【私のおふるで悪いんだけど】 とお母様(ヒロイン)に取り巻きを押し付けられ、嫁いだ辺境でも嫁扱いされませんが、おかげで自由に生きれます!
【56】結婚してるけど結婚しました。―LastChapter―
【56】結婚してるけど結婚しました。―LastChapter―
※書き足しあります。
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冬のあいだに、結婚式の準備をして、そして4月。
様々な花が木々や野に咲きあふれる頃、アベル様と私は結婚式を挙げた。
辺境にも関わらず、ずいぶんとたくさんの方にご出席頂いた。
国王である父も出席してくれた。
父は1人で来た。
新しいお相手は、お腹に子供がいるので大事を取って欠席された。
前世とは式の内容は若干違ってて、ヴァージンロードで父と歩く……なんてイベントはなくて、助かった。
私のために母と兄の処罰を曲げた父。
感謝する気持ちがないわけではないが、今更どんな顔をして会えばいいのかわからない。
母は小さい頃は私を可愛がっていたので、父よりかは思い出はある。
しかし、父はずっと母にぞっこんだったので、私を娘として認識してるかもあやしい、とか思ってたし……。
母のことを抜いても、彼は国王だ。
普通の家庭の子のような触れ合いはまずなかっただろう。
他人以上に、他人……だったのだけれども。
そんな思いを抱えつつも、式は進行する。
誓いをし、キスをする。
「やっとあなたに、ちゃんとした結婚指輪を贈れます」
アベル様がにっこり微笑んで、誓いのキスの前に頬や額に口づけをされた。
「わわ」
やはり、来賓の前でこういうのは恥ずかしい。
真っ赤になってしまった私を見て、嬉しそうな顔をされる。
「これからずっと、よろしくお願いします。リコ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そして、誓いのキスをする。
ベールの下に潜んでいるサメっちが小声で
「きゃっ//」
とか言ってる。
なんでサメっちが照れてるのー?
盛大な拍手を受けて一度退場し、衣装直しをし――
あー!、来賓は美味しそうなもの食べてるー!
いいなあああ!!!
と、思いながら挨拶回りをする。
どこへ行っても今日は祝福の言葉を頂ける。
結婚式の効果は絶大のようだ。
私も、世間に認識をかなり改めて貰えたのでは? と思った時。
――耳障りなヒソヒソ声が聞こえた。
” ミリウス辺境伯、結局アプリコット姫と結婚式まであげる羽目になってお可哀そう ”
” まったく、母親もとんだアバズレだったものね。王様もお可哀そうに ”
” 王家にとんだ血が混ざったものねぇ ”
「……」
ないわけないだろうな、とは思ってたけど結婚式でまで聞きたくなかったなぁ。
でもまあいいや、一部の人だし……と思っていたら、アベル様がいきなり早足で、その噂の輪へと向かった。
「え!? アベル様」
「失礼します。本日は参列頂きありがとうございます。ところで、いま大変興味深いお話が聞こえたのですが、私達も混ぜて頂いてよろしいですか?」
表面上は涼やかな笑顔で問いかけるアベル様に、噂を立てていた貴婦人達が、慌てふためいた。
アベル様、目に怒りが宿ってますよー!
「こっ……これはミリウス閣下! いえ、私達はその」
「誤解があるようですが、私は妻を愛しております。その愛情を示しすためにも、今回の結婚式を開きました。結婚式を開くのにすこし時間はかかってしまいましたが、決して妻が無理強いしたのではありません。むしろ私が妻を説得して開いた式です。……このような実情をお伝えすれば、ご安心いただけますでしょうか?」
「あ……あ、もちろんですとも! 嫌ですわミリウス閣下!」
「そうですとも、私達はたまたま小耳に挟んだ話をそんなわけないですよねって、話してただけですわ!」
「おめでとうございます! お似合いのカップルですわ!!」
……あはは。
アベル様も苦笑気味に私を見て、ウインクされた。
しかし、そこにもう一つの声が響き渡った。
「私からもひとこと、言わせてもらおうか」
――私と同じ金色の髪に青い瞳。
その人の声で場の空気が引き締まる。
人々が道を譲り開ける中、悠々と歩いてくる美しい男性は――。
「……お父様」
「これは……皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
「へ、陛下!?」
ちょうどアベル様と対面しているご婦人方の後方に、王である父が立った。
頭を下げるアベル様に、表をあげなさい、と父は言った後、貴婦人たちを決して威圧することなく見つめた。
「いいかね、御婦人方。娘は噂されているような自由奔放な子ではないのだよ。ちょっと不幸な婚約が続いただけでね。箱入り娘だっただけに、世間では誤解されているようだが――とても気立てのよい、私の自慢の娘だ。ミリウス卿からも、さきほど『お願い』があったようだが、私からも『お願い』したい。その認識を今日から改め、正しい噂を広めて頂けるかな?」
父は優しくご婦人方に微笑んだ。
怯えていたはずの貴婦人たちは、慌ててカーテシーをし挨拶をしたが、その顔は真っ赤だった。
父のその微笑みに、ときめいているのがわかる。
我が父ながら、女たらしだ……。
「も、もちろんでございます」
「陛下からそのようなお言葉を頂くなど光栄です、ぜひ仰せの通りに……!」
「わたくしたちは、そんなこと欠片も思っておりませんわ!」
騒がしい貴婦人たちは、父と私達に挨拶をすると、その場を去っていった。
「――陛下、ご助力を誠にありがとうございます」
アベル様がお父様が噂のもみ消しに一役買ってくださった事にお礼を申し上げる。
――その横で私はペコリ、と頭を下げ、
「陛下、誠にありがとうございます」
と、アベル様と同様の言葉を伝える。
「娘のことだからね。当然だ。アプリコット……すこしだけ、ハグをしても?」
お父様は私のその様子を見て距離を感じたのか、遠慮がちに言った。
「はい、お父様」
私はアベル様から離れて、お父様に一歩近づいた。
父はすこし悲しげな微笑みを浮かべて、私をしっかりと抱きしめた。
「……」
ハグなど、幼い頃に一度あっただろうか。私が覚えていないだけだろうか?
