第46話 そして

 1



 気がついたら、俺は元いた場所にいた。

 隣にはミウミがいて、ニセモノの勇者を倒したその瞬間に戻っていた。

 やはり時間は進んでいなかったようだ。

 あの世界は精神世界。

 ただ、陰の囚人だけはあの世界に確かにいた。

 だから俺がヤツの居場所である俺の頭をふっとばして、陰の囚人を倒した。

 そんなところだろう。


「……終わったわね」

「ああ、終わったな」


 そういいながら、消えていくニセモノの勇者を見る。

 陰の囚人はもういない。

 ニセモノの勇者を形作っていた陰も、消えていっている。

 全て終わったのだ。


「ねぇ」

「……どうした? ミウミ」

「今の一瞬、アンタ何かあったでしょ」


 おおう。

 即バレした。


「見ればわかるわよ! 何があったのかはさっぱりだけど、なにかがあったってことだけはよく分かる! アタシに見抜けないとおもった!?」

「いいや、全然。見ればわかるだろうなと思ってた」


 まぁ、驚くようなことではないのだけど。


「大丈夫なんでしょうね? 陰の囚人、ちゃんと全部倒せたの?」

「倒せた、何も問題ないよ」


 それに関しては、眼の前の光景も証拠だが……もうすぐ黒金パーティとルーアが最深部に入ってくるだろう。

 あの大量の陰は、囚人が死ねばそのまま消えるはずだ。

 そうなったら、中を確認するためすぐに入ってくるに違いない。


「わかった、皆が入ってくるのを待ちましょ」

「ああ」

「それにしても……」


 ミウミがこっちをじっと見上げてくる。

 なんとなくムスッとしたような表情だったが。

 しばらくそうしていると、不意に笑みを浮かべた。


「どうした?」

「んーん」


 そう言ってミウミは、ちらりと最深部につながる通路を見てから。



「また少しかっこよくなったなって、そう思っただけ」



 軽く、俺の頬に口づけをした。



 2



 それからは、まぁ色々と大変だった。

 今回の事に関する報告を、数日かけて全員で作った。

 嘘とかは必要ないが、色々と配慮が必要だったり、言い方に気を付けなくてはならない部分もある。


 だが、実入りは大きい。

 今回の件でかなりの報酬が出たのだ。

 勇者の件の口封じという側面もあるだろうが、これを貰っておけばこれ以上貴族に絡まれる心配もない。

 そう考えると悪いものではないだろう。


 それに、俺が今回なんの躊躇いもなく色々と魔弾を使ったのも、これを当てにしてのこと。

 しばらくはのんびり生活できる。

 そう考えれば、多少のマイナスも全然気にならない。


 ただ、大変なのはルーアだろう。

 勇者パーティは全滅、自分だけが生き残った。

 関係各所への調整、他いろいろやるべきことは多い。


 しかし意外にも、ラティアがそれを助けていた。

 元いいとこのお嬢様だけあって、こういう時の知識はある。

 コネクションだってまだ残っているらしい。

 どう考えても色々放り投げて冒険者をしているだろうに、よくコネクションが残っていたなと驚いてしまった。


 とにかく、勇者の件は俺達には関係のないところで処理されるだろう。

 こうなってしまっては、俺が勇者を瞬殺したという一件は全体の中では些細なことだからだ。

 そうなってしまった要因も、勇者の暴走ではなく陰の囚人の洗脳であった。

 そうなるとそもそもの原因は勇者パーティを企画した貴族にある。

 こっちを恨もうにも、恨んでいる暇も、余力も、立場もないというか。

 まぁ、企画した連中はおしまいだろうな、こりゃあ。


 そういえば、黒金パーティはしばらく活動を休止するらしい。

 ラティアがルーアに関わって、色々と動いているのもあるし、今回の件の報酬でしばらく働かなくていいというのもある。

 加えて、せっかくダークアイアンブルの件と合わせて余裕もできたのだから、しばらく各自いろいろやってみたいことをやってみようという話らしい。


 ロージは家族サービス、他の男どもは、なんか遠くにある賭博と風俗の街に行くらしい。

 女性陣は、街でできる新しいことを始めるとか。

 その一環でミウミを通して、俺に読み書き算盤を教えて欲しいという依頼が来ている。

 まぁ、そのうち講師をしてみるとしよう。


 かくして、勇者の暴走から始まった一連の事件は幕を閉じた。

 我ながら随分と面倒なことをさせられたり、ボスを倒して街を救うなんて冒険者らしいこともしてしまったが。

 まぁ、終わってみればいい経験だっただろう。


 大損だと思っていたもろもろも、総合的に見ればプラスで終わった。

 これ以上は、望むべくもないんだろうな。

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