日は霧の様な小雨だった。私は傘を持って行こうとしたが、荷物が増えるのを嫌って小走りでトンネルへ向かっていた。

 いつも行っているスーパーからそこそこ走ったあたりで小雨は止み、足の速度を緩めた。思った以上に体が濡れてしまい、傘を持ってくるべきだったかと考えて、濡れた前髪を整える。

 そして、視界を僅かに遮った掌の向こうに、ちょうど例のトンネルが見えた。

 少し離れた先に見えるそれは、蛍光灯があるはずだったが、どうにも暗く感じた。その暗さは、入り口を縁取る様に丸く、反対側からの光を取り込んで少し不恰好な円の様に見えた。

 別になんてことはない。前に来た時と同じだ。不安がる必要なんてない。

 そう自己暗示を繰り返すと、どうにも息が詰まる。気にしない様にすればする程、気になってしまうのは分かっているのに、それでも意識してしまう。

 しかし、ここで引き返す訳にはいかない。

 よし、よし。行こう。

 踏ん切りをつける様に、口の中で小さく呟く。一度息を深く吐いてから、大股で歩き出した。

 不思議なもので、いざ歩き始めてみるとなんだかさっきまでの不安感は幾らかマシになった。

 初めて内壁が塗られた後のトンネルを訪れた時の様に、好奇心すら刺激されていた。

 なんだ、変に気負ってただけだな。

 止んだ小雨が宙に残り、ミストシャワーの如く私の周りをまとわりつく。それすらも、不快には感じなかった。

 300m、いや、200mほどだろうか。

 軽くなった足取りで近づいていく中で、私は気がついた。

 トンネルに人がいる。

 反対側の入り口の光を受けて見えるシルエットは間違いなく人影だった。

 それだけならば、特に気にすることはない。しかし、その人影には気にせざるを得ない特徴があった。

 しゃがみ込んでいるのだ。それどころか、両手を地面に付け、両足も膝をつけている。

 ちょうど真横から見えるその姿は、子供がハイハイしているのを連想させた。

 一体なにをしているのか。私の心の中に、疑問が湧き起こった。

 いや、より正確、こういうべきだろう。

 疑問しか、抱かなかったのだ。

 困惑も、恐怖も、何も思わなかった。

 冷静に考えて、トンネルの中で四つん這いになっている人間がいるという状況は、異常以外の何ものでもない。

 ましてや、それが妙な四角形に執着してしまっている原因たる場所ならば尚更である。本来なら、躊躇いなくその場を離れることだろう。

 しかしながら、そんなことは、一欠片も思わなかった。

 何をしているんだろう。

 極めて単純な疑問だけが頭に浮かぶ。そして、躊躇いなくトンネルへと歩を進めた。

 その人影は四つ足を付いたまま、内壁に鼻先が触れるほど近くに顔を寄せ、微動だにしていなかった。

 そこが一般のトンネルでない場所で、「あれは○○というアーティストによるオブジェです」と紹介されていたら、そういうものかと納得出来てしまうかも知れない。

 が、そんなこちらの思案を裏切るかの如く、その人影は動き始めた。

 内壁に向かって片手を添え、暫し止まる。そして、壁から手を離したかと思うと、そのままハイハイ歩きで前へと進み始めた。

 無論、身体の向きは変わっていない。内壁に向かって、である。

 こちらから見えるその影は、するすると内壁の中へと吸い込まれていく。目の前に通路でもあるかの様に、躊躇いなく、ずんずん進んでいた。

 慌てて、トンネルへと駆け寄る。

 急がなくては。何故だかそう思った。

 水溜まりのなり損ないを踏みつけ、飛沫が舞う。足元をいたく汚したが、気にならなかった。

 人影はすでに腰を超え、膝から下辺りしか見えない。その残りの足も、どんどん見えなくなった。

 息を切らして入り口に付いた時には、その人影はどこにも無かった。

 足音をばたばた反響させ、長方形のある中央部へと走る。トンネルの中は冷えた外とは対照的に暖かく、安心感があった。

 周囲を見渡すが、やはり誰もおらず、どこかへ入れる様な場所はない。

