第一章

第一節 人里と寂れた教会

 空が嗚咽おえつらすのをこらえている彼は誰時かはたれどき。四方を囲む山々によって周囲の国々から守られているフィリルリア王国。その西の端に位置するセシア村。その村のさらに西の辺境に、シスター2人と親に捨てられた捨て子のみが暮らしている教会があった。その教会は小さく、そしてとても古びていたが、雨風をしのげる程度にはその形を保っていた。


 その入口の脇の、荒れた庭の茂み。その中からは泣き声が響いていた。


 「ーーーー!!」


 「?」


 雨風の音で幾許いくばくかかき消されてはいたものの、1人の少女がその声に気付く。幼さの残る顔立ちの少女は、入口の扉を開き、泣き声の方へと視線を向ける。すると、布に包まれ、籠に入った赤ん坊が捨てられているのを見た。

 真っ白な肌に赤いまなこ、そして黒い髪を持つ赤子。人族の中では不吉な色とされている黒の髪に少女はまたたきの間顔をゆがめるが、それでも憐れみの念を抱いたのか、その子のもとへと歩を進め拾い上げ、胸元へと抱き寄せた。


 「可哀想に……」


 彼女は赤子の髪を撫で、呟く。


 「こんなところに赤ちゃんを捨てるだなんて、酷い親も居るんだね……」


人の温もりを感じて安心したのか、赤子は次第に静かになり、寝息をたて始める。


「いくらみ子だったとしても酷いよ」


少女は教会の教えを思い出しながら声を震わせた。

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天使族と悪魔族の間に生まれた忌み子は、人族として冒険者となる【世界で唯一の聖魔族、二柱の神へ叛逆を決意す。】 羽流 @Toki0550

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