未確定の「君」へ

廃棄予定の夢分子発生装置

(虚構は紙として紙の触感を敢えて言わぬ限りに、この唯一お喋りな心を除いたあの一切の経験に同列に並べられる。言い換えればあの人達も、そうした立体的の紙には過ぎぬから。ふきだしも空の震えも大して変わらぬから。)


 いよいよ彼女が僕の無意識の一つに数えられなくなってしまう時、この意識にとっては足を掛け忘れたに等しい忘れ去られた数センチ。きっと結局辿り着いてしまった踊り場で、ようやく思い出した君のためにこそ有った様なこの今は、遂におかしな「私」の要請が止んで、

「やっぱり、君さえ居たならそれで良いじゃないか。そこに僕の殻も居たならば余計に良い。」

と言った。

 そうであってもなくても、段差には気付いていたかも知れない。段差を敢えて踏むということを思い付かなかっただけである。ただ、歩いているという事実に夢中で、その昔に階段の登り方が分からなくて困ったという余興と、階段を登るという話が本当はどうして可能であるかということの不在を不必要に思い出してしまったので、僕は落下するか、上昇するか、そのいずれかをしなければならなくなったのである。

 「結論としてこの今、中空から降りられないんだ。本当は僕が階段の最中で具体的に存続していることも何かの間違いなんだよ。それに僕は根本的にどうしたかったのかが分からないから、この階段が降りか登りか、その表面に足が置かれていない以上どうすべきか、落ちるべきか浮くべきか、君の好きにしてくれて構わない。」


 結局一旦はコミック的な仕方で解決された「僕」であったが、しかし未だ決めかねていたというのは、コミック的な見た目の幾何学的な原理、根本的に意味が分からないと嘆く探偵の意義であった。

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