 内壁に目を走らせ、屈み込む。蛍光灯に照らされた壁には、以前と同じ長方形があった。測った様に正確な図形が、同じ様に花畑のイラストを被さっていた。

 ただ、一箇所だけ、違う点があった。

 長方形の左上、直角が指し示す様な位置に、何かが書いてある。

 顔を寄せて見てみようとする。が、自分の影が覆い被さってしまい、よく見えない。

 焦りながら慌ただしくポケットからスマートフォンを取り出して、ライトをつけてその角を照らした。

 書いてあったのは名前だった。確か、男の人っぽい印象を受けるものだったと思う。それは引っ掻き傷の様にも見えるくらい細い線で描かれていて、その周囲だけ、描かれていたイラストが滲み、内壁の地のコンクリートが露出していた。

 しまった。乗り遅れた。

 ………何に?

 この時になって、私は自分が本当におかしくなっている事をようやく自覚した。自覚した、というより、正気に戻れた。という方が正しいかも知れない。

 何故、トンネルにもう一度行けば気が晴れると思ったのか。

 何故、奇妙な人影を見つけても違和感を覚えなかったのか。

 何故、躊躇いなく近づいたのか。

 何故、消えた人影を見て乗り遅れたと感じたのか。

 考えてみればおかしい事だらけだ。正気とは思えない。しかし、それまでの私は自分の選択に何も思わなかった。判断基準そのものが、大きく歪んでいた気がした。

 自分の異常に気がつくと、口から悲鳴が漏れた。私は屈んだ状態からバランスを崩し、尻餅をつく。すぐさま、尻が濡れた感覚がした。

 慌てながらもよたよた立ち上がり、壁から後退りする。怖かった。ただただ、自分が未知の状況下にあることが、不安で堪らなかった。

 ふらつき、壁に手をつこうとして、止める。そしてそのまま、早歩きとも取れない覚束ない足取りで、入ってきたのと反対の出口へ向かった。外へ近づくほど、冷たい空気が喉元を撫できて気持ちが良かった。

 外へ出ると、弱い雨が降り始めていた。天気予報は外れたらしい。

 私は幾らかぼうっと雨に打たれていた。不思議な達成感の様な、何かが終わったかの様な感覚に陥っていて、はっと我に返ったのはそれから更にしばらくしてからだった。

 意識がはっきりしてからは、コンビニで傘を買おうかと最寄りの店に向かおうとした。しかし、この距離なら直接帰ったほうが早いと思い直し、濡れ鼠のまま帰宅した。

 家に帰ってからも、自分が陥っていた状況が信じられず、濡れたまま椅子に座り、ただどぎまぎしていた。

 不幸中の幸いという奴か、その呆然とした時間のお陰で、長方形のことなど気にならなくなっていた。そこだけが唯一の良かった事だった。

 そうして座り込んだまま、時間が過ぎた。窓からの見える空が暗くなってもなお、私は自分の中の思考と格闘していた。

 長い時間が経ち、冷静になって時計を見た時、その針はちょうど深夜の1時を指していた。

 クリアになった頭に、休日を無為にした事実が流れ込んできて、一人で唸る。そして,

ばたばたばたと家事に取り掛かった。





****





 それからというもの、あの長方形に対して妙な気掛かりが起こる事は無くなった。

 理由は分からない。だが、悩みが解消されたのは事実である。

 あそこで気が付いた違和感をきっかけに、私が何かに打ち勝ったのかも知れない。そんなスピリチュアルな事を考えてしまうくらい、余裕を持てていた。

 伴って、仕事の不調も回復した。むしろ、反動が付いたみたいに捗ったくらいだ。

 随分と奇妙な体験をした。今度友達と雑談する時に、話の種にでもしようと思っていた。

 だからこそ。

 私は酷く狼狽えたのだ。

 朝、布団から出て起き上がり髪をかき上げた時に伝わるざらつきに。

 両の掌と、膝にこびりつく、濡れた砂利に。


 

 



 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仔よ門よ 低田出なお @KiyositaRoretu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説