魔術師と王の紋章

@mia

第1話

 長兄が伯爵家を継ぐと知った時ジョンは自分の将来を考え始めた。

 次兄は父や祖父に似た筋のよさで、剣の道に進むことを幼いながらも志している。        

 ジョンはどちらかというと母親に似ているので魔術師を目指したが、特に理由はない。剣よりも自分にあっているかなと、なんとなく魔術師を目指した。


 なんとなく目指した割にジョンは、十五歳で入学した魔術学院での初めての定期テストで学年一位の成績だった。

 先生の教え方が良かったのか、もともと才能があったのか、毎日の努力が実ったのかは分からない。この時ジョンは何となくではなく宮廷魔術師となるというはっきりとした目標を持った。宮廷魔術師は爵位はなくとも身分が保証される。

 ジョンは今まで貴族として何不自由のない生活をしてきた。そんな自分が平民として生きる苦労に耐えられないと思ったのだ。


 学年が進み魔術の授業の一環として護衛をすることになった。森林近くの草原で薬草採取をする薬師の護衛だ。もちろん生徒だけではなく指導教官もついている。

 草原に着くと危険はないか生徒たちが探査して確認する。当然ジョンも行うがおかしいことに気がつき報告する。


「危険な獣や魔獣はいませんが少しおかしいです。アメターサが咲いていません」


 アメターサは女神の花と呼ばれ王の紋章にも使われている、この国では誰もが知っている花だ。春になると一番先に咲き始めるのに暑さも感じるこの時期にまだつぼみのままだった。


「私たち薬師協会でも調べたのですが原因は分かりませんでした。古い観察記録によると水を多く与えた時に起きるようなのです」


「ここらだけ雨が多く降ったってことはないですよね」


「はい。でもこれは大した薬効もないので売られている薬に影響は出ていませんが」


 そう言うと薬師は目的の薬草を摘み始めた。


 数ヶ月後、王妃の出産が発表され国中が王子の誕生を祝福した。

 だがジョンは不安に思った。アメターサが咲かなかった年に生まれた王子は無事に育つのか、もしかして……。

 しかしジョンの心配は無用だった。王子はすくすく成長し次の春にはアメターサはちゃんと咲き、三歳下の第二王子も生まれその子も元気に育っていった。


  ☆  ☆  ☆


 第一王子が十八歳になった時、国王が急な病に倒れたが直ぐに復帰した。       

 その直後、第二王子の食べ物に毒が混ぜられるという大事件が起こるも、宮廷魔術師の治療で無事だった。しかし、第二王子毒殺未遂事件として大騒ぎとなった。       

 そしてその黒幕が、自分より優秀な第二王子に王太子の座を奪われると思い込んだ第一王子だと判明してより一層大騒ぎとなった。

 第二王子の「私は王弟として兄上を支えます」という言葉を信じられなくなったらしい。

 第二王子派が反発し、第一王子と第二王子の争いが始まった。第二王子派の言い分は第二王子の命を守るための戦いだったが、中央の貴族以外には王太子の座を巡っての争い、壮大な兄弟喧嘩と思われてしまった。

 二人の王子の思いとは別の力が働き、争いは五年も続いた。


 能力があったためどちらの派閥にも属さず殺されず、国のためだけに働いたジョンは戦後子爵位を賜った。子爵となってもやることは変わらず国のために働いた。国民すべて身分に関係なく戦後処理に苦労したのだった。

 あの年にアメターサが咲かなかったのは、未来を知っていた女神の涙に触れていたからかもしれない。

 

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