第2話「真の不良はシャバ僧と比べものにもなりませんわ!」

 紅薔薇学園の生徒会室は、温室のその先。

 さまざまな品種の赤いバラが咲き乱れる庭の奥に位置している。


「ご、ごめんください」


 私、桐谷盾子きりたにじゅんこは生徒会室の扉をおそるおそるノックする。

 入学式の翌日にいきなり上級生を訪ねてくる生意気な一年生だと思われないか、不安でドキドキしていた。


「あら、どなたかしら?」


 すると扉が開かれ、目の前に生徒会長が出てきた。

 高身長で手足の長い会長が、目と鼻の先にいる.......!!!

 憧れと緊張でめまいがしそう.......になるがなんとかこらえた。


「わ、わた…私、桐谷盾子と、申しまひゅ!!!」


 噛んだ~~~~~~~~~~~!!!!!!!


 自己紹介すらまともにできないなんて…。

 肩を落とす自分に会長は麗しい笑みを浮かべた。


「まあ、盾子さん。よくいらっしゃいましたわ! 私、紅薔薇学園生徒会会長の剣々先薫子と申します!」


 し、知ってます.......!!

 

 生徒会長に名前を呼ばれた嬉しさで顔がゆるんでいないかな。

 そんなことを考えながら、会長に生徒会室の中へと招かれた。


「さて、私に一体どのような用件ですの?」


 会長はふかふかの赤い椅子に座り、その長い脚を組んでこちらを見ている。

 そして、その両脇には会長を守るかのように二人の女生徒が立っていた。


「会長に喧嘩の申し込みなら却下だぞ」


 真っ直ぐな黒髪を短く切りそろえた女生徒がこちらを睨む。

 私は物騒な視線を受けて、首をブンブン振った。


「ち、ちがいます! 誤解です!!!」


 黒髪ショートの女生徒を手で制しながら、会長は私を見つめる。


「あなたに敵意がないことは、私にもわかっていましてよ」


 にっこりと微笑む会長に、私は勇気を出して口をひらいた。


「あの、お願いします! 私を会長の弟子にしてください!!!」


 まあ、と口を開けた会長はポカンとしている。

 呆気にとられている顔が数秒続いたかと思うと、突然会長の顔はイキイキとし始めた。


「もちろん大歓迎ですわ~~~~~!!!!」


 会長は目を少女のようにかがやかせている。


「私のことをなんでも教えて差し上げましてよ!? 身長百七十三センチ、体重五十六キロ、AB型、誕生日は十一月二十八日、好きな言葉は「素手喧嘩ステゴロ」でしてよ~~~」

 

 ビックリするくらいにテンションの上がっている会長を隣にいたおしとやかそうな女生徒が止める。


「落ち着きなさい、薫子。はしたないわよ」

「…あら、私としたことが。ごめん遊ばせ!!!!」


 んんっとわざとらしい咳払いをした後に、会長は私の方を向き直った。


舎弟しゃてい…つまりは私の妹分になりたいということですわね」

「はい!!!!!!」

「時に、盾子さん。あなた「喧嘩上等けんかじょうとう」はご存知でして?」

「…はい?」

「「喧嘩上等」、全九十三巻、この世のヤンキー漫画の元祖と呼ばれる最強の青年漫画でしてよ」


 私は会長が早口になったことに驚きながらも、「はあ…」と相槌をうつ。


「最近はコンビニでたむろ、カツアゲ、いじめ…等々の「シャバ僧シャバゾウ」ばっかり」

「…なるほど?」

「しかし!!! 不良ヤンキーは「強い・熱い・友達思い」の三本柱がそろって不良ヤンキー足りえるのです! これは盾子さん、お分かりですこと!??」


 ものすごい勢いのまま語りはじめた会長に、手をがっしりと握られる。


「薫子はコテコテの不良ヤンキーが好きな生粋の不良原理主義者ヤンキーげんりしゅぎしゃですわ」


 おしとやかな女生徒が頬に手を添えながら補足してくれる。


「昔ながらの不良には美学があるのですわ! この美学を持った真の不良ヤンキーで紅薔薇学園をいっぱいにする…これが私が在学中に叶える夢でしてよ~~~!!!!!」


 ある程度覚悟はしていたけれど、とんでもない人に弟子入りしてしまったのかも。

 おーほっほっほっほ!!!!、と高笑いを響かせる生徒会長を眺めながら、ひとりごちるのであった。

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