第17話 訪問者

 現在の時刻は午後五時十五分、僕は良き友人の家に向かって歩を進めていた。その友人はこの国の親衛隊に属していた時代からの友人、名前はクリス、僕はそのクリスの家に向かっている。でも、もしかしたら家にいないかもしれない。ダメもとで向かっている。

 みんなはスラムで情報収集と言っていたけど僕の場合は少し違う感じ。スラム街は通るけど情報収集するわけじゃないからね。

 僕がスラム街を通るのは単純にバレることを防ぐことが目的だからだ。それにしても意外と距離あるぞ…おっさんにはちとキツいな。誰か送ってくれないかな、まぁ無理か。ふとスラム街を見てみる。僕が親衛隊にいた時代よりは幾分かマシになっている?

 人が少ないように感じる。以前まではもう少し人がいてもっと酷い有様だったはずだ。だったらどうしてだ?

 今の王、グリードはスラム街に気を回すほど国民のことは考えていないはずだ。表向きで活躍する人の保証しかしない彼奴はスラム街の話をしているところを聞いたことない。

 度々、視線を感じる。だが、襲ってくる様子はない。僕が武器を持っているからの可能性は高い。それに一人で挑んで交戦中に一人が来たとして僕を倒したとしても、その次に襲ってくる奴は出てくる。ここじゃ戦闘を公でするのが間違いだ。負の連鎖で収拾が付かなくなる。

 そろそろでスラム街を出る。

 そこで少し話声が聞こえた。

 男性二人が何か話しているようだ。バレないように耳を立ててみるか。

 壁越しだが、脆い壁じゃ話し声などダダ漏れである。そのことに気づいていないのだろうか?

「なぁ、近々また親衛隊がここに来るって噂があるぞ」

「あぁ?またあの連中がここの人を攫うのか、そんな人手足りないってのか」

「さぁな、だがそれを利用して脅威な奴を追い出せが俺らも動きやすくなるだろ」

「だな」

 親衛隊がここを出入りしている?その理由がスラム街の人を攫うため…人手不足ってことは労働力として人を攫っているのか。益々クズな野郎だ。

 ともかくスラム街がどうしてこうなっているのかがわかった。とりあえずその場を離れてスラム街を出る。

 中央通路を通る事にはなるが、すぐ路地に向かうことで怪しまれることはなかった。

 ここまで来ればもう少しだ、

 数分歩いているとついた。

 ちょっとした白いモダンなアパートだ。

 あいつ昔から物欲なかったしな、大層な家に住めると言うのに住もうとしなかったし。

 とりあえずクリスの家のチャイムを鳴らす。

 少し待っていると足音が聞こえてくる。扉が開いて中にいたクリスが顔を出す。

「はいはい…ってお前!?」

「よっクリス。久しぶりだな」

 クリスは相変わらずといった容姿で前から変わっていなかった。

 困惑したような表情になるクリス。

「久しぶりってお前な…はぁ、何かあったんだろ?とりあえず家に上がってくれ」

「お、サンキューとりま上がらせてもらうわ」

 クリスの家に数年ぶりに入る。中はそこまで変わっていない。マジで物欲ないなクリスは。

 荷物を近くに置いて椅子に座る。

「クリス、数年ぶりだってのに家の内装変わってないな」

「いや、俺が何か欲しがる性格じゃないの知ってるだろ、容姿変わったのお前だろシワ増えてね?」

「え?まじ?」

 近くの鏡で確認してみる…増えてるのか確認してみるか、これで嘘だったらクリスにアッパーをお見舞いしてやる。

 近くの姿見で見るが、自分で見ても全くわからん。ガチで僕歳なん?

「見た目の若さなら俺の勝ちだな」

「おっさんにはおっさんなりの魅力あるだろ」

「お互い三十超えてるしあるかもな」

 気を許した関係、クリスは僕が犯した罪、追放されたことを知っている。それでも尚、僕を助けてくれる。

 本当に良いやつだ。

 だが、時間が惜しいし、本題に入ろう。

「クリス、ここからは真面目な話なんだが、まずクリスはどうして家にいるんだ?」

 この時間なら、仕事と言ってもいい、それに休みだとしても親衛隊用の装備がいつも置いてあった。だが、それが無い。

「あぁ、それについてなんだが、俺がクビにされたんだ」

「は?クビにされただって?」

 どう言うことだ?僕がクビされる理由はわかる。だが、クリスがクビされる理由がないはずだ。

「国からして都合が悪かったんだろ、俺と言う存在が」

「何か国が動くのに正義感の強いクリスは切り捨てるのが吉って考えたってのか?ひでぇ話だ」

 そう考えると他の人もクビにされている可能性が高そうだ。親衛隊も国染まりってことか、となると国の問題を解決するのは困難そうだ。下手したら国と全面衝突になりかねない。

