第4話 トイレの今とあの頃

「はあ、間に合ったぁ……」



 トイレのドアを開けて廊下に出た後、俺は安堵の息を漏らす。帰宅途中、突然尿意を催した俺は急いで家に帰り、家の鍵を開けて荷物を置いた。そして迫ってくる尿意に焦りながらも俺はトイレのドアを開け、ようやく用を足す事が出来たのだった。



「こういう時って本当に焦るよな。頭も真っ白になるし、急ぎすぎて足が縺れて転びそうにもなるし」



 本当は笑えない状況なのだが、そうなっている自分の姿を想像して俺は思わず笑ってしまった。そして手を洗っていた時、ふと俺はまた当時の様子を思い出した。



「……あの頃、トイレも大変だったよな」



 当然、震災直後は電気がまだ通っていない時だったからトイレをする時も大変だった。日中はまだ良かったし、俺が住んでいた地域は断水していなかったから水道はどうにか使えたから排泄物を流すのも問題はなかった。


 けれど、日暮れ以降になると誰かに懐中電灯で照らしてもらいながらじゃないと廊下も歩くのが困難だったし、用を足すのだって難しかった。だから、今こうして安心して用を足せるのが本当に幸せだと思えた。



「断水してたら本当に目も当てられなかったよな。トイレだけじゃなくちょっと手を洗いたい時だって困るわけだし、その点は助かったと言えるか。断水してる地域からしたら本当に困っただろうし」



 手を洗い終えて手ふきで水気を拭き取った後、俺はさっき買ってきたばかりの菊の花束を再び手に取った。



「……こんな風に思い返す事にしたわけだし、やっぱり行ってきた方が良いよな。久しく会ってなかったわけだし」



 独り言ちた後、俺は菊の花束を近くに一度置いてから手早く準備を始めた。そして準備を終えて菊の花束を持った後、俺は再び玄関を開けて外へと出た。

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