エピローグ

「驚いたよ。ここ十年近く会ってなかったから、もう会う機会はないと思ってた」

「ここに来るのにはかなりの勇気がいったからな。墓の掃除、してくれてたのか」

「うん。この墓地には君のお父さんとお母さん、そしてウチの妹が眠ってるから。悲しいけど、やっぱりお墓は綺麗にしないとね」



 女性は背後を振り返り、墓石に対して優しい眼差しを向ける。この女性は幼稚園時代からの幼馴染みだ。同じ幼稚園だった上に家が近かった事で仲良くなり、その中で彼女の妹とも仲良くなった。


 そして付き合いを続けていく内に俺は彼女の事が異性として気になっていたが、親の仕事の都合で彼女達はこの沿岸地域に引っ越していった。それが高校二年生の頃の三学期の前であり、春休みには会いに行ってみようかと思っていた時にあの震災が起きてしまった。


 もちろん、俺は心配だったし、家族全員が無事である事を祈った。けれど、その祈りは不十分だったのか彼女達は避難中に津波に巻き込まれ、一家は彼女を遺して全員が亡くなった。それを聞いて俺はとても悲しんだし、葬式に参列出来ない事にも悔しさを感じた。


 そして父さんと母さんは医者と看護師だった事から被災地支援のために現地に向かったが、二人は過労が原因で病気にかかり、自分達よりも他の人を優先した事で亡くなった。俺は震災で直接的に被害を受けたわけではないが、間接的に大切な人達を殺されたのだ。


 その後、俺は祖父母の元に行ったが、その祖父母も俺が成人してすぐに亡くなったため、その家を継いで独り暮らしをしていたのだった。



「……ようやくここに来られたよ。十年……本当に長かった」

「うん、長いよ。でも、こうして来てくれておじさん達や妹は本当に喜んでると思う」

「そうだと良いな。ただ、ここに来たのは墓参りのためだけじゃないんだ」

「え?」

「今日、俺はあの頃を振り返りながら今の生活の豊かさを改めて実感した。あの過去を乗り越えて今を生きる決意をして、未来に向かう事にしてここに来たんだ」

「…………」

「その未来に向かって一緒に歩いてくれないか? お前とだったらどんな苦難でも乗り越えられると思うから」



 その言葉に彼女は驚いたようだったが、その目に涙を溜めると、彼女は俺の胸に顔を埋めた。



「……もちろんだよ。私、君の事が昔から好きだったから」

「俺もだ。だから、もうこの気持ちにはウソはつかない。これからはずっと一緒だ」

「うん、うん……!」



 彼女は涙混じりに言い、俺は菊の花束を持ったままでそんな彼女を静かに抱き締めた。亡くなった姉を、俺が好きだった彼女の姿をした“妹”の事を。

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震憶~過去と現在、そして未来へ~ 九戸政景 @2012712

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