異星人
高柳孝吉
異星人
あれは俺が大事な重役会議から帰ろうと一人会社から出て家へと向かう途中だった。思わず目をつぶった。ーー閃光?炎?眩しい、昔、もうとっくに亡くなった母に初めて花火大会を見に連れて行ってもらった時の郷愁に近いものがよぎった。が、それもつかの間、更に激しい閃光が。違ったんだ。あの時の花火大会の眩いばかりの光の交錯とは、違ったのか…。一瞬の寂しさと諦め、そしてそれを根こそぎ連れ去って行ってしまうような轟音。ーー俺は何も考えずに音のした方に足を速めていた。辿り着いたのは、小さな、俺が子供の頃から慣れ親しんで良く遊んだ取り壊しを間近に控えた公園だった。そこに見た誰もいない夜ふけの公園の、今ではもはや誰も乗らなくなった乗り物の玩具、そして誰も遊ばなくなった遊戯具。そんな中唯一いつもと違う光景だったのが、明らかに未だかつて見た事もなかった、また見る機会に一度もあえる事なく終わる事が分かっていた筈の物が、巨大な銀白色の鎧然として横たわっていたものだった。そして俺はそこで立ち働き?一瞬のめくるめく魔法のように沢山ある中の幾つかの遊戯具達を最新鋭の遊園地の乗り物のごとく変えて行くのを、まるで前から、ずっと以前から、もしかしたらあの亡くなる少し前の母にこの想い出の公園で遊んで貰った子供の頃から既に、知っていたんじゃないか?そして記憶こそ曖昧だが、子供の頃近所の唯一の友達だった身体が奇形の身体障害者の子と、その子が"何処か"に引っ越して行ってしまう直前、いつか又ここで遊ぼうねと言った約束。ーー俺は畏怖からだんだん気持ちが柔らかに変わって行って、芝生に腰を下ろして穏やかに目を細めて"彼ら"の仕事を見守った。これでこの公園はニュースにも出て必ず残されていくだろう。"彼ら"が皆あの友達と同じ姿をしている事から、それが彼ら異星人の本来の当たり前の姿なんだと、そんな事はわかってるさ。彼らの中に必ずあの友達がいる筈だ。ちっとも異星人だって俺と変わりゃしないさ。ーー例え、彼ら異星人の姿が我々とは全く違って、腕が二本もあり、足が二本しか無く、頭に至っては僅か一つしかなかったとしてもだ。
俺はさっきまで従事していた重要な会社の重役会議の疲れも忘れて、いつまでもいつまでも彼らの仕事を眺めていた。
異星人 高柳孝吉 @1968125takeshi
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