第47話 これからも(終)

 1



 その日、俺は買い出しついでにギルドに立ち寄った。

 今日の分のダークアイアンブルを売り払おうと思ったのだ。

 アレからもう一ヶ月も経っているのに、未だにアイテムボックスの中にはダークアイアンブルがある。

 幾らなんでも狩り過ぎたなと思うが、まぁ高く売れるし悪いものでもない。


 ギルドに入ると、視線を受ける。

 少し前まで消えていた、チンピラ共が戻ってきたのだ。

 こいつら、一度消えてもすぐに湧いてくる。

 どこから湧いてくるんだろうな?


 で、いつも通り嫉妬の視線を向けられる。

 本来なら、これをスルーするところなのだが、最近はそちらに目を向けることにしている。

 途端に視線は引っ込んで、変わりに恐怖の感情を感じる。


 俺のことを侮蔑する連中は、アレ以来俺に対して恐怖を抱くようになっていた。

 勇者の一件だけではない、その後の陰の囚人討伐の一件だ。

 ミウミに、精神世界のことをいい感じに話したところ、いつまにかそれが冒険者中で話題になっていた。


 必要とあれば、自分の頭すらふきとばせる人間。

 そういう話が広まった結果、いよいよ俺に対してチンピラ共が恐怖し始めたのだ。

 たとえ能力がなくとも、それとは関係なく行動を起こせるとあっては、攻撃しようという気もおきないだろう。


 だから、要するに。

 俺はもう、ギルドで侮蔑されることはないのだ。



 2



 部屋に戻ると、いい感じの香りが鼻孔をくすぐる。

 美味しいものができている匂いだ。

 解りきっていたことではあるが、テンションが上がる。


「ただいまー」

「おかえりなさーい、買い出し終わった?」

「ああ、必要なものは買ってきたよ」

「ありがとね、適当なところに置いといて」


 キッチンでは、ミウミが忙しく料理をしているところだろう。

 すでにいくつかは完成しているかも知れない。

 まぁ、つまみ食いをしたら燃やされるのでやらないが。


「調子はどうだ?」

「あと少しってところ。もちろん、皆が来る前には間に合うわよ」

「流石だな」


 リビングに行くと、エプロン姿のミウミがせわしなく動いている。

 うん、可愛い。


 で、ミウミが何をしているかというと……食事会の準備だ。

 黒金パーティ、それからルーアを誘っての食事会である。

 何かというと、例の勇者パーティの一件が完全に片付いたお祝いである。


 もともと、灼華パーティと黒金パーティはお祝いごとがあったら集まって食事会をする慣習があった。

 料理は全て一流シェフ並の実力を有するミウミのお手製。

 費用はミウミ以外がいい感じに持つ、そんな感じの食事会である。

 今回はそこに、ルーアも加わる。

 細かいところは全部彼女に投げてしまったからな、労わないと。


「準備手伝うよ」

「アンタはダメ、あとルーアもね。黒金の連中が来たら手伝ってもらうから、しばらく休んでて」


 俺は買い出しに言ったから。

 ルーアはある意味主賓だからだろう。

 ともかく、そう言われて無理やり手伝おうとするとミウミの機嫌を損ねてしまうので、ここはお言葉に甘えることにする。


 しばらく、ミウミの料理風景を眺めて過ごす。

 こうして平和な日常を送れるのも、俺達があの事件を片付けたからだ。


「なんていうか」

「どうしたんだ?」

「あの事件の後、色々変わったわよね」


 色々。

 本当にざっくりとした話しだが、確かに色々と俺達は変わった。

 一番変わったのはギルドの冒険者連中だろうが……


「アンタ自身も、変わったわ」

「そうか? あんまりそんな気はしないけど」

「変わったわよ」


 はて、なんだろうかと首をかしげる。


「夜、魔弾をアイテムボックスにいれる時、明かりをつけて作業するようになった」

「……? ああ、そういえばそうかもしれない。どうして今までつけてなかったんだろうな?」


 言われて、考えて。

 ようやくそういえばそうだと合点がいく。

 言われてみれば確かに、最近は明かりをつけて作業をしているな。


「案の定気付いてなかったわね……まぁ、いいわ。今つけてるなら、それで」

「……そうかもしれないな」


 明かりをつけていなかったのが、俺の精神的なものに由来するなら。

 つけた今のほうが、良い傾向だろうことは想像に難くない。


「ねぇ、これからどうする?」

「これから?」

「そう、アタシ達の今後のことよ」


 今後。

 これまでも、それなりに安定した生活はできていた。

 だが、今回の一件で俺達はかなりの蓄えを手に入れた。

 ここから、どんな事をするのも思うがまま、というくらい。

 俺達には、様々な可能性が広がっている。


 陰の囚人は、俺がミウミの未来を閉ざしたと言っていたけれど。

 結果的に、その未来は今、どこまでも広がっていた。

 あの時俺は、諦めていた。

 絶望の中で、終わってしまえばいいと思っていた。

 だけど、ミウミが言ったんだ。


 頑張れないなら、どこへだって逃げてやる。


 ああ言われたら、言われてしまったら。

 逃げでもいいからミウミと一緒にいたい。

 そう思ってしまうのも、悪くないよな?


「今後は……」

「今後は?」

「ミウミといっしょにいたい」

「!」


 思わず、ミウミが手を止める。


「これからも、ずっと、永遠にだ」

「……そ、そんなに?」

「ああ、たとえミウミがどこかへ逃げて隠れてしまったとしても。俺は必ずミウミを見つけ出す。そしてまた、一緒にいる」

「…………バカね」


 そう言って照れたミウミは、普段の数倍可愛かった。

 しばらくそうしていると、戸を叩く音がする。


「来た」


 ラティアの声だ。

 俺達は顔を見合わせて、俺が迎えることにした。

 もうすぐ他のメンバーもやってくるだろう。

 そうしたら、食事会のスタートだ。


 きっと、これからもいろいろなことが俺達の前には待ち受けているだろう。

 いいことも、わるいことも。

 いろいろだ。

 でも、俺は多分逃げないと思う。

 あの時、ミウミが俺を見つけてくれた時。

 俺の未来が始まった時。


 絶望すらも受け入れて、俺は心に誓ったのだから。



 これからも、彼女とともに生きていく……と。




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 お読みいただきありがとうございました。

 またどこかでお会いできたら幸いです。

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スキルがなくて無能だと罵られた俺、唯一の理解者である幼馴染と努力を続けた結果二人で最強になる。Sランク冒険者になった幼馴染は勇者パーティに勧誘されたけど俺のことが好きすぎて勧誘をすげなく断っています。 暁刀魚 @sanmaosakana

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