最終話「それでは、ごきげんよう!」
すっかりオレンジ色の空が暮れて、暗くなった帰り道。
まるで鉛を背負っているかのような重たい体を引きずって歩いていると、河川敷になにか見える。
「もたもたすんなよ!」
何人かの不良が学ランを着た男子生徒に詰め寄っている。
近寄って、さらによく見てみると見覚えのある顔がいた。
間違いない!
.......あれはお兄ちゃんだ!!
「や、やめなさい!!!!!」
考える前に身体が動いていた。
「あ!?」
「なんだ、お嬢ちゃん」
不良たちが一斉に私を見る。
その瞬間、体が震えて怖気づいてしまった。
「そ、その人に、近寄らないで」
「なんだって!? ハッキリ言わないと聞こえねえよ!!!!」
私が怯えていることに気づいた不良たちはニタニタ笑っている。
悔しくてしょうがないのに、体の震えは止まってくれない。
こんなとき、もし私が会長なら.......!!!
「お、おだまりなさい!」
「.......は、はあ?」
「その方に指一本でも触れたら許しませんことよ.......!」
憧れの人のマネをしたからって、本人になれるわけじゃないって知ってる。
それでも、今このときだけは会長のようになりたかった。
「なに言ってんだおまえ.......」
「いいじゃん、指一本でも触れたらどうなるのか教えてもらおうぜ」
不良の一人が私の腕を掴もうとした、その時。
聞き覚えのあるヒールの音が河川敷に近づいてきた。
「お待ちになって!!!!!」
風に揺れるツインテール。
フリルの裾が広がるスカート。
胸を張った、堂々たるポージング。
.......剣々崎薫子、その人だった。
「デカい姉ちゃん、俺らになんか用か?」
「不良と河川敷の組み合わせは王道ですが、いじめとは頂けませんわね」
「なに言ってんだてめえ。状況わかってんのか!」
「わかっていないのは、そちらですわ!!」
会長は高らかに宣言する。
「この私、剣々崎薫子がいる限りシャバい真似は一切許しません!!!!!」
文句があるならかかってらっしゃい!
そう言い放った会長を、六人の不良が取り囲んだ。
「怪我しても文句言うなよ!」
「それはこちらのセリフですわ!」
不良の一人が会長に襲い掛かる。
しかし、会長は赤子の手をひねるように一本背負いで不良を地面に叩きつけた。
「
会長は踊るような優雅さで一人、また一人と不良に攻撃を加えていく。
相手の攻撃を避けて的確にカウンターを入れる、流れるような戦いだった。
「なんなんだ! おまえは!!」
「あら!
最後の一人に、会長の強烈なキックが決まる。
「紅薔薇学園生徒会会長、剣々崎薫子ですわ!!!!!」
戦いに決着がつき、私は身体の震えが止まっていることに気が付いた。
「盾子さん、お怪我はありませんこと?」
さっきまで不良と戦いを繰り広げていた会長は、女神のような笑みで手を差し伸べた。
「会長、どういうことですか!??」
河川敷の一件があった翌日。
私はまた会長から手紙で呼び出されて、生徒会室に来ていた。
「ですから言葉のままですわ。盾子さん、あなたを生徒会室の一員として認めます」
言われたことに、思考がまったく追いつかない.......。
混乱している私を見かねてか、かすみさんが説明をつけ足してくれた。
「昨日の
「私が.......会長に!??」
「ええ。でないと、直々の指名なんてされるわけありませんわ」
かすみさんはアールグレイを啜りながら、静かにそう言った。
説明されても、余計混乱してしまった私に美玲さんが声を掛けてくれる。
「会長はおまえの強さを認めたんだ」
「強さって、私、昨日は震えていただけで」
「ちがいますわ!」
会長が即座に口をひらく。
「あなたはお兄さんを守るために不良たちに立ち向かった! それが、私の考える「強さ」でしてよ!!」
美玲さんが頷く。
かすみさんは私に向かって微笑む。
そして、会長は高らかにこう言った。
「盾子さん、あなたを今日から紅薔薇学園生徒会に迎えますわ」
私は、自分を弱いと思っていた。
いつもネガティブで何もできない、そんな自分が会長のお陰で変わっていった。
そして、これからも変わっていきたい。
「不束ものですが、よろしくお願いします!!」
紅薔薇学園生徒会。
お嬢様にして真の不良が集う場所。
その頂点、剣々崎薫子のもとで真の強さを学ぶ学園生活が始まった。
お嬢様ヤンキー剣々崎薫子の日常 空峯千代 @niconico_chiyo1125
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