【終】また明日

 二日後、修理が終わった千弥ちひろが登校した。


 今日も彼女は楽しそうに友達の輪に囲まれ、俺はいつもの友達たちと下らない話しをしていた。


「やべ! 次、移動教室じゃん!」


 友達の一人が声を上げると、俺ともう一人の友達は掛けてある時計へと視線を重ねる。

 時間は五分前、慌てながら筆箱や教科書を持つと廊下を小走りで駆けて行った。


 ──くそ、昨日の話題で盛り上がり過ぎた。


 いろんな生徒達を避けながら通っていくと千弥とその友達たちが見え、横を通り過ぎようとした次の瞬間──千弥の四角い体が斜めに倒れだした。


「あぶねっ!」


 走る列から瞬時に抜け、急いで反転すると彼女を間一髪のところで支えだす。

 千弥の友達たちはホッと胸を撫で下ろし、支えながら俺も釣られて息を溢した。

 痺れた手で千弥を置き上げ、一言だけ物申す。


「お前、ちゃんと治してもらったのか?」


 そういうとモニターのキャラクターモデルは唇を尖らせ、怒った様子で言い返してきた。


『まだこの体に慣れてないだけだよ!』

「ちょっとした段差で転びかけながらよく言う」


 千弥は、『言われた』と言いたげに恥じらうかのような表情を浮かべながらも笑みを作りだした。

 モニターに映る、優しく、新鮮な表情。


『でも、ありがとね穹一ひろかず君』

「おう」


 そう感謝すると千弥は先を急ぎ、俺を時折一瞥しながらも彼女の友達たちはその背を追いかけた。


 ──二人は先に行っちゃったし、どうせ次の授業は遅刻だからゆっくり行こう。


 と足を出した瞬間、左肩を強く掴まれ振り返ってみると──左手の人差し指が頬を刺し、俺は怪訝けげんそうな表情を浮かべた。


「なんだよ……合歓ねむ


 すると合歓は様々な角度から俺の顔を観察し、表情を変えぬまま喋りだした。


「イケメン、千弥と寄りでも戻したの?」


 凛としながら話してきた内容に呆れながらも、俺は言い返す。


「ちげぇよ」

「はぁ?」


「……フラれたんだよ」


 ──コイツにだけは言いたくなかったのに。


 心の中で舌打ちをしていると合歓の白い頬は徐々に緩みだし、眸すらも笑っているように見えた。


「ふぅぅ~~~ん?」


 五月蠅うるさい絡み方をされる前に早く行こうと急ぐも、彼女は足並みを揃えて俺の顔を覗き込んでくる。


「俺がフラれたのがそんなに面白いか」

「そうじゃないよ~別にぃ。ねぇ、今日夜飯おごったげよっか? 愚痴なら聞くよ?」

「……いらねぇよ」


 溜息をきながら拒絶する俺に、合歓は小悪魔的な哄笑を見せる。


 そして、一緒に次の授業を遅刻してしまった。

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【完】私にさよならをして 糖園 理違 @SugarGarden

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