「クリス、僕はこの国の方針を変えるべきだと考えている。無理には言わない、失敗したらクリスの立場も危うくなる。それを承知で聞きたい、力を貸してくれないか?」

「…」

 クリスは険しい表情になる、久しぶりにあったと思ったらこんなことを聞いてくるんだ、悩むに決まっている。クリスも国の方針に思うところがあるのは分かっている。それを利用しようと言うわけじゃない、これは一人の友人として聞いている。結局僕らは元親衛隊だから。

 だが、一分足らずでクリスは答えを出す。

「分かった、協力しよう」

 その一言を言うクリスの表情は決意に満ちていた。

 思っても見なかった返答に呆気に取られるが、嬉しい事には変わらない。

「ありがとう、僕にも数人仲間がいるんだ、クリスは世界にいる天才を知ってるだろ?」

「あぁ、この国にいる天才をお前含めて数人知ってるぞ、急にどうした?」

「その数人のジェスター・クロッカスとサージュ・ロードクロサイトと今ここに滞在しているラモール・アクアマリンが僕の仲間なんだわ」

「はぁ!?」

 うるさい声でクリスは驚いた声を発する。

 近所迷惑で訴えられても知らんぞクリス。

「いや、ちょっと待ってくれ…ならもしかしたら行けるかもしれないな」

「僕が思うに問題なのは軍なんだ、親衛隊は僕達で対処できるかもしれないけど、軍を相手となると数千人を相手する事になるからね」

 クリスは長考するが口を開く。

「親衛隊に属していて俺のようにクビにされたやつで信用できる人に声をかける、それで俺達が軍への連絡をどうにか切る」

「ならまた後日に話そうや、みんなも連れてくるからさ」

 そう僕が言うとクリスは頷いた、その確認をとった後僕はクリスの家を後にする。今度来るときは菓子折りを持ってこいと言われた。図々しいとは思ったが、連絡もなしにクリスの家に凸った僕もそこそこなので何も言えない。クリス相手だし安いクッキーで良いでしょ。

 外に出てきた道を戻ろうと少し歩くと何やら騒がしい声が聞こえてきた。遠くに人集りができている。

 気になったので人に見られない場所から聞き耳を立てる。

「おい、弍番工場で爆発があったってよ」

「なんかそことは違う工場で誰か暴れているらしいぞ」

「まじか、でもここならまだ安全だろ、最悪軍が動くはずだ」

 工場付近ってジェスターがいる場所じゃないか!?

 まずいな、もしかしたら街の中で戦闘が起きているのかもしれない。でもジェスターならその隙に情報とか盗んできそうだしな。

 一応心配だし僕も向かってみるか。

 そう思い足を速めて移動する。

「うわぁぁ!?」

 途端に悲鳴が聞こえる。

 近くで聞こえた悲鳴に視線を向けると黒く赤い生物のような物体。怪異と思われる物体がいた。

 どう言うことだ?いやでも、発生源がわかっていない現状で結論つけるのは良くないね。とりあえず今はこの怪異の対処しないと。

 襲われていた男性と怪異の近くまで行く。

 腰が抜けてるようにみえ怪異がその男性を今にも飲み込もうとする。さっき戦った怪異より数段でかい。

 怪異の注意をこちらに向けるためにナイフを投げる。

 ナイフに刺さった怪異は僕の方に視線を向ける。

「逃げろ!」

 男性は僕の声で一度冷静になったのか死に物狂いで逃げ出す。

 男性が逃げたのを確認すると僕は怪異と対面する。そこで異変に気づく。

「冗談だろ…ナイフが吸収された?」

 刺さっていたナイフが飲み込まれていった。

 そうなると物理攻撃が効かないのか?分からない。

 怪異はその図体の割に複数ある腕を駆使して僕の方に勢いよく突進してくる。

「あっぶね!」

 間一髪で横に避けた僕は通り過ぎた怪異を見る。

 怪異はこちらに体を向けてまた走ってくる。だが、突進ではなく追いかけるように走ってくる。

 この速度ならまだ逃げれそうだが、きつそうだ。

 スラム街の入り組んだ道を駆使しつつ逃げる。

 逃げる場所はジェスターとは違う方向、ここからならラモールが近い、一旦合流するのが良さそうだ。

 それまでは防戦しつつ移動しよう。

 怪異が走る勢いで建物を壊しながらも僕を追いかける。角を曲がる時に小回りが効かないのかスリップしている。

 それでも時間の問題だ、どうにか速く対処を見つけないと。

 そこで後ろから、怪異の方から何かが飛来してくるのがわかる。後ろを向いてそれを掴む。それは怪異が取り込んだ僕のナイフだった。

「まじか、こいつものを取り込んでは射出してくるのかよ!?」

 物理が効かなそうだしどうすればいいだよ!

