第3話「これが紅薔薇学園でしてよ!」

 会長の妹分になって、翌日。

 放課後に靴箱を開けると、一通の手紙が入っていた。


『放課後、体育館に来てくださいまし。特訓して差し上げますわ! 薫子』


 このご時世にスマホではなく、手紙で連絡とは.......。

 会長、レトロな方なんですね!


 私は会長を待たせないように、急ぎ足で体育館に向かった。

 到着すると、生徒会の御三方おさんかたがすでに私を待ち構えている。


「お待ちしておりましたわ!!!」


 広々とした体育館に、会長の高らかな声が響く。

 

「盾子さん、私の妹分になりたいということは強くなりたいということでお間違いないですか?」

「.......はい! 強くなりたいです!」

「素晴らしい返事ですわ! その調子でしたら、これを乗り越えられるでしょう」


 パンパン、と。

 会長が手を二回鳴らすと、どこからか大勢の女生徒が体育館に押し寄せてきた。

 

 .......な、なに!?? 

 一体何が起こってるの!??


美玲みれい!!!!」

「はい、会長」


 すると、会長の隣に立っていた黒髪ショートの女生徒が前に進み出た。

 美玲と呼ばれた彼女は、大勢の女生徒に囲まれている。


「では、始め!!!!!!!!!!」


 会長が大声で叫ぶと、女生徒たちと美玲さんが戦い始める。

 私は開いた口が塞がらずに、ぽかーんと目の前の乱闘を眺めているだけだった。


「フフフ.......これぞ、我が校の伝統。その名も「紅薔薇学園百人組手べにばらがくえんひゃくにんくみて」ですわ!!!!!」


 ひゃ、百人組手.......!??


「百人の猛者もさをたった一人で相手する.......「喧嘩上等」二十三巻にも登場しているれっきとした修行法ですの!」

「こんな無茶なやり方、薫子と美玲にしか通用しませんことよ」


 おしとやかそうな女生徒が、美玲さんの方を指す。

 女生徒に囲まれていた美玲さんは、向かってくる相手をちぎっては投げ、ちぎっては投げ.......をひたすらに繰り返していた。


「さあ! 次は盾子さんの番ですわ!!!」

「.......ごめんなさい、私にはちょっと!!!!!」


 涙目になりながら拒否する私を、会長はしょんぼりとした顔で見ていた。




 「ごめんなさい…。私ったら、いつも先走ってしまいまして。盾子さんのお話を聞くまえに暴走してしまいましたわ」


 会長はとても素直な人だった。


「いえ、いいんです! 私もいきなり「弟子になりたい」なんて言い出したので」

「そもそも、盾子さんはどうして強くなりたいんですの?」

「私は.......家族のために強くなりたくて」


 こんな話を人にするなんて、初めてだ。

 でも会長になら馬鹿にされずに聞いてもらえると思った。


「私の兄は、身体が弱くて。そのせいでいじめられてて。たまに不良からお金をせびられてるのも、私知ってるんです。だから、私が兄を守りたい」


 兄の代わりに私が戦えるくらい強くなりたかった。

 ......そう言おうとする前に、会長は猛烈もうれつに涙を流しながら泣いていた。


「それは、許せませんわね!!!!! 不良の風上にもおけませんわ!!!!!」

「薫子、涙を拭きなさい」

「会長、おちついて…」


 涙と鼻水を子どものように流す会長を両脇の二人があやしている。

 小さい子を前にした保護者みたいだ.......。

 

「そういうことでしたら、尚のこと。盾子さんに全面的に協力いたしますわ~!!!!!!」


 満面の笑みを輝かせる会長と鉄面皮てつめんぴの美玲さんがこちらに近寄ってくる。

 イヤな予感がして、おしとやかそうな女生徒の方を見ると目を逸らされた。




 それからは会長による𠮟咤激励しったげきれいを聞きながらへとへとになるまで修行をした。


「よく頑張りましたわ!」

「うー。ありがとうございます.....。」


 もうこれっぽちも動けないくらいに身体が疲れた....。

 すっかりへたり込んでしまった私を、会長は誇らしそうに見つめている。


「これだけつらい修行を乗り切ったのですから、盾子さんはもう十分にお強くなりました。私が保証しましてよ!!!!」


 いつも自信満々にしている会長に言われると、本当に強くなった気がしてくる。


「会長がおっしゃられるように、よく頑張った」

「美玲さん…」

「薫子のトンデモ特訓によく飽きもせずついてこれましたわね」

「そんなあ…」


 露骨ろこつにしょげる私を、会長は「まあまあ」とフォローしてくれる。


「でも、かすみの言うとおりですわ。私の特訓は、少々.......荒療治あらりょうじですので。でも、私にここまでついてきてくださった盾子さんは優しい方です。優しい人は、真に強いのですわ!!!」


 体育館に会長の笑い声が響き渡る。

 その堂々とした姿に「この人に頼んでみてよかった」と心の底から思ったのだった。




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