第6話 生活の今とあの頃

「…………」



 十数分後、車窓の向こうに流れていく景色を眺めていた。中々乗らない路線だったからか流れていく景色は新鮮なものであり、そんな景色が増えていくと同時に俺は少しずつ自分の知らないところへ向かっていくんだという十干が沸いてきていた。



「そういえば、一人でこんな風に遠くまで電車に乗っていくのは久しぶりだな。あの時は行ってみたいところがあったから行ってみたけど、今回は行かないといけないから行くわけだけど」



 ふぅと息をついてから俺は車内を見回した。車内には長時間に備えて読書をしている人や一緒に来ている人と話している人などがおり、その誰もが不安などが一切無さそうな顔をしていた。けれど、決してそんな事はない。不安や心配というのは誰のなかにでもあるのだから。



「ここまで生活が戻ってきてもやっぱりそうなるよな」



 ここまで思い返してきたように現在は被害が比較的少なくて済んだ内陸部を初めとして沿岸部の方も復興などが進んで本当の意味での元の生活とまでは言えないまでも当時に比べたら衣食住には困らない生活が戻っている。


 けれど、そんな誰の中にでも傷跡は残っている。恐怖や不安、絶望や苦しみといった物達が残酷にも残していった心の傷跡が。



「多くの人達は前を向いて進んでるし、過去を乗り越えて現在いまを生きて未来に向かってる。でも、俺はまだだ。だからこそ、行かないといけない。過去をしっかりと知って、認めて、その上で今を生きる決意をして、未来に向かっていかないといけないんだ」



 電車に揺られながら俺は拳を軽く握る。この先に待っているのはあの頃の俺には認める事が出来なかった現実であり、そこから目をそらしてこの十年近くを生きてきた。


 でも、もう違う。俺は前を向く事を決めたのだ。だから、現実を受け止めて前に進もう。それが俺に出来る事だから。


 決意を新たにしながら俺は再び電車に揺られ、数時間の後にある駅で降車した。そしてそのまま歩く事十数分、俺はある墓地に辿り着いた。



「……着いたか」



 墓地を軽く見回し、目的地がどこにあるかをしっかりと確めた後、俺はそのまま歩き出した。そしてそこに着いた時、俺の目の前にある墓の前では一人の女性がしゃがみこんでいた。



「……久しぶり」

「……うん、久しぶりだね」



 女性は一瞬驚いた様子だったが、俺だと気づくと嬉しそうに笑みを浮かべた。

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