第5話 街並みの今とあの頃
再び外に出て歩き始めた時、俺の目には同じように街を歩く人の姿がちらほらと映り始めた。
「まあ今日は休日だし、どこか出掛けようとする人も多いよな。俺だって普段はインドアな方だけど、たまには遠くに行ってみたり何か面白いものがないかと思って近所をブラついたりするしな」
そんな事を独り言ちながら歩き、道行く人の姿や普段通りの街並みを見ていた時、俺の脳裏にはまたあの頃の様子が甦った。
「……そういえば、地震が発生した時、俺はすぐには気づけなかったんだよな」
そんな事があるのかと思うだろうが、実はそうだった。その日、俺は買い物を頼まれて自転車に乗っていた。変わらぬ街並みを眺めながらペダルを漕ぎ、そろそろスーパーに差し掛かろうとしたその時、街の異変に気がついた。
建物の中にいた人達が次々に外へと出始め、何事かと思っていた時に電線が大きく揺れているのを見て俺は初めて地震が来ている事に気づき、信号が消えているのを見てその大きさに初めて気づいたのだった。
「それを話したら本当に驚かれたんだよな。正直その時の俺からすれば地震はあまり現実味は無かったし、その揺れを感じられなかったのを少し残念には思ったけど、本当にそれを感じ取っていたらそんな事を言えないくらいに怖かったんだろうな」
大きな揺れはあったものの、俺が住んでいた地域ではどこかの建物が崩れるとか道路にヒビが入るとかいった事はなかった。ただ、信号がしばらく点いていなかったり街に人の姿を中々見かけなかったり、と明らかに街には異変が起きており、寂しさと怖さの二つを味わったのが今も記憶に残っている。
「今でこそ信号だってちゃんと機能してるし、こんな風にどこかに行こうとしてる人の姿だってちらほら見かける。だからこそ、もうあんな怖さは味わいたくないな。いつかは起きてしまう事とはいえ、悲しい出来事でもあったし、それによって失う物だって……」
そこまで口にした瞬間、奥底から込み上げてくる物があった。それを吐き出してしまえば楽になれただろう。だけど、それを吐き出す場所はここじゃない。
「……行こう。俺が行くべき場所に」
そして俺は歩き始めた。足元に一つだけシミを残してから。
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