第7話 ジン

生物は忽然と消えてしまった!辺りは真っ暗になり、桜の木もない。何も見えない。

暗闇があるだけ。

隆は目を凝らして、辺りを見回してみる。

遠くの方に、わずかな光が確かに見える。

隆は光に向かって走り出した!

僕には、翼はないけど、足があるから進める!


光が近づいてくるのか、自分が近づいているのか、

どっちなのかはわからない。

でも確かに光に向かっている。


不思議と苦しくはない。

ふいに、名前を呼ばれた。


気が付くとベットの上…

母が手を握っている。

父は難しい顔をして椅子に座っている。

姉の目は真っ赤だ。


そうか、僕は朝礼で倒れたのか…

「ここは病院?」

隆は身体を起こしながら母に聞いた。

答えはない。お母さんに抱きしめられて、少し身体が痛い。

「僕、生きてるんだね」

「生きてて良かった」

母が震える涙声で答えてくれた。

涙が溢れてしょうがない。

お母さんの着ている、ブラウスが濡れちゃいそうだ。


「お母さん!僕ね、夢を見ていたよ。不思議な動物に会ったんだよ…」


看護婦さんが部屋の窓を開けてくれた。

部屋中に桜の香りが立ち込めた。

耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。

「僕の名前はジン。僕はいつでも君の側に居るよ!愛してる」


隆は目を瞑り、身も心も温かく包まれてゆくのを、じっと感じていた。



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