第8話 隆とジン
「俺さあ、小学校受験だったから、頑張ったんだよ!
入学して嬉しかったけど、ちょっと頑張り過ぎたのかなって思う」
時計をちらっと見た。
そろそろ講義が始まる。
「時間か?」
聡がけだるそうに、残ったコーヒーを飲み干した。
「でも、それから両親は反省したらしくて、なにかと強制するようなことはしなくなたよ。受験はそんなに嫌じゃなかったんだけどな」
「そりゃ息子は大事でしょうが」
「ちょっと遊ぶ時間が増えて嬉しかったのも事実で、良かったと思うよ」
席を立って、飲み終えたカップを捨てに行く。
「そのままだと、やばかったんじゃないか。いろいろと、まだ6歳だし…」
「そうだと思う」
ドアを押して二人で外に出る。
一本の桜の木が、残り少ない花びらを散らせている。
「風流だね、徒桜」
「夢の中の桜の木、本当にきれいで忘れられないよ」
前を歩く隆に何か絡みついている。
「聡、どうした、送れるぞ」
「目に何か入ったかな…」
目をこすってみた。でも見える…
「いや、あのさあ」
その生物は隆におぶさったり、隣を並んで歩いたり、せわしなく隆にまとわりついてるが、本人は全く気づかない。
「ちょっと待ってくれよーなんかいるんだよ!」
「なんだよ、急ぐぞ」
聡が説明しようとしたときに、耳元で
「面白いことだろ!」とささやかれた。
そうかと思い直し、生物の顔をよく見ようとしたが、
生物はひゅるひゅると隆の中に入ってしまった。
「えっ!」
驚いて呆然としている聡の背中を、回り込んだ隆が背中を押した。
「聡、急ぐぞ!遅れる!」
二人は慌てて走り出した。
少しでも遅れると、欠席にしてしまう鬼講師なのだ。
強い風が一陣通り過ぎて、桜の花びらが舞い上がり
雪のように降っている。
ジン @pirikalua
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