 現在の時刻、午後六時三十五分。




 現在の時刻は午後五時五十分。私はスラム街での多少なりともの聞き込みを終え、自身の権利で使用している研究室の研究員に話を聞く事にした。

 城や工場から離れた場所に位置する研究所、軍事基地が近くにあり多様な物の試運転をするために、だそうだ。

 スラム街ではあまり情報を得れず、見ただけで判断できるとしたら人がやけに少なかったと言うことぐらいしかなかった。

 確信ではない仮説がある、私が所属する研究所トライラボにいる同僚の研究員から話を聞いて判断していいかを確認してみるとしよう。

「アクアマリンさん、数日いなかったようですが何かあったんですか?」

 入るや否やそんなことを聞いてくる同僚に位置する研究員。

「何でもないよ、それに女性のプライベートはあまり詮索しない方が良い、他の女性研究員から鋭い目線を食らう可能性は高まるね」

 そう言うと、苦しそうな顔をして戻っていった。大凡以前に女性相手にやらかしたのだろうね。

 聞きたいことといえばスラム街にいた人が少ない理由で、私が思いつくのは国側が関与している可能性があるから聞きたいのだ。

 丁度、口の軽い女性研究員がいるので聞いてみる事にした。

「少し良いかい?」

「ふぇっ!?え、えぇと…な、何でしょうか?」

「君に、と言うより少し全体でも聞きたいことがあってね。その一人が君だったと言うだけさ」

「あ、あぁなるほど…それで聞きたいこととは?」

「ここ最近で起きている国の事情で気になることを話してほしいのだ」

 研究員の中でも私はトップに立つレベルの権利を持っているが、これでも他の国の出身の身、今でも多少なりとも敵視されることはある。それは良いとして、彼女は驚いたような表情をする。

「私が、そう言ったことを聞くのがそんなに不思議かい?」

 図星だったのか、青ざめた表情になる。

「私のイメージがどうなのか分からないが、怒ることも何かをする事もないよ」

「え、はい…それで、気になる事ですか、そうですね…」

 そう言い彼女は考える素振りをする。

 数秒して口を開く。

「それなら気になることが一つあります。国の方から人手が増えたらしく、何でもグリード様がスラム街に住む人達に仕事を与えたからみたいです」

 やはりか、その話が聞けただけでも良い収穫と言えるだろう。

「なるほど…すまないね、いきなり聞いてしまって」

「いえ、大丈夫ですよ」

「では、私はやる事があるから失礼するよ」

 去ろうとした時、彼女がもう一つありますと言ったので聞く事にした。

「近々、こちら側から戦争を仕掛けるかもしれないと言う話があるんです」

「…戦争か」

 サラシノネロー国との二次兵奪戦争が勃発する可能性があると言うこと。

 戦争になってしまったら移籍探索どころじゃなくなるね。それはどうにか止めないといけない。戦争をしたところで何も生まれない、しかし兵器を作るきっかけを産んだのはこの私だ。

 私にはどうにか戦争を止める義務がある。

 ギアマジック・クラフト・エルゴン、通称MATエルゴン。

 神暦千六百十二年、フォティア国が使用していたギアマジック・クラフト、通称ACTエルゴンを改善し、軍事用に魔力変換率を底上げした基盤。

 そのせいで多くの兵器が開発されるようになった。私が好奇心で生み出した物が軍事用として多く使用される。兵器を作ったものとして私が責任を持たないといけない。

「ありがとう、私のやるべき事が決まったよ、ではね」

 そして、私はラボをあとにする。

 外の空気を吸う、感傷に浸るわけではないが、只今は思考をスッキリさせたい。

 人の生死を幾度と私は見てきた。その中で私は人が死んでいくことに慣れてしまった。だから他人に興味を示す事が少なくなった、だがジェスター君、サージュ君、ゼラニウム君、あの三人は何か違うと感じた、彼とは違うが、私も働くとしようか。

「っ!?怪異の気配…!」

 自前のショットガンを構える。アスファルトの道路からシャボン玉のように地面から球体を保つ黒く赤い液体が出てくる。

 それが私が見える範囲で十、十五と増えていく。

「君達の正体をするのも真実に近づく情報を知った私の責務、そのために消えてもらうよ」

 そう戦闘体制になると、スラム街に続く方向から音が聞こえる。大きな何かがこちらによってくる音、そちらに視線を向けると見知った顔が大きな黒く赤い物体、怪異に追いかけられていた。

「ゼラニウム君!その怪異はスラム街からいたのかい!?」

 でかい怪異を壁に衝突させこちらに合流する。

「なんか、都心中で怪異が発生しているみたいだ…本当に面倒になったわ」

 数段デカい怪異と小さく二十近くいる怪異と対面する。

「二人で一掃するしかなさそうだね」

「魔法も使わざる終えないのしんどいでしょ、これ」

 現在の時刻、午後六時四十五分。

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ガラクシアスの落日 @kona5255

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