なんとなく魔術師

藤泉都理

なんとなく魔術師




 遮光器土偶。

 ハート形土偶。

 円錐形土偶。

 ミミズク土偶。

 仮面土偶。


 空地あきちにて。

 白のタキシード姿のおっちゃんは、ドヤ顔で、言った。

 木の箱の上に置いたこれら五体の土偶は、賢者の石だ。

 正確には、賢者の石の失敗作、だ。






 土偶。

 呪術や祭祀の道具として豊饒や出産を祈る為に用いられた、土製の人形。

 女性像であるとも、植物像であるとも言われている。


 賢者の石。

 あらゆるものを金に変えたり、病気を治したり、不老不死にしてくれる物質。

 錬金術師たちが探し求めていた。






 腕の悪いマジシャンでもあるおっちゃんは、わからない単語を俺に教えてから続けて言った。


 縄文人たちもな、俺たちと同じ願望を抱いていたんだ。

 金持ちになりたい。

 不老不死になりたいってな。

 その願望を叶える為に、俺たちより遥かに頭がよかった縄文人たちはみんなこぞって、賢者の石を創ろうとした。が。失敗に失敗を積み重ねていった。

 失敗作も積み重なっていった。

 そう。土偶が山ほど出来上がったってわけだ。






「ふむふむ」


 俺は地面に置いたランドセルを椅子代わりにして座りながら話を聴いた。

 観客は俺一人だ。

 ついでにマジックショーをする時も、観客は俺一人だ。

 失敗することはたくさんあるけど。

 面白いのにな。

 無料なのにな。


「そんで俺はあらゆる伝手を辿って、この貴重な土偶を、失敗作とは言え、賢者の石を手に入れたってわけだ。ふふ。この情報はごくごく一部の人間しか知らない、とても貴重なものなんだぞ」

「え?じゃあなんでおっちゃん、俺に教えてくれたんだ?」

「おまえはいつも俺に付き合ってくれたからな。お礼だ。好きなの一体持って行け。失敗作とは言え、賢者の石だぞ。持っていれば何かおまえの役に立つかもしれない」

「いやいらないけど」

「遠慮すんなって」

「いや知らない人から物をもらっちゃだめだから」

「俺とおまえの仲だろ」

「うん。だから話を聴いたりマジックを見たりするだけで十分だよ」

「………しっかりしてるな、おまえ。うん。おまえに、賢者の石は必要ないな」

「うんそもそも失敗作だからもらえたとしてもいらない」

「そうか。けどな。失敗作でも」


 おっちゃんがテンポよく五体の土偶に次々と触れたら、土偶が金の花へと姿を変えたんだ。

 正確には、金の折り紙で作られた花だ。

 この分じゃ、土偶もおっちゃんの手作りだろうなあ。


「すごいだろ」

「すごいすごい」


 俺はおっちゃんに拍手を贈った。

 今回はネタがまったくわからなかった。


「腕を上げたね。おっちゃん」

「おう。まあ、できる時とできない時の差がひでえけどな」

「確かにね」


 おっちゃんは五本の金の花を束ねて、タキシードの胸ポケットに飾った。

 心なしか、おっちゃんがより、うさんくさく見えてしまった。


「おっちゃん。花、似合わねえな」

「ほっとけ」











「さあってと。じゃあ。がんばりますかねえ」


 馴染みの小学生の少年を見送った俺は、自作の土偶を五体抱えて歩き出した。


 賢者の石を創りたい。

 祖父の長年の願いを引き継いだはいいが、どうにもやる気が出ず、失敗作である土偶を生成し続けている。

 なぜか、賢者の石を創ろうとすると、土偶が出来上がるのだ。

 謎だ。

 しかも生成土偶は不思議と壊そうとしても壊せないのが目下の悩みであるので、まずは、賢者の石生成より、この土偶の破壊する方法を探さなくては。


「このことを話したら、不用品を押し付けるなよなって、言っただろうなあ」


 まあ、信じられないかもしれないが、本当にこの五体はなんとなく、あの馴染みの少年の力になりそうな気がして持ってきたのだが。


「信じねえだろうなあ」


 ククっと笑った俺は、やっぱまずはマジックの練習をしようかなあと思ったのであった。


 今喜ばせたいのは、あの馴染みの少年で。




 わりいな、じっちゃん。

 長年の願い成就はまだまだ先になりそうだ。











(2024.1.25)



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なんとなく魔術師 藤泉都理 @fujitori

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