――でも。
そうだ、お父様ってこんなにおいだった……と、過去の記憶を探っていると、彼が耳元でつぶやいた。
「今まですまなかったね、アプリコット。本当に長い間、どうかしていた。……これからは手紙を書いてもいいかい?」
「……はい」
私は了承すると、お父様は離れてニッコリと笑い、私の頬にキスをした。
「おめでとう、我が娘よ。君の未来に幸せで溢れんことを」
この人はなんて事をするの。まったく酷い。
いきなり距離を詰めてきて……こんな。
諦めていた親の愛情。
そのいきなりの訪れに他の感情を置いてきぼりにして、胸が震える。
「時間はかかるかもしれないが、できればいつの日にかは、陛下ではなく……お父様と呼んでくれないかな?」
「……っ」
私は泣き出してしまった。
「すまない、花嫁を泣かせてしまった」
父の穏やかだけれどすこし慌てた声が聞こえた。
「陛下、お任せください。また、後ほど。アプリコット、休憩室へ行こう」
アベル様が私の手をひいて、立ち去る。
「ああ、任せたよ。ミリウス卿」
貴族集まる中での話、その様子は話の種となった。
ただし、それは国王と姫、そして花婿の微笑ましいエピソードとしてその後、結婚式に来なかった貴族たちにも広がるのであった。
***
宴もたけなわ。
とてもたくさんの来賓に、挨拶しても挨拶しても終わらない。
その賑やかな結婚式会場の庭園で、少しのあいだ人の輪を離れてアベル様と二人で休憩する。
「たくさんの人だね~。……もうリコの醜聞でヒソヒソする人もいないみたいだね。今日もさっきの一回だけだったし」
ベールの中に隠れたままのサメっちがそう言う。
「ふふ。醜聞を上書きするために、随分とあちこち……いえ、国中に噂を流しましたからね」
「え、アベル様。そんな事してくださってたんですか? ちなみにどのような噂を流されたのです?」
「まあ、王宮であなたが虐げられていた真実をふわっと……」
「ああ、そうなんですね。今日の様子をみると、だいぶん広がってますね、それ。さきほどお父様も協力してくださいましたし、思ったより早く、私の醜聞も消えていくかもしれません」
私が笑顔でそういうと、アベル様が人差し指を立てた。
「それと噂はもう一つ立てました」
「え? どのような」
「思い切りノロケた噂を」
「のろけ!? 一体どんなノロケを」
「それは……」
アベル様が続けた言葉は、以前、リリィに教えてもらった続編のタイトルだった。
「――ミリウス辺境伯は、アプリコット姫を溺愛して離さない」
「……そ」
「そんな恥ずかしいノロケを、国中に流したんですか!?」
「いいじゃないですか、真実ですし」
「真実だねぇ~」
「――噂違わず。愛してますよ、リコ」
そう言ってアベル様は、ベールごとギュッ、と私を抱きしめてキスをした。
「……も、もう。でも……」
私は――私も愛してます、とキスを返した。
すると彼は無表情を崩して、私にだけくれる微笑みを見せてくれた。
春の花びらが舞い散る。
それをサメっちが無邪気に追いかけまわし――私達はそんな柔らかな光のさす場所で微笑み合うのだった。
『【私のおふるで悪いんだけど(以下略)】FIN』
――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
ここで完結となります。
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【私のおふるで悪いんだけど】 とお母様(ヒロイン)に取り巻きを押し付けられ、嫁いだ辺境でも嫁扱いされませんが、おかげで自由に生きれます! ぷり @maruhi